AIの活用で採用活動をマーケティング化するDXプラットフォーム「Myシリーズ」を展開し、2025年3月に東証グロース市場へ上場した、株式会社TalentX。
代表取締役社長CEOの鈴木貴史氏は、新卒で入社した株式会社インテリジェンス(現パーソルキャリア株式会社)在籍時に既存の採用手法に課題を感じ、企業の人材獲得力強化を目指し起業した。
同社のプラットフォーム「Myシリーズ」は、リファラル採用、採用MA、採用ブランディングなど採用マーケティングを推進するモジュールで構成し、多くの時価総額上位企業が導入する。鈴木氏に、創業時の思いから上場時の戦略、そして今後の事業展開を聞く。
企業サイト:https://talentx.co.jp/
目次
インテリジェンス在籍時に感じた採用手法の課題から創業
── どのような思いから創業したのかを教えてください。
鈴木氏(以下、敬称略) もともと私は、インテリジェンス(現パーソルキャリア)という会社に新卒で入社しました。
いずれ起業しようと志していましたが、インテリジェンス(現パーソルキャリア)で大手IT企業を中心とした中途採用支援の法人営業を担当する中で、日本の採用手法の課題を目の当たりにしました。
企業が人材募集を行う際、人材紹介会社や求人メディアを活用することが一般的でしたが、SNSやテクノロジーの発達により情報の透明性が増す中、外部に依存した採用手法だけでは企業にとっても個人にとっても本質的なマッチングは生まれないのではないかという課題感を持つようになりました。
そこで、企業自らが人材獲得力を強化する必要性を感じ、リファラル採用を軸としたプロダクト「MyRefer」を開発し創業。その後、数年で株式会社TalentXを設立し、MBOを経て7年で上場に至っています。
── 上場を目指した背景や思いを教えてください。
鈴木 外部のファイナンスを通じて、事業を加速させたいとの思いがありました。また、社会的価値を発揮するため、自らパブリックカンパニーとなることを当初から考えていたことです。
特に、私たちが推進する「タレントアクイジション(優秀な人材の戦略的獲得)」という、日本にはまだなかった概念を広めるためには、パブリックなブランドを通じて市場をつくることが、ビジョン実現に直結すると考えました。
IPOでは「そのマーケットで最初の上場企業になること」を意識
── 社長の中で最も大きなターニングポイントは何でしたか?
鈴木 コロナ禍で、「MyRefer」をリファラルプラットフォームから「Myシリーズ」という、リファラル以外にも拡張したプラットフォームへと変化させたタイミングですね。
人材業界はマクロ環境の影響を受けやすいのですが、私たちは企業の採用コストを圧縮しながら人材を吟味するSaaSを提供するため、むしろこの変化を機に事業開発を進められました。プラットフォームを拡張したことで、事業成長に拍車がかかったと感じています。
── 採用を抑える企業が多い中で、逆に伸ばせたのですね。
鈴木 はい。もちろん一部の産業には影響がありましたが、私たちのビジネスは業界特化ではないため、コロナ禍でも伸びる産業にフォーカスできました。
── 上場までの過程で、一番大変だったことは何でしょうか?
鈴木 どのタイミングで上場するか否かの問いに答えることですね。
目標を達成し、適切なバリュエーションで証券会社と合意形成を図るのは、しっかりやっていけば進められるプロセスだと思います。しかし、今上場するのか、もう少し待つのかという判断は、最も難しかったです。
── 投資家とのコミュニケーションの中で、タイミングを見極めるのが難しかったのでしょうか?
鈴木 いえ、投資家からの具体的な時期の要望はなく、私たちの判断に委ねられていました。
── 社長が「このタイミングで上場すべきだ」と思われた一番の理由は、何でしたか?
鈴木 マーケットにおける「一丁目一番地」のポジションを確立することです。新しい市場をつくる際に、最初に上場するか二番目かでは、ポジショニングが大きく変わります。最初に上場した企業が、その後に続く企業の比較対象となるからです。
私たちは、タレントアクイジション市場において最初に上場することでの市場のリードを最重要視しました。特に2025年は、労働人口減少や生成AIの台頭により、採用市場が大きく変化するタイミングだととらえていました。
なぜ宣伝広告費を圧縮し、営業利益率20%を実現できるのか
── 労働人口の減少が追い風である理由、そして競争優位性をどのように構築するのか、教えてください。
鈴木 人材獲得市場は、今後も伸びると確信しています。日本の労働人口は減少し続ける一方、企業は生産性向上のために求人を増やしています。この需給ギャップの中で、既存の手法では転職を考えている層の獲得競争が激化しており、転職を考えていない転職潜在層にどうアプローチするかが重要です。
私たちは、SaaS事業で顧客数を増やし、アップセルを通じて単価を上げ、解約率を低く抑えることを目指しています。エンタープライズ向けのサービス提供を強化し、単価向上と解約率の改善を図るとともに、プロダクトをプラットフォーム化することで顧客体験の向上と継続利用を促しています。
── 転職潜在市場を具体的にどのように開拓するのでしょうか?
鈴木 たとえば「MyRefer」は、従業員が持つつながりからまだ転職を考えていない候補者にアプローチします。「MyTalent」は、過去の応募データを活用しAIを用いて転職意欲が高まったタイミングでアプローチ。「MyBrand」では、ノーコードで採用オウンドメディアを構築し、企業の採用ブランディングを支援します。
これらのサービスを通じて潜在層を引きつけ、ナーチャリングし、長期的なコミュニケーションでコンバージョンへと導いています。以上は、グローバルにいわれる「タレントアクイジション」であり、単なる「リクルーティング」とは異なります。
── なぜ、これまで日本でタレントアクイジションが浸透しなかったのでしょう?
鈴木 2000年ごろまでは、必要な人材を人材紹介会社に依頼するのが一般的でした。
しかし、インターネットやSNSの普及、そして労働人口の減少が拍車をかけ、特にエンジニアなどの専門職を採用する場合、既存の手法は通用しづらくなりました。結果、ダイレクトリクルーティングなどが広がり、リファラル採用という新たな概念を提唱した私たちのモデルがフィットする流れになったのです。
── リード獲得や顧客ナーチャリングでは、どのような施策をどのような規模で展開するのでしょうか?
鈴木 私たちはユニークなブランドポジションを確立しているため、広告宣伝費に多額の投下をしていません。ブランドポジションを生かして市場をリードすることを、心がけています。
売上高に占める広告宣伝費の割合は非常に低く、営業利益率も20%近く出ています。これは、「MyRefer」「MyTalent」「MyBrand」という3つのモジュールを、「タレントアクイジション」というプラットフォームでの統合的な運用で実現できたものです。
たとえば、リファラル採用を強化したい企業は「MyRefer」へ、採用ブランディングを強化したい企業は「MyBrand」へアクセスすれば、希望する取り組みが実施できます。一つのIDですべてのプラットフォームにアクセスできるため、効果的なクロスセルも可能です。
マーケティングでは、この「タレントアクイジション」という概念の啓蒙と、エンタープライズ顧客における業界ごとのセンターピンとなる企業への営業活動に、注力しています。
── エンタープライズ顧客に対して、どのように営業しているのですか?
鈴木 組織面ではSaaS型営業組織と人材型営業組織のハイブリッド体制で臨んでいます。
従業員数が5000人以上の企業の9割はハウスリストに掲載されており、そこに対してインサイドセールスと連携しながらナーチャリングを進めています。また、直近では「タレントアクイジションカンファレンス」を主催し、400社もの企業が参加しました。
広告宣伝費をかけずに集客できているのは、ブランドポジションが確立しつつある証だと考えています。
プラットフォーム「Myシリーズ」をAIドリブンに進化
── プロダクト開発について、今後どのような機能追加や方向性でブラッシュアップを行う予定ですか?
鈴木 AIを活用した採用マーケティングの自動化が、今後の大きな方向性です。「AI X Lab.」を設立し、候補者の転職意欲をAIで測定したりスカウト配信を自動化したりが可能な機能開発を進めています。
「MyRefer」では、社内への広報活動を部署や職種に応じて自動化する機能もリリースしました。グローバルでは、AIをコアとした採用マーケティングの自動化と、それによる体験価値の創出が進んでいます。
また、「MyBrand」へのAI実装も強化します。さらに、個別のモジュールだけでなく、プラットフォーム全体の強化にも力を入れています。新しい機能開発に加え、パートナー連携やM&Aも視野に入れ、自社でつくるよりも早いと判断した場合は積極的に取り込む考えです。
── リファラル採用を導入してもワークしない企業も多いと聞きます。どのようにリファラル採用を活性化させているのですか?
鈴木 社内広報を巻き込み、動機づけする仕組みが必要です。単なるインセンティブだけでなく、個社ごとに最適化されたリワード(報酬や特典)設計が不可欠です。
当社では、紹介したタイミングで何かがもらえる仕組みを提供しています。広報活動、動機づけ活動、そして行動促進という3つの要素を組み合わせることで、リファラル採用の活性化を実現します。
多くの企業が制度導入で終わってしまうのに対し、私たちはデータに基づいた運用で効果を最大化しているということです。
── リファラル採用がワークしやすいのはどんな企業ですか?
鈴木 一般的にはWeb系企業が実施しやすいと思われがちですが、そうとは限りません。最近では、介護施設や生命保険業界でも積極的にワークしています。もちろん、業界ごとに進め方は異なるでしょう。
また、「WORCS※」の定義も重要です。社員からすると浸透していないと思っていても、年間十名程度の採用が決まれば、それは大きなインパクトとなります。
※TalentXが提唱する、企業が従業員に提供できる価値を言語化するフレームワーク
統合的プラットフォームの背景にある組織設計
── 組織の強みと、今後の拡大における課題、そして拡大計画について教えてください。
鈴木 私たちの強みは「イノベーション&エグゼキューション」、すなわち変革と実行力です。世の中にないものを生み出し、その概念を広め、実行しきること。たとえば、日本初の「リファラル採用」や「アルムナイ採用」「タレントプール採用」といった概念をいち早く導入し、広めてきました。
今後の課題としては、事業の成長尺度に即した組織を最適化し続けることが、重要だと考えています。管理職の数が足りないといった「ベンチャーあるある」な課題に対して、先回りして対応する必要があります。新卒採用も毎年十数名行っており、彼らの育成も重要なテーマです。
── ゼロイチを生み出し、それを実行しきるという強みは、プラットフォーム開発にも生かされているのですね。
鈴木 はい。一つのIDですべてのモジュールにログインできるプラットフォームの構築は、非常に難しい。しかし、初期設計段階から組織設計に組み込んでいるため、全体最適を意識した開発ができます。
これを支えているのは、私たちのバリューの一つである「Be Columbus(コロンブスの卵であろう)」と「Bold Mistake(果敢な失敗をしよう)」、そして、誰よりもスピードを意識する、月末ギリギリまで数字にコミットする、といった実行力を重視する文化です。
── 調達した資金を、今後どのように投資する計画ですか?
鈴木 プロダクト開発とセールス部門の拡大に、重点的な投資をします。生成AIの民主化が進む中で、このタイミングで加速する必要があるからです。セールス部門は、上場とともに知名度を生かして拡大しています。顧客数拡大を進めるとともに、M&Aも活用して事業を成長させます。
── TalentXのセールス人材は、どのような方々でしょうか?
鈴木 「走りながら考えられる人材」が活躍しています。エンタープライズ向けに、お客様の要件を整理し課題解決を行うソリューションセールスには、考える力と、それを実行に移す行動力が不可欠です。
経営視点や事業視点も必要ですが、お客様の課題を深く理解しソリューションを提供できる力が最も重要です。
── 会社や事業が社会にどのような価値をもたらすのか、教えてください。
鈴木 日本の生産性を高める上で、日本企業の人材獲得力を高めることは必要不可欠です。私たちはその推進役を担っています。
かつて一人当たりの名目GDPで世界3位だった日本が、今や38位にまで落ち込み、時価総額ランキングでも日本の企業が上位に入らない状況は、産業構造の改革などさまざまな要因があります。
一方で、人材獲得力の低さも不振の一因です。人材紹介会社に丸投げするのではなく、採用を事業成長のための戦略、マーケティングとしてとらえ直す必要があります。難易度は高いですが、HRの歴史を塗り替えたい。そんなビジョンを持っています。
私たちのプロダクトは、単に採用ができるだけでなく、導入企業の採用力、ひいてはその企業の価値自体を高めるものです。
- 氏名
- 鈴木貴史(すずき たかふみ)
- 社名
- 株式会社TalentX
- 役職
- 代表取締役社長CEO

