MBOにより株式会社ディスコから独立、東証スタンダード市場への上場を果たすまで、独自の技術と戦略で成長を続けてきた株式会社テクニスコ。特に、革新的なヒートシンク(熱対策)素材「シルバーダイヤ」は、AIやデータセンターといった最先端産業の熱問題の解決に貢献可能、同社の新たな成長エンジンとして期待されている。
ディスコに入社後、子会社だったテクニスコに移り、現在は代表取締役社長CEOを務める関家圭三氏に、創業の経緯や、3度挑戦したという上場について、今後の経営戦略や展望を聞いた。
企業サイト:https://www.tecnisco.com/
3度の上場挑戦と「シルバーダイヤ」の誕生
── スタートはディスコの子会社だったそうですね。
関家氏(以下、敬称略) ええ。当社は1970年2月設立、株式会社ディスコの子会社としてスタートし、当初はディスコが持つ切断技術を活かし、精密部品の受託加工メーカーとして装置を導入しないお客様の切断加工ニーズに応える形で事業を展開していました。
その後、お客様からのさまざまな要望をうかがううちに、切断・研削といったディスコの装置を使った加工だけでなく、その前後の工程である接合やメタライズ(金属形成)といった要望も増え、事業の幅が広がっていきました。
これにより、ディスコの事業とは徐々に異なる方向へと進化していったのです。私がテクニスコに関わり始めた2005年ごろには、ディスコが半導体分野を主軸とする一方、テクニスコは精密部品加工を主軸とする、独立した事業体となっていました。
私が着任したころは、ガラスの穴あけ加工、特にマシニングセンターによる穴あけが主力ビジネスで、売上の半分近くを占めていました。しかし、一つの製品に売上の大半を依存することはリスクが高いと考え、新たな事業の柱を探し始めました。当時たどり着いたのが、スマートフォンのカバーガラスの形状加工です。
スマートフォンのカバーガラスには、一般的なガラス板と、当社が手掛けていたタッチパネル機能を一体化したガラスの2種類がありました。iPhoneはタッチパネル層とガラスを別々に製造していますが、当時の多くの日本のメーカーは、2枚の層を1枚にまとめる一体型を採用していました。これによりガラスの厚みが薄くなり、初期のスマートフォンで問題となっていたタッチ位置のずれが軽減されるというメリットがありました。
この一体型ガラスは加工が非常に難しく、多くの企業が挑戦するも困難を極めるなか、当社の技術が注目されたのです。
この仕事は、従来のガラス加工と並ぶ二本目の柱になると期待していましたが、予想をはるかに超える規模のビジネスへと成長しました。
しかし、その結果、もともと主力だったビジネスが減少するという事態も生じました。一つの大きな塊に依存するリスクを再び認識し、新たな事業を探すという繰り返しでした。その後もスマートフォンのカメラ部品などメインビジネスを次々と変えていきました。
── 最も苦労されたことは何でしたか?
関家 最も苦労したのは、やはり一つの大きなビジネスの塊が、事業の柱であると同時にリスクにもなるという点です。リスクを低減し、三本の柱を持ちたいと考えていましたが、新たな柱ができると、それまでの柱が崩れてしまうという状況に苦慮しました。
また、当社は長らく受託加工が中心で、お客様の図面に基づき、材料を他社から調達して製品を製造していました。
自社素材製品を持たない限り、上場後も安定した経営は難しいだろうと考えていました。その点、当社が量産化にこぎ着けた「シルバーダイヤ」は、当社が製造する初の高機能ヒートシンク素材製品であり、これにより上場への準備が整ったと認識しました。
当社はこれまで何度か上場に挑戦し、3度目の正直で上場を果たしました。
最初の挑戦は私が着任する前の2000年、ITバブルのころでした。当時は国策として「ファイバー・トゥ・ザ・ホーム」が推進され、日本全国で光ファイバーの通信網が拡大していました。そのなかで、光通信の増幅装置、レーザー増幅装置用のヒートシンクが当社の主要製品でした。ITバブルの恩恵を受け、前年の売り上げが3倍に膨れ上がるという急激な成長があり、当時の社長が上場を検討しました。しかし、ITバブル崩壊とともにその計画は頓挫しました。
その後、私が取締役に就任した2005年ごろからガラス加工ビジネスが台頭し、社長に就任した2009年にはそれが中心となりました。スマートフォンのカバーガラス加工が主力となった2010年前後には、再び上場チャレンジに向けて準備を進めました。
そして2023年の上場では、先ほどお話しましたとおり、「シルバーダイヤ」の登場が大きな契機となりました。これはヒートシンク素材ですが、これまでにないほどの熱を受け取る能力を持つ素材であり、この革新的な素材を使った製品を世に出すタイミングとして上場に至ったのです。
展示会・SNSでシルバーダイヤを知ってもらう
── 市場の成長性、そのなかでどのように優位性を発揮するのか、教えてください。
関家 今後、当社の中心となるのは新製品の「シルバーダイヤ」です。これは、かつてないほどの能力を持つ画期的な製品です。
これまで当社は、特に昨年までは半導体レーザー、すなわち高出力レーザーの発振器向けのヒートシンクが主流でした。鉄板の溶接や切断に用いられるような強力なレーザーの発熱を逃がすためのヒートシンクです。
そこで使用していたヒートシンク材料の熱を受け取る能力は、数値で言えば200ワット(W / m・K※熱伝導率)から250ワット程度でした。しかし、今回開発した「シルバーダイヤ」は、その能力が約1000ワットに達します。これは従来の4倍から5倍の能力であり、これまでの世の中にはなかった製品を市場に投入することになるため、極めて高い優位性を持っていると確信しています。
また、これまでのターゲットは高出力レーザー用途が主でしたが、「シルバーダイヤ」の1000ワットという能力は、より広範な市場に展開する可能性を秘めています。
たとえば、現在注目されている生成AIやデータセンターなど、熱問題に苦慮しているハイテク市場は非常に多い。これらの分野で新たな市場を創造できると考えています。技術革新によって、当社が戦うフィールドも変化し、今後も進化していくでしょう。
── 顧客獲得はどのように計画していますか?
関家 まず当社の製品を知っていただくことが重要です。現在、世界中の展示会に出展し、知名度向上に努めています。当社の製品、特に「シルバーダイヤ」の1000ワットという能力は、技術者の皆様に大変興味を持っていただけるため、そこを切り口に技術者との面談につなげ、採用していただけるよう働きかけています。この製品の性能は圧倒的なので、その存在を広く知っていただくことだと思っています。
我々は、開発のトップや責任者の方々とつながることを重視しています。開発の初期段階から共同開発のような形で深く関わることで、次世代の開発に食い込むことができます。担当者レベルではどうしても時間がかかりがちなので、開発のトップに近い方々と関係を構築することが重要だと考えています。
そのために、LinkedIn(リンクトイン)のようなビジネス特化型SNSの活用で、そういったポジションの方々にダイレクトメールを送ることも行っています。また、ハイテク業界は意外と狭い世界であり、業界内で転職される方も多くいらっしゃいます。以前当社製品を使っていただいた方が、次の会社でも重要ポストに就かれて、再び使っていただくといったことがありますので、人間関係やつながりも非常に大切にしています。
また、当社を知ってもらうためには展示会が手っ取り早いと考えています。大規模なものだけでなく、学会に併設された展示会なども重要です。そういった場には有力な開発者が集まることが多く、効果的なアプローチができます。
製品ラインアップの拡大のため韓国TGS社と提携
── 今後のサービスや商品のブラッシュアップ、あるいは新商品展開といった展望について教えてください。
関家 「シルバーダイヤ」を中心に据えつつ、お客様の要望をうかがい、製品をより使いやすくしていくことに注力します。
また、製品のラインアップを広げることも喫緊の課題です。これまでの200ワットから250ワットの製品から、いきなり1000ワットの製品へと飛躍したため、その間の能力を持つ製品もレパートリーとして持ちたいと考えています。
そのため、韓国のTGS社(THE GOODSYSTEM CORP.)と提携し、最近、TGS社から役員を迎え入れました。これにより製品ラインアップを増やし、お客様がA社かB社の製品を選ぶのではなく、テクニスコのA製品かB製品かを選べるような展開を目指しています。
現在、お客様のほとんどが海外であり、「シルバーダイヤ」の需要も海外、特にハイテク産業が盛んな地域で非常に大きいと感じています。国内市場は評価に時間を要するため、芽が出るまでに時間がかかる傾向があります。
── 組織面での強みと、解決すべき課題は?
関家 ハイテク業界で生き残るためには、開発力を強化しなければなりません。
これまでは、お客様からの要望を受けて開発を進める、いわば受け身の開発スタイルが中心でしたが、今後はより能動的に、市場をリードするような開発へと転換する必要があります。そのため、どのような人材が必要か、どのような組織であるべきか、議論を重ね、変革を進めているところです。
これまでは小さな会社として、経験値に基づく技術開発が中心でした。今後は経験値だけでなく、理論や知識に基づき、科学的に物事を考える開発を目指したいと考えています。経験から「こうすればうまくいくのではないか」という試行錯誤の繰り返しではなく、「こうだからこうなる」という理論的な裏付けを持った開発を進めていきたいのです。
この変革を推進するため、TGS社から迎え入れた役員は、まさに科学的な思考ができる人材です。東北大学の大学院で応用物理の博士号を取得しており、金属の物性に関する豊富な知識と科学的な分析力を持ち合わせています。彼をCTO(最高技術責任者)に任命し、技術開発全体を任せるという新たなステージに入ったところです。
── 競合他社、たとえば京セラ様なども競合になると存じますが、そういった大手競合に打ち勝っていくための経営資源の選択と集中、差別化戦略について、どのようなビジョンをお持ちでしょうか。
関家 もともと京セラ様やMARUWA様といったセラミックを扱う会社は、ヒートシンク材料を製造する競合でした。極端なことを言えば、我々は彼らから材料を仕入れて、彼らと戦っていたのです。これまでの200ワットから250ワットの世界では、それが当社のビジネスモデルでした。
しかし、当社の「シルバーダイヤ」は京セラ様もMARUWA様も持っていない、まったく新しい製品です。彼らに打ち勝つためには、自社で材料を持つ必要があると、この10年から15年間言い続けてきました。そして今、その材料が手に入ったのです。これにより、大手競合に打ち勝つための戦略の基盤が整ったと認識しています。
現在は世界中の営業を任せる専務をCBO(チーフ・ビジネス・オフィサー)として権限を委譲することで、自由な裁量のもとで新たなビジネスチャンスを積極的に獲得してもらえる環境を整えています。
ハイテク分野は右肩上がり 愚直に株価アップを目指す
── 事業ポートフォリオを広げてリスクを分散する計画はありますか?
関家 リスクはつきものですが、当社は現在、ハイテク分野に絞り込んでいます。この分野は必ず右肩上がりの成長を続ける市場であると見ています。その中でも波はあるでしょうが、かつて半導体業界にあったシリコンサイクル(4年周期の景気循環)は今やなくなり、継続的な成長が続いています。つまり、もともと伸び続けている市場を選んでいるため、そこで大きなリスクはないと考えています。
── 今後の事業拡大における資金調達の可能性や計画、またこれまでどのように資金調達を行い、活用してきたか教えてください。
関家 これまでは銀行借り入れが中心でしたが、上場したからには市場からの資金調達を行いたいという前提がありました。
しかし残念ながら、上場直後から既存製品の減衰と新製品の立ち上がりのずれが生じ、赤字決算を出してしまったため、株価が低迷しています。そのため、市場からの資金調達が困難な状態が続いています。
現在も金融機関との関係は良好で銀行借り入れで資金を確保しております。今後、業績および株価を上げることで市場からの調達も選択肢とし、成長と配当をもって投資家の皆様に還元できる体制にしていきたいと考えています。
株価については、業績を愚直に追い求めることが重要です。まだ投資家の皆様の期待にお応えできていない状況ですので、シルバーダイヤビジネスを軌道に乗せることで業績を伸ばし、配当を開始することが必要だと考えています。
── 今後御社のどういったところに注目してほしいと思いますか?
関家 当社の「シルバーダイヤ」は、極めて優れた製品です。しかしこれまで市場にないまったく新しい製品であるために、お客様の評価が長引いており、業績貢献には至っていませんが、量産が始まれば需要が大きく拡大すると確信しています。また、この製品が貢献する市場は、皆様もご存じの通り、非常に成長性の高い分野です。ぜひ、将来性に期待していただければと思います。
- 氏名
- 関家圭三(せきや けいぞう)
- 社名
- 株式会社テクニスコ
- 役職
- 代表取締役社長CEO

