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(写真=PIXTA)

僕らはふつう、たいていのものごとには原因があって結果があると考える。すなわち因果関係である。ところがHEC経営大学院教授のイツァーク・ギルボアは著書『合理的選択』のなかで、マクロ経済学、金融、政治学、社会学等では多くの因果関係がいまだ特定できていないと述べている。この言葉を紹介したのは2013年6月に出版した自著『9割の負け組から抜け出す投資の思考法』のまえがきである。そこではこうも述べた。

「因果関係を特定するのが難しい理由は、人間の行動が必ずしも合理的であるとは限らないからだろう。そうした非合理的な人間の行動を表現するマクロ経済学、金融、政治学、社会学等は、『予想どおり不合理』(ダン・アリエリー)となる。僕たちはそうした因果関係もよくわからない世界に住み、明日を知れぬ世の中を生きていかなければならない。そのうえで、さらに株式という得体の知れないものに投資をするのだということを改めて認識することを本書の出発点としたい。」

株式相場においても因果関係がある場合のほうが少ないような気がする。よくメディアから取材の電話がかかってきて、「昨日はなんで上がったんですか?」「今日はなんで売られているんですか?」と聞かれ、もっともらしい理由をひねりだすのだが、ときには面倒くさくなって、「株というものは、たいした理由がなくても上がったり下がったりするものなんですよ」と答えたりしている。

最近の株式市場急落を巡るメディアの報道では、「中国景気減速懸念」のオンパレードである。中国の景気が失速する不安で株が下落しているという論調がほぼすべてのようである。僕はこれにはすごく懐疑的である。突拍子もない考えかもしれないが、仮に株式市場が急落していなかったら、中国景気の減速はこれほどまでに報じられることはなかっただろう。つまり、原因と見られている中国景気不安と、結果と見られている株式市場の下落の間に、因果関係がないばかりか、順番が逆だと思うのである。

たとえば日本株。日経平均はわずか4営業日で2000円超も下げた。しかし、それでも先週の木曜日は終値で2万円を保っていた。1週間余り前、先週の月曜日は2万600円台とほぼ高値圏にあった。わずか3日で、あるいはわずか1週間で、これほど株価の水準が変わるほど、中国景気が悪化したのだろうか。

無論、そうではない、日本株が急落した、真の理由はグローバル株の - もっと端的に言えば、米国株の - 下落に巻き込まれたからである。ざっくり言えば、世界的に株が売られたから日本株も売られた、ということに尽きる。

著名ヘッジ・ファンド投資家であるジョージ・ソロス氏が唱えた「リフレキシビティ」という理論がある。日本語では「再帰性」とか「相互作用性」と訳されている。本来は投資家の判断や認識によって証券価格が形成されるはずだが、証券価格のトレンド自体が投資家の判断に影響を及ぼすというものだ。強いトレンドが相場の正当性を投資家に認識させ、更に価格が上がる自己増強メカニズムをソロス氏は再帰性と呼んだ。

今回の世界的な株式相場の大幅安は、まさにこの再帰性が下方に強く示現したように思われる。相場急落の震源地は中国・上海市場だったが、それが各国市場に伝播し連鎖安となった。グローバルな市場同士が共振し、足を引っ張り合う。

実際、昨日の日経平均は1万9000円絡みで下げ渋る兆しを見せたものの、上海株が再び下げ足を速めると、日本株も再び売り物に押された。そうしたアジア市場の全面安を見て欧米株もまた下げる。悪循環のループから抜け出せない。そのこと自体が投資家心理の不安を増幅させている。つまり、市場の動きそのものが最大の悪材料なのである。

パニック商状となってはテクニカル分析も業績をベースにしたバリュエーションも役には立たない。喩えるなら、ヒステリーを起こして泣き止まない子供に向かって、「落ち着け、冷静になって考えろ」と言っても無駄なことだ(この喩えを「女性」としないで「子供」としたところが僕の賢明なところである。)

ソロス氏の再帰性理論で重要な点は、市場のトレンドと投資家の認識がファンダメンタルズにまで変化を及ぼす可能性があるという点である。

ファンダメンタルズ⇒投資家の判断⇒市場価格

という順で相場が形成されるなら美しいが、時には、いや、往々にして

市場価格の動き(トレンド)⇒投資家の判断

と順序が逆になることは既に述べた。そしてさらに、市場価格の動きがファンダメンタルズにも影響を与えることがある。そうなると、もはや「ファンダメンタルズ」「投資家の判断」「市場価格」というのを直線的につなげるのは不可能で、これらが相互に影響を及ぼし合うと捉えるべきだろう。

市場のトレンドと投資家の認識がファンダメンタルズにまで変化を及ぼした典型例はリーマンショックである。リーマンショックではまず株価が暴落したが、その時点では企業業績に変化はなかったためにバリュエーション指標では強烈に割安感が台頭した。しかし、それは「割安に見えた」だけであり、その後世界を襲った未曽有の金融危機と世界同時不況で脆弱な日本企業の利益があっというまに吹き飛んでしまったのである。

よって足元の世界的なリスクオフで考慮すべき一番のポイントは、やはり企業業績がどう変化するかだ。為替が急激に円高に振れているが、この程度では問題ないだろう。よりベーシックな業況に与える影響はどうだろう。東証1部企業の全売上高に占める中国比率は約5%との推計がある(8/7付日本経済新聞「スクランブル」)。この場合、中国での売り上げが仮に壊滅的な状況になっても、日本企業全体でみればたかが知れている。

そもそも今回の世界株安の原因を「世界景気の減速懸念」とする声も一部にあるが、まったく理解不能である。中国景気減速はまだ大目にみるとして、日米欧の先進国・地域の景気は堅調といっていい。新興国・産油国は厳しいとしても、「世界景気の減速懸念」はオーバーである。日本に限れば原油安は恵みの雨以外の何物でもない。総悲観に傾くと、ポジティブな面にすら目を閉ざしてしまいがちである。

下げ止まりの兆しがある。米国市場のアップルだ。典型的な三尊天井でピークアウトが警戒されていたアップルは今月初めに200日移動平均を下抜けて、一気にチャートが悪化した。市場に先行して売られてきた銘柄だったが、昨日は2.5%安と市場対比で小さな下げにとどまった。アップルは92.00ドル(13%安)まで一時売られたが午後にかけて2.8%高の108.79ドルまで上昇する場面があった。

チャートをみてほしい。長い下ひげを引いた陽線で、下げ止まりのサインに見える。アップル以外でも、マイクロン(MU)やスカイワークス(SWKS)、ネットフリックス(NFLX)、インテル(INTC)、シーゲイト(STX)、アバゴ(AVGO)など一時値上がりに転じた銘柄がハイテクセクターに散見された。SOX指数(フィラデルフィア半導体株価指数)もアップル同様の陽線で終えている。

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日本株市場でアップルのような銘柄を探せば、ファナックと言えるだろう。「ファナック・ショック」が記憶に新しいと思われるが、そもそも中国景気減速不安で叩き売られた銘柄の先駆けである。先行して売られた分、このところの相場急落では底堅いともいえる動きだ。

日経平均が約600円の急落となった先週金曜日にファナックは1.55%安。昨日、日経平均が900円近く暴落するなか、1.7%安にとどまっている。しかも、チャートがアップル同様、三尊天井から200日線を割って急落し、その後、足元では金曜日に陽線、昨日が十字足と底入れの機運がある。

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米国ではアップル、日本ではファナックなど先行して売られた銘柄に下げ止まりの兆しが見える。「もうはまだなり、まだはもうなり」かもしれない。所詮、ここは「理屈」ではない。「ガッツ」の勝負である。

広木隆(ひろき・たかし)
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト

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