『ピーター・リンチの株の法則』が20年ぶりの新訳となって出版され、今また話題になっている。ピーター・リンチは1944年に米国マサチューセッツ州に生まれ、苦学して大学・大学院に進み、2年間の兵役を終えてから1969年に大手資産運用会社フィデリティに入社。証券アナリストなどを経て、同社の投資信託である「マゼラン・ファンド」の運用を1977年から13年間担当し、1990年に運用の一線を退いている。
リンチがウォーレンバフェットと並び称せられるほど有名になったのは、このマゼランの運用において飛躍的に高い成績を記録したことに起因する。リンチが1977年に運用を引き継いだ時には、マゼランは資産1,800万ドルの小規模なファンドでしかなかったが、その後2ケタのリターンを記録し続け、歴史に残る大型ファンドへと成長を遂げることとなる。
1990年にリンチが退任した時のマゼランの資産は140億ドルであり、この額は引き継いだ時のほぼ777倍に相当する。また、この在任期間であった13年間に記録したリターンは年率換算で約29%に達する高率となっているのだ。
ピーター・リンチは徹底した企業調査に基づく長期投資派
こうした輝かしい投資業績をみると誰もがその投資法にあやかりたいと思うものだが、ピーター・リンチの投資スタイルは、とにかく徹底した企業調査を行うところにあり、しかもそれによって見出した株は長期にわたり保有して、繁栄し続けるかぎり売却しないという徹底ぶりを貫いていることにある。
市場の銘柄を6つのカテゴリーに分類し徹底分析
リンチはあらゆる銘柄を6つのカテゴリーに分類してそれぞれの特徴を分析している。その6つとは、①低成長株、②優良株、③急成長株、④市場関連株、⑤業績回復株、⑥資産株である。この6つのカテゴリーごとに株価の動きの特徴を分析し、その流れに沿った投資を行っているのだ。
株式銘柄選択時に重要なのは13項目と定義
またリンチは、具体的な銘柄選択時に重要な項目として以下の13項目を挙げている。
①面白みのない、または馬鹿げている社名
機関投資家が買おうとしないので、割安で放置されやすい。
②代わり映えのしない業容
プロが注目しにくく割安放置確率が高い。
③必ずしも感心しない業種
アナリストが推奨しにくい。
④分離独立した会社
大企業による独立部門は、失敗により親会社が傷つかないように良好な財務内容を持っていることが多く、独立するに十分な備えを持っている。
⑤機関投資家が保有しておらず、アナリストがフォローしていない会社
こうした投資対象外の銘柄の場合、割安に放置されている確率が高い。
⑥悪い噂がある会社
評判が悪いだけに、投資対象としては放置される傾向が強い。
⑦気がひける業態の会社
たとえば葬儀屋など、機関投資家などが敬遠するような銘柄もねらい目と考える。
⑧無成長産業
無成長産業は、新規参入が少ないため競争の心配がなく高収益を確保することが可能である。
⑨ニッチ産業
独占事業で参入障壁が高く、価格決定権を握る事が容易である。
⑩継続的な購買を提供する商品
医薬品やFMCGなど、常に継続購買の対象となる商品を扱う企業。
⑪テクノロジーを使う側の企業
テクノロジーのビジネスプロセスへの反映によりコスト削減が図られる。
⑫インサイダーが好んで買う株
会社の経営層をはじめとする層が自社株を買っているのは、その会社が上手く行っていることの証拠である。
⑬自社株買い銘柄
株主に報いる最も簡単で最良の方法である。
以上のように、かなり穿った視点も目立つが、こういう目利き感で銘柄を独自にフィルタリングしてきたということは実に注目に値するポイントといえる。
最終的な投資のチェックリストを用意
さらにリンチは、前述の6つのカテゴリーごとの株について、投資する際の最終チェックリストも設定している。低成長株では、PERが高すぎないかをチェックし、バランスシートの健全性にも目を配る。インサイダー買いや自社株買いは優良な兆候と判断する。
優良株では、配当取得が主たる目的となるため、配当を継続支払いできる余力があるかどうかに着目する。急成長株では、収益の成長率が適正であるかどうかに注目しながら、拡大余地を探る。また成長スピードについても着目していく。
市況関連株については、在庫水準の適正可否を判断し、景気回復局面でのPER低下の状況を探るとしている。業績回復株は倒産リスクのチェック、ならびに経費削減やリストラ状況についても目を配る。
資産株は、資産価値や含み資産のデューデリジェンス(投資対象の精査)を徹底化し、TOBなどによる含み益の株主還元の可能性を探る。
このように、箇条書きにしてしまうと実にあっさりとした内容に見えるが、その項目の一つひとつを徹底精査して投資を展開するのがピーター・リンチの投資手法なのである。これをトレースするのは一朝一夕にはできないが、参考にすべきエッセンスは随所に隠れているといえそうだ。(ZUU online 編集部)