全体評価:企業マインドは足元堅調、先行きは弱い

日銀短観12月調査では、注目度の高い大企業製造業の業況判断D.I.が12と前回9月調査比で横ばいとなり、景況感は2四半期ぶりに下げ止まった。また、大企業非製造業の業況判断D.I.も25と前回比横ばいとなり、高水準を維持している。

前回9月調査では、大企業製造業で景況感が悪化する一方、非製造業では改善していた。その後も日本経済は足踏み状態が続いている。先日発表された7-9月の実質GDP成長率(2次速報値)は、1次速報値から上方修正されたものの前期比年率1.0%増に留まり、マイナス成長に沈んだ4-6月期の後も景気に力強さは感じられない。

さらに、10月の主要経済指標もまちまちな状況だ。10月の鉱工業生産(季節調整値)は在庫調整の進展もあって、前月比1.4%増と2ヵ月連続で増加したが、新興国経済の減速等を受けた輸出数量(同)は落ち込んだままだ。また、家計調査における実質消費支出(同・二人以上の世帯)は前月比0.7%減と2ヵ月連続の減少となり、住宅着工戸数は8カ月ぶりに前年比マイナスに陥っている。

大企業製造業では、新興国経済の減速や長引く軽自動車税増税の影響などが景況感の重石となったが、前回調査以降も資源価格が下落したことが採算の改善に繋がり、景況感を下支えした。非製造業でも、国内消費の伸び悩みや杭打ち不正問題も景況感の下押し圧力になる一方で、資源価格の下落に加えて、旺盛なインバウンド需要や情報化の流れが下支え役となった。

中小企業については、製造業が前回から横ばい、非製造業では前回比2ポイント上昇し、業況判断D.I.はそれぞれ0、5となった。非製造業は大企業では横ばいであったが、中小企業ではやや改善した。

先行きの景況感については、企業規模や製造業・非製造業を問わず、幅広く悪化。従来との比較でも、今回の悪化幅は大きい。米利上げ、中国経済減速などから、海外経済の先行き不透明感は強い。また、非製造業を支えるインバウンドも、国際的に相次ぐテロの影響や中国経済の減速によって、今後勢いが削がれるリスクが意識されたようだ。

なお、事前の市場予想との対比では、注目度の高い大企業製造業については、足元(QUICK集計11、当社予想は9)は予想をやや上回る一方で、先行き(QUICK集計10、当社予想は9)は市場予想を下回った。大企業非製造業も同様で、足元(QUICK集計23、当社予想も23)は予想を上回ったが、先行き(QUICK集計21、当社予想も21)は予想を下回った。

15年度設備投資計画(全規模全産業)は、前年度比で7.8%増と、前回調査時点の6.4%増から上方修正された。例年、9月調査から12月調査にかけては、中小企業において、計画が固まってくることに伴って上方修正される統計のクセが非常に強く、今回も上方修正となったうえ、大企業も底堅い計画となった。全規模全産業の上方修正幅は例年と比べてもそん色がない。

大企業では、例年この時期製造業において小幅な下方修正が入る傾向があるが、今回は例年よりもやや大幅な下方修正(▲2.7%)が行われたが、非製造業において大き目の上方修正(1.3%)が入ったことで影響が相殺された。大企業全体の設備投資計画は、前年度比10.8%増と、前回からほぼ横ばい推移となっている(図表13)。

製造業では新興国経済の減速など外部環境の悪化により、一部投資の先送りの動きが出たとみられるが、非製造業では強い人手不足感から省力化投資などを積み増す動きが出た可能性がある。

今回の短観で、企業の足元の底堅い景況感が示されたこと、設備投資が上方修正となったこと、雇用の逼迫感がさらに強まったことは、日銀の景気認識を補強する材料になるだろう。

ただし、今回の短観には、いくつか警戒すべきメッセージも含まれている。日銀は昨年10月末以降、追加緩和を見送り続けているが、「(日銀が言うところの)物価の基調が改善している」点をその最大の拠り所としている。物価の基調に関しては、複数の要素や指標を挙げているが、今回の短観で企業の先行きの景況感に弱気がみられたことは、物価の基調を判断する重要な要素である需給ギャップと賃上げにとって抑制的に働く可能性がある。

また、企業の価格設定スタンス(すなわち値上げの動き)も物価の基調の一要素に挙げられているが、今回の「販売価格判断D.I.」は、足元・先行きともに弱い動きが散見され、販売価格引き上げが慎重化している可能性を示唆している。これらは、日銀の物価上昇シナリオと相反する動きであるだけに、日銀が警戒を強める材料になるだろう。

また、明日15日に発表される「企業の物価見通し」も引き続き注目される。企業の物価見通しは、14年3月調査から開始されたものだが、以降の企業のインフレ期待は徐々に低下しつつある。特に前回調査では、全ての年限において、下振れが確認された。

予想物価上昇率については、日銀が「物価の基調」を判断するうえで、需給ギャップなどと並ぶ重要な要素に位置づけられ、日銀は現時点において、「このところ弱めの指標もみられているが、やや長い目で見れば、全体として上昇している」との判断を示している。従って、今回発表される「企業の物価見通し」において、さらに下振れが認められるかがポイントになる。

今回発表される「企業の物価見通し」において、前回に続いて明確な下振れが認められれば、本日の短観の一部内容とともに、日銀の「物価の基調は改善」という論理の綻びとなる可能性もあるだけに、その動向は注目に値する。