従来の成長モデルの限界

従来の成長モデルの歴史を振り返って見ると、文化大革命を終えて改革開放に乗り出した中国は、まずは第1次産業(農業)の改革に着手、それが成功すると第2次産業(工業)の改革に乗り出した。外国資本の導入を積極化して工業生産を伸ばし、その輸出で外貨を稼いだ。稼いだ外貨は主に生産効率改善に資するインフラ整備に回され、中国は世界でも有数の生産環境を整えた。

この優れた生産環境と安価な労働力を求めて、工場が世界から集まって中国は「世界の工場」と呼ばれるようになった。こうして高成長を遂げた中国だが、経済発展とともに賃金も上昇、また中国の通貨(人民元)が上昇したこともあって、賃金上昇と人民元高で中国の製造コストは急上昇した。

そして、より安く生産できる製造拠点を求めて中国から後発新興国へと工場が流出し始めたことで、対内直接投資が伸び悩むとともに対外直接投資が急激に増えてきた(図表-4)。

中国の経済構造改革4

従来の成長モデルが限界に達したことはGDP統計を見ても分かる。供給面から見ると、GDP全体に占める第2次産業の比率が諸外国と比べて極めて大きい一方、第3次産業の比率が小さい。第2次産業の中核を成す製造業に焦点を当てると、世界における製造業シェアは23.2%でGDPシェア(12.8%)より10.4ポイントも大きい(図表-5)。

米国や欧州ではGDPシェアの方が大きいのと比べると対照的である。製造業シェアの方が大きくても製品を輸出できれば問題はない。日本も製造業シェアの方が1.0ポイント大きく、韓国は1.5ポイント、欧州の中でもドイツは1.6ポイント大きい(図表-6)。

しかし、輸出できないようだと、国内では生産設備が過剰となって、設備稼働率が落ちて債務負担が重くのしかかり、雇用不安に陥ることになる。いわゆる過剰設備の問題である。従って、10ポイント超になった過大なギャップを、均衡点に向けていかにソフトランディングさせるのかが、中国の産業政策においては最大の課題となっている。

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一方、需要面から見ると、GDP全体に占める投資(総固定資本形成)の比率が諸外国と比べて突出して大きく、2014年は44.0%となった(図表-7)。

主要先進国(G7)の約2倍に達しており、経済発展が遅れたインドやインドネシアと比べても10ポイント以上高い。経済発展の初期段階では、先行的に投資を増やす場合が多いため、アジア諸国の中には過去に投資比率の高まりを経験した国が多い。

1990年代のタイでは投資比率が4割前後で7年間、マレーシアでも5年間続いたことがあり、韓国でも1990年代に4割には達しなかったものの35%前後が8年間続いた。日本でも高度成長期にあった1970年前後には35%前後が6年間続いていた(図表-8)。

しかし、その後の日本では、高度成長が終わるとともに投資比率も3割前後へ低下、1974年には石油危機も加わってマイナス成長に落ち込み、安定成長に移行した。

韓国、タイ、マレーシアでも、アジア通貨危機でマイナス成長に落ち込んだ後、韓国の投資比率は3割前後へ低下、タイ・マレーシアでは2割台へ低下しており、前例をみれば中国の4割超も長続きしそうにない。

また、石油危機やアジア通貨危機といった特殊事情があったとはいえ、4ヵ国全てで一時的ながらもマイナス成長に落ち込んだ。これがいわゆる過剰投資の問題である。

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それでは過剰設備(又は過剰投資)を解消する過程では何が起こるのだろうか。楽観と悲観のシナリオを描くことができる。

楽観的に見ればGDPシェアが製造業シェアに鞘寄せする形で調整し、この場合は製造業の成長率は低下するものの第3次産業が牽引してGDPシェアが上昇する。悲観的に見れば製造業シェアがGDPシェアに鞘寄せする形で調整し、この場合は製造業の成長率が急激に低下して第3次産業だけでは支え切れず極めて低い成長率になる。

かつて日本では両者のギャップが拡大して1991-93年に約4ポイントでピークを付けた。その後このギャップは解消していくが、GDPシェアと製造業シェアがともに低下する結果となった(図表-9)。

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中国経済の発展段階はまだ低く、ここもと第3次産業が8%前後の高い伸びを維持していることから、悲観し過ぎてもいけないが、経済成長率を押し下げる大きな負のインパクトをもたらすことは間違いない。