(写真=Thinkstock/Getty Images)
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筆者は証券会社で日本株のストラテジストを長年務めています。ストラテジストの仕事内容は、日本株の投資戦略を立案しそれをレポートという形で外部に発信するほか、顧客向けのセミナーで日本株や個別株について話をしたり、またテレビ出演等メディアを通じて相場について語るなど、その業務内容は多岐にわたります。最初は自分のような恥ずかしがり屋の人間が、このような仕事を行うことができるのかと不安に思う時期もありました。ただ、人間とは不思議なもので、そうした環境で負荷をかけ続けると、苦手分野だと思っていた仕事内容が苦でなくなりむしろ快感すら感じるようになってきます。

話は反れましたが、筆者はストラテジストとして活動するなかで、顧客との接点が生まれるセミナーが大好きです。なぜなら投資家の生の声、考え方を直接聞けるからです。現在、筆者は年間140回程度、日本株に関するセミナーに携わっていますが、今回はこうしたセミナーを通じ「個人投資家の個別株投資に関す考え方」について思うところを紹介します。

変化に対応できる企業、できない企業

最近、筆者が特に感じることは、時代の変化に対応できていない投資家が多いということです。たとえば、大変革期を迎えている素材業界に対する個人投資家の見方は昔と変わっていないように見受けられます。素材業界で今起きている大きな変化とは、比重が鉄の4分の1、強度が鉄の10倍という夢のような素材「炭素繊維」が本格的な普及期を迎えるなかで、いよいよ鉄を必要としない時代が到来しつつあるということです。

炭素繊維は以前から存在する素材でしたが、加工性に関する問題から、その用途は航空機向けなど一部に限られていました。ただ、その後も技術開発を重ねることで、加工性の問題も解決でき、最近では自動車のボディにも使われるようになりました。これは大きなことです。日本の鉄鋼メーカーにとって自動車ボディ向けの高級鋼板はドル箱だったのですが、これが今後、炭素繊維に需要を奪われると、鉄鋼メーカーの経営は危機的な状況を迎えるからです。

建設向けの鋼材についても最近は中国からの低価格品にシェアを奪われている状況を加味すると、鉄鋼メーカーはまさに窮地に立たされているといえます。逆に炭素繊維を武器に新たな需要取り込みに成功している炭素繊維トップメーカーの東レ <3402> などは、これから業績拡大期を迎えることになるでしょう。実際、株価をみても鉄鋼株はリーマンショック前の高値の4分の1程度にとどまるのとは対照的に、炭素繊維で将来の業績拡大期待が高まっている東レの株価はリーマンショック前の高値水準を回復していることからも、素材業界の浮き沈みを如実に表しているといえます。

「割安・出遅れ」なのには理由がある

素材業界で上記のような構造変化が起きているにも関わらず、いまだに鉄鋼株に執着している投資家が多いように見受けられます。その理由を聞いてみると、ほとんどの人が「鉄鋼株は他の株に比べると全然上がっておらず、割安に放置されているから」といいます。

なぜ、割安に放置されているのか。それは鉄鋼株の「将来の業績」に不透明感があるからです。確かに鉄鋼株は現在の業績からみれば、割安に見えるかもしれません。しかし、株価は現在の業績だけでなく、「将来の業績」も織り込んで形成されるものです。従って、先行きの業績動向を踏まえず、単純に現在の株価が出遅れている等の理由だけで衰退産業に投資してしまうと、投資成果を期待するのは長期的にも難しくなります。確かに昔は「鉄は国家なり」と言われた時代もありました。しかし、時代は刻々と変化しています。企業も投資家も、こうした変化に対応することが重要といえます。

配当や自社株買いだけで判断していいのか?

高配当で個人投資家の人気も高いキヤノン <7751> も、鉄鋼株と同様のことがいえます。キヤノンは主力のデジカメ事業が苦戦しています。それはデジカメ需要をスマホに奪われるという構造不況に陥っているためです。ただ、会社側はデジカメ事業の低迷を他の事業で補うような攻めの経営ではなく、配当や自社株買いといった株主還元を強化するといった守りの姿勢を強めています。一見すると株主還元を強化しているので良い会社だと思われるかもしれませんが、株主にとって良い会社とは利益を拡大させることで株価上昇をもたらす企業です。いくら配当が高くても、株価が下がるのであれば投資家にリターンをもたらしません。

キヤノンの利益水準はこの円安環境下にも関わらず、過去最高益時の半分程度の利益しか稼げていませんから、現在の収益力はとても弱いとい言わざるを得ません。2016年は円高の年になる可能性が高いと筆者は考えているので、今後キヤノンを取り巻く環境は一段と厳しくなることでしょう。10年、20年スパンの投資視点で考えるのであれば、IoTやロボット、電気自動車など新時代の到来が追い風となる村田製作所 <6981> や日本電産 <6594> のような世界で断トツの競争力を有する企業に投資するのが賢明と考えます。

過去の栄光よりも「将来の業績」が大切

企業の過去の栄光にとりつかれ、投資をする個人投資家は非常に多いです。ただ、「時代の変化」というスピードは年々加速しており、そこにいかに対応するかが、投資を成功させるためのポイントとなります。最近の海外投資家の投資行動をみれば、一目瞭然ですが、彼らは企業の過去の実績など全くみていません。また企業のネームバリューも気にしません。彼らがみているのは一にも二にも「将来の業績」です。中長期的に利益成長が見込まれる企業であれば、有名無名問わず、彼らはその株を買います。

個人投資家のなかには、出遅れ株を好む人も少なくありません。しかし、先に説明したように鉄鋼株などは先行きの業績懸念が強いために安値で推移しているのです。

「相場は相場に聞け」という格言があります。株価の動きがどのようなメッセージを発しているかに耳を傾けながら投資をしてみると、良い結果が生まれるかもしれません。「割安な株」「出遅れている株」の多くにはそれなりの理由があります。そのことを念頭においた投資を心掛ければ、大きな失敗はしないと考えます。今年は逆張り投資ではなく、順張り投資を一度試してみるのはいかがでしょうか。

石黒英之(いしぐろ・ひでゆき)
専門商社勤務を経て2004年に岡三証券に入社。入社後は渋谷支店で個人営業に従事。2006年岡三経済研究所経済調査部(現:岡三証券 グローバル金融調査部)を経て、2008年岡三証券投資戦略部日本株情報グループに配属。2010年日本株情報グループ長(現:日本株式戦略グループ長)となる。

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