(写真=PIXTA)
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2015年10-12月期の実質GDP成長率(*1)は前期比(季節調整値)0.6%増となり、前期の同1.3%増から低下し、Bloomberg調査の市場予想(同0.6%増)と一致した。

政府と中央銀行が5-6月の中東呼吸器症候群(MERS)の感染拡大による景気の下振れを懸念して景気刺激策2を打ち出したことから7-9月期は高めの成長となり、10-12月期の成長率はその反動でやや鈍化した。また前年同期比で見ると実質GDP成長率は3.0%増となり、前期の同2.7%増を上回った。

需要項目別に見ると、投資の鈍化が景気減速に繋がったことが分かる(図表1)。

韓国10-12月期GDP1

民間消費は前期比1.5%増と、MERSの終息後の反動増となった7-9月期(同1.2%増)から更に加速した。10月前半のコリア・ブラックフライデーの開催や個別消費税の引下げをはじめ、低インフレ環境や雇用の改善なども消費拡大に繋がった。実質小売売上高指数は10月に前年比8.5%増と、2011年1月以来の高水準を記録した(図表2)。

韓国10-12月期GDP2

政府消費は前期比1.2%増と、前期の同1.7%増からやや低下したものの、堅調を維持した。10-12月期に補正予算など通じて9兆ウォン(*3)追加的に支出したことが支えとなった。

投資は前期比2.8%減と、前期の同3.1%増から大きく低下した。設備投資は同0.9%増(前期:同1.8%増)と底堅く、知的財産生産物は同0.3%増と政府のR&D投資を受けて前期の同0.1%増から上昇した。しかし、建設投資は同6.1%減と7-9月期の景気対策で増加した公共事業の反動減や不動産取引の鈍化で前期の同5.0%増から大きく低下した。

純輸出については、まず輸出が前期比2.1%増(前期:同0.6%減)と石油・化学製品や輸送用機械など財輸出を中心に上昇し、2期ぶりのプラスに転じた。またサービス輸出の回復も輸出にプラスに寄与した。MERS感染拡大の影響で7-9月期に大幅に減少した訪韓外国人観光客数は10-12月期に持ち直している(図表3)。

韓国10-12月期GDP3

もっとも、10-12月期の外国人観光客数の伸び率(前年比)は1桁台に止まっており、同期間の日本の伸び率が約40%増を超えていたことを踏まえると、本格回復には至っていないようだ。

一方、輸入は前期比2.8%増(前期:同1.1%増)と消費需要の拡大を受けて上昇した。結果として、純輸出の成長率への寄与度は▲0.3%ポイントと、6期連続のマイナスとなった。供給項目別では、全体の約6割を占めるサービス業が前期比0.8%増と、前期の同1.0%増からやや低下したものの、堅調を維持した(図表4)。

韓国10-12月期GDP4

産業別に見ると卸売・小売および宿泊飲食、教育、健康・福祉などが上昇した一方、運輸・倉庫、金融・保険、情報通信、ビジネスサービスなどが低下した。また製造業は前期比0.6%増となり、石油・化学製品や半導体が拡大して前期の同0.1%増から上昇した。

建設業は前期比0.4%減となり、7-9月期に増加した公共事業の反動減で前期の同5.6%増から低下した。また電気・ガス・水道業は前期比1.0%増(前期:同8.3%増)、農林水産業は同1.4%減(前期:同6.5%増)とそれぞれ低下した。

先行きは、中国をはじめ世界景気の先行き不透明感が根強いことからGDPの5割を占める輸出の本格回復は見込みにくく、企業マインドに持ち直しの動きは見られない。

政府は1-3月期に予算執行の前倒しを図るものの、個別消費税の引下げが終了するなど消費刺激策や補正予算の景気の押上げ効果剥落するなか、2月以降は家計債務の拡大ペースを適正にするために住宅担保融資の審査強化を予定している。2014年半ばから続いた政府主導の景気回復には期待が持ちにくくなっており、今後は景気の牽引役不在の状況が続きそうだ。

2015年通年の成長率は前年比2.6%増(2013年は同3.3%増)と、3年ぶりに低下した。これは年初に韓国銀行が公表した見通し(同3.4%増)を下回る結果となった。民間消費と建設投資が牽引役となり、設備投資も堅調を維持したものの、輸出の減速が景気の足枷となった。

(*1)韓国銀行(中央銀行)は1月26日、2015年10-12月期の実質国内総生産(GDP)の速報値を公表した。韓国銀行が1月14日に公表した成長率見通しによると、2016年の実質GDP成長率は前年比3.0%増(前半が同3.1%増、後半が同2.9%増)、2017年が同3.2%増とし、今年10月時点の見通し(2016年が同3.2%増)から小幅に下方修正した。
(*2)韓国銀行は15年6月に政策金利を0.25%引き下げたほか、7月には政府が総額21.7兆ウォンの景気対策(11.8兆ウォンの補正予算)を打ち出した。8月以降も外国人観光客向けの「コリア・グランドセール」が8月14日から10月31日にかけて開催されたほか、8月末から12月にかけて自動車や高級家電製品に課される個別消費税の税率が5%から3.5%に引き下げられた。また10月前半には大規模セール「コリア・ブラックフライデー」を開催した。
(*3)政府は10-12月期に公共部門の支出を9兆ウォン拡大させた。内訳としては、補正予算(中央政府1.6兆ウォン、地方政府6兆ウォン)、健康保険の早期支給1兆ウォン、企業の投資促進プログラムの追加支出0.4兆ウォンなどがある。

斉藤誠
ニッセイ基礎研究所 経済研究部

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