(写真=PIXTA)
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2015年10-12月期の実質GDP成長率(*1)は前年同期比6.3%増の増加と、前期の同6.1%増と市場予想(*2)(同5.9%増)を上回った。中国経済の減
速、原油一段安、米国の利上げ開始などにより新興国経済が減速するなか、フィリピン経済は3期連続で加速し、依然として力強い成長が続いていることが明らかとなった。

前期比(季節調整値)は1.1%増と前期の同2.0%増から低下した。また10-12月期の海外からの純所得(*3)は前年同期比5.4%増(前期:同4.7%増)と改善したことから、国民総所得(GNI)は前年同期比6.2%増(前期:同5.8%増)と上昇した。2015年通年の成長率は前年比5.8%増と、2014年の同6.1%増から低下した。政府の2015年の成長率目標(7-8%)を下回った。

需要項目別に見ると、堅調な民間消費と前期に続いて大幅増の政府支出が景気を牽引したことが分かる(図表1)。

また輸出は上昇しているものの、旺盛な内需を背景に輸入が大幅に拡大し、純輸出が成長率を下押しする状況に変化は見られない。GDPの約7割を占める民間消費は前年同期比6.4%増となり、前期の同6.1%増から上昇した。

食料・飲料やレストラン・ホテル、通信などが好調だった。低インフレ環境が続いたことや雇用・所得の増加などが堅調な民間消費の背景にあると見られる。実際、消費者物価上昇率は資源価格の一段の下落を受けてインフレ目標(2-4%)を下回る低水準が続いており、エルニーニョ現象による食料価格への影響は限定的に止まっている。

また最低賃金は上昇傾向が続くなど、家計の購買力の向上が消費者心理の改善に繋がっている。さらに海外就労者の送金額(ペソ建て)が通貨安を受けて堅調に伸びていることも消費を支える要因となっている(図表2)。

フィリピンGDP1

政府消費は同17.4%増と、前期の同17.4%増に続いて高水準を記録した。政府プロジェクトの実施や社会保障プログラムの支払いが増加した。年初に遅れた予算執行を年後半に加速させたものと見られる。総固定資本形成は同22.5%増となり、前期の同13.3%増から更に上昇した。まず設備投資が同40.2%増(前期:同19.1%増)と大幅に上昇した。

一般産業用機械や産業用特殊機械、輸送用機器が揃って上昇した。また建設投資も同7.8%増(前期:同5.7%増)と上昇した。建設部門の粗付加価値額を見ると、政府のインフラ支出が増加したために公共部門が全体を押し上げていることが分かる(図表3)。

純輸出については、まず輸出が同7.1%増(前期:同6.5%増)と、2期連続で上昇した。財輸出は同1.7%増と、海外経済の成長鈍化を背景とする農産物輸出の減少受けて前期の同5.4%増から低下したものの、サービス輸出が同30.2%増とBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の拡大を受けて前期の同12.5%増から大幅に上昇した。

なお、主力の電子部品の輸出は同14.3%増と、伸びは鈍化しつつも3期連続の二桁増を記録するなど好調が続いている。また輸入は同13.3%増と前期の同14.9%増からやや鈍化したものの、3期連続の二桁増となった。結果、純輸出の成長率への寄与度は▲3.1%ポイントと、4期連続のマイナスとなった。

供給項目別に見ると、農林水産業が同0.3減(前期:同0.3%増)とやや低下したものの、鉱工業が同6.8%増(前期:同5.5%増)、GDPの約6割を占めるサービス業が前年同期比7.4%増(前期:同7.2%増)とそれぞれ上昇し、全体を押上げた(図表4)。

フィリピンGDP2

サービス業では卸売・小売が低下したものの、金融、不動産、運輸・通信、その他サービスなど幅広い業種が上昇した。

鉱工業では製造業が同6.6%増(前期:同5.5%増)と、化学製品やラジオ、テレビ・通信機器、食品加工を中心に上昇して4期連続の二桁増を記録した。また建設業は同8.4%増(前期:同5.4%増)と上昇した。

農林水産業では、農業が同0.5%増と前期の0.0%減からやや上昇したものの、水産業が同4.5%減と前期の1.1%増からマイナスに転じた。エルニーニョ現象による干ばつ被害を受けてコメやトウモロコシが3期連続で減少した影響が大きいと見られる。

先行きについては、今年5月の大統領選に向けた選挙関連支出が景気押上げ要因となりそうだ。現在、大統領選は有力候補4名の混戦が続いており、多額の選挙関連支出が見込まれ、民間消費は好調を維持するだろう。また同国は財政余力があることから、政府の予算執行がスムーズに進むようであればインフラ支出が引き続き景気を押上げるだろう。

一方、政策の先行き不透明感から民間投資は鈍化する可能性が高そうだ。もっとも米利上げ後も緩和的な金融環境が続くことやビジネス信頼感指数が高水準にあることから、投資が腰折れすることはないと思われる。

景気下振れリスクとしては、今年前半まで続くと見られるエルニーニョ現象を背景とした食品価格の高騰、新政権による現行の改革路線からの逆行などが挙げられる。全体としてみれば、世界経済の減速で財輸出が伸び悩むだろうが、民間消費に支えられた旺盛な内需により6%台の高めの成長が続くと見込まれる。

(*1)1月28日、国家統計調整委員会(NSCB)が国内総生産(GDP)統計を公表。
(*2)Bloomberg調査
(*3)フィリピンは海外の出稼ぎ労働者が多い。国内への仕送りは海外からの純所得として計上され、消費に大きな影響を及ぼす。

斉藤 誠
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究員

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