引退目前に語った「心を一瞬で掴む話し方」
社長退任後も「期間限定」で通販番組に出演し続け、今年1月15日に番組からの引退を発表したジャパネットたかた前社長・高田明氏。観た人、聞いた人を一瞬で惹きつけるその「伝える力」は、どのように磨かれてきたのだろうか。「伝え方」に悩む人は数多い。高田氏にその「伝える力」の極意について、引退直前にお話をうかがった。
「たった1分」の違いが大きな差を生む
「伝え方」は難しい。頑張って言葉を尽くしても、なかなか思いが伝わらない。それに対してテレビの向こうの高田明氏の言葉には、誰もがいつの間にか引き込まれてしまう。まさに「伝え方の達人」だ。
「世間の人はそう言ってくださいますが、実際にはまだまだ修行中です。今でも『あ~、あのとき話す順番がちょっと違ったな』と反省することはしょっちゅう。値段を言うタイミングが1分遅れたことで売れなかったり、1分早すぎても売れなかったりする。伝え方というのは本当に奥が深い。日々勉強です。
今日も朝から3回の生放送をしたのですが、最初の回は初めての企画だったので、比較的自由に話しました。話しているうちにいろいろと気づくことがあり、2回目はそれを踏まえて伝え方を変えたところ、まったく同じ商品なのに2割も売上げが増えました。
ラジオ、テレビで商品を紹介し始めて26年。その前の店舗販売の時代も含め、ずっとお客様に商品を販売する仕事に携わってきましたが、こうした発見は毎日のようにあります。だからこそ、やりがいもあります」
「伝え方」の極意は室町時代に学べ!?
そんな高田氏が最近、伝え方の師と仰ぐ人物がいるという。それはなんと、室町時代の能の大成者である世阿弥だ。
「世阿弥の著書である『風姿花伝』や『花鏡』は、600年も前に書かれたにもかかわらず、読むたびに新しい発見があり、感動しますよ。とくに感銘を受けたのが、『三つの視点』。
世阿弥は能を演じるにあたり、三つの視点を大事にすべきと説いています。一つは自分がお客様を見る視点。能を舞うときの自分は、当然、お客様を見ていますよね。これを『我見』という言葉で表わします。
もう一つは、『相手が自分を見る視点』。能なら観衆であり、私たちの仕事ならお客様の視点です。これを『離見』と呼びます。世阿弥はこの我見と離見、双方を持つことが重要だと説いています。
これはまさに、私が伝える際に最も大事にしていることと同じ。自分がお客様にどう伝えるかという『我見』は重要ですが、そればかりでは決して伝わらない。
私たちが、『これ、いいでしょ』『これもいいでしょ』とばかり言うのは、我見だけにとらわれている証拠。そうではなく、お客様の生活シーンを想像しつつ『こうだからいいでしょ』と相手の立場で語っていくからこそ、我見と離見が一致し、相手に伝わると思うのです」