メットライフが発表した組織変更の目的と背景

以上のような、形態も時期もまだ決まっていない、生煮えとも言える状態の計画をなぜ発表したのか。そこには、メットライフを巡る厳しい環境が見えてくる。
先の発表文書から、メットライフが今回の分離に関して、目的・背景と考えているらしきものをあげると、以下の2点となる。

◆事業の選択と集中

目的の1つは、メットライフが得意とする企業市場における団体保険事業に特化することによる、競争力の強化である。

「米国では、分離は、私たちが長い間市場をリードしてきている団体保険事業に、さらに熱心に集中することを可能にする。
世界的には、我々は成長を促進し、魅力的なリターンを産み出すために、成熟市場と新興市場のミックスで事業を行うことを続けていく。」

◆ノンバンクSIFI指定による規制強化に抵抗するため

しかしながら、世間の注目を集めたのは、むしろこちらの側面である。

メットライフは2014年12月にシステミックリスクをおこす可能性のあるノンバンクSIFI(システム上重要な金融機関)と指定された。

しかし同社はその決定を不服として、1ヶ月後の2015年1月に、指定の取消しを求める訴えをワシントンD.Cの連邦地方裁判所に提起した。法廷論争はまだ続いているが、今回の分離計画の発表は、SIFIと指定したノンバンク金融機関に対して連邦政府が新しい規制を課してくることへの先制対応として、資本増強やコンプライアンス負担を軽減する計画の一環であると見られている。

発表文書は以下のように述べている。

「現在、米国のリテール部門はシステム上重要な金融機関(SIFI)の一部であり、実施されれば競争上極めて不利な状況をもたらすであろう、より高い資本要件を課されるリスクにさらされている。

私たちは法廷でSIFI指定に対して訴えをおこしている。また、メットライフのいずれの部分もシステム上のリスクをもたらすとは考えていない。しかし、より高い資本要件を課されるリスクが、事業の分離を追求するという我々の決定に貢献した。」

「独立した会社は、もっと焦点を絞った、柔軟な商品とオペレーション、およびSIFI指定会社に課される自己資本やコンプライアンス規制の対象外となることによる、資本とコンプライアンスに対する要求水準の低下による恩恵を受けるだろう。」

「我々は独立した新会社にすれば、もっと効果的に競争し、株主のためにより大きなリターンを産むことができるだろうと結論づけている。」

メットライフが指定を拒否するノンバンクSIFIとは

◆ノンバンクSIFIの指定を受けたのは4社

金融危機への反省から成立した2010年ドッドフランク金融改革法の規定を根拠として発足した、米国の金融安定監視委員会(FSOC)は、破綻した場合に幅広い経済システムにリスクを及ぼす金融機関を、「システム上重要な金融機関(SIFI)」として指定する権限を与えられている。

SIFIとしての指定を受けた金融機関は、厳しい資本要件や流動性の要件など、一般の金融機関よりも厳しい、さまざまな規則に従わなければならなくなる。

SIFIとして指定される金融機関は銀行が中心であるが、FSOCは、保険会社や事業会社についても、ノンバンクSIFIとして指定する権限を与えられている。

米国では保険に対する監督は、州レベルの監督当局により行われているが、ノンバンクSIFIとして指定された保険会社は、州による監督に加えて、連邦機関による監督に服することになる。
これまでのところ、ノンバンクSIFIとしての指定を受けた会社には、メットライフの他、AIG、ゼネラルエレクトリック、プルデンシャルがある。

このうち、ゼネラルエレクトリック(GE)は、2015年4月に銀行ビジネスから撤退するという業態見直しを実施した。いわば、メットライフの分離戦略の先輩的な存在である。

またAIGは、大株主から、企業を三分割してSIFI指定を回避し、資本の負担を減らし株主へのリターンを増やせとの要求にさらされている。ただし、SIFI指定制度の発端となった金融危機の一因が同社による証券化関連ビジネスであり、連邦による救済措置を受けたという経緯もあるため、同社がSIFI回避の動きを起こすことは困難との見方が強い。

メットライフとともにノンバンクSIFIとしての指定を受けた生保会社であるプルデンシャルは、SIFI指定されるまではたいへんな抵抗を示したが、指定された後は、目立った動きを見せていない。

なおFSOCは、ノンバンクSIFIを指定したものの、いまだにノンバンクSIFIに課される追加的な資本要件等の規制を定めていない。

◆【参考】G‐SII

システム上重要な金融機関」には、米国のSIFI以外に、G‐SII(金融システム上重要な世界の

保険会社)と呼ばれるものがある。これは、20カ国で構成される金融安定理事会(FSB)によって指定される(具体的なFSBによる指定のプロセスは国際保険監督官協会(IAIS)に依存している)。

金融システム上重要な世界の保険会社として指定を受けている保険会社は以下の9社である。

■アリアンツ(ドイツ) ■AIG(米国)■ゼネラリ(イタリア)■アビバ(英国)
■アクサ(フランス)■メットライフ(米国)■平安(ピンアン)(中国)
■プルデンシャルファイナンシャル(米国)■プルデンシャルplc.(英国)

メットライフはG‐SIIとしての指定も受けているが、メットライフがとくに問題視しているのは、より規制が厳しくなると予想されている米国のSIFI指定である。