ノンバンクSIFI指定を拒否するメットライフの主張

◆メットライフは金融システムの脅威にならない

メットライフの主張は、生保会社は、幅広い金融システムのリスクにはならないという点につきる。

「メットライフが抱えるエクスポージャーは、金融システムの脅威とはならない。また、ある会社がメットライフに対して抱えているエクスポージャーにより、脅威にさらされるということも考えられない。」
「必要以上に大きな資本が必要になると、保険会社は商品の価格を引き上げたり、給付を減らしたりしなければならない。」

「少数の大手生保だけがSIFIに指定され、銀行のために設けられた資本要件に従うこと」は不公正。

「FSOCが指定の根拠としているのは、メットライフが複雑で巨大であるという事実だけ。」

なお、報道によれば、FSOCが有している、保険会社がシステム上の脅威になるプロセスのイメージは、以下のようなものである。

保険契約者が保険会社の経営状況を警戒し、銀行に対する取り付け騒ぎと同じような解約騒ぎが起こる。保険会社は解約に対応するため、保有している債券等の資産を現金化する。その結果、金融市場全体に大きな影響が及び、金融市場の機能が損なわれる。

◆4つのグループがアミカスブリーフを提出

米国には、裁判において、法廷助言者からの意見書であるアミカスブリーフを受け入れて、第三者の専門知識を裁判で活用するということが行われている。

メットライフが提起した訴訟においては、全米保険監督長官協会(NAIC)、米国生保協会(ACLI)、金融規制に関する学識者グループ(AEFR)、米国商工会議所(Chamber)という4つのグループが、メットライフの訴えを支持する立場でアミカスブリーフを提出している。

彼らの主な論拠もメットライフとほぼ同様であるが、以下4つにまとめられる。

FSOCは、保険業界のことを理解していない。
メットライフは、既に厳しい州による監督に服している。
FSOCは、規模だけを見て、数多くの他の要素を無視している。
FSOCは、連邦政府機関の手続きスタンダードに則っていない。

NAICは「FSOCは、メットライフが規模が大きくて複雑な会社であるという事実だけを見て指定を決定した」と述べ、ACLIは「FSOCが保険会社に銀行中心のモデルを適用し、既存の州による保険規制を無視している」、「例えば、生保会社の負債は、すぐに保険契約者が解約できるものではなく、また生保会社は長期のリスクを引き受け、それらリスクの特性を反映したアセットミックスが心がけられているのに対して、銀行は、より短期の、要求払い性の負債に依存しており、資産と負債はマッチしていない等の、基本的な生命保険と銀行の相違が考慮されていない」と述べている。

現状の監督者である州監督官の団体であるNAIC、生保業界団体であるACLIが、権限の拡張を図る連邦当局に対して、保険のことがわかっていないと異をはさんだ形である。

さいごに

金融危機後、金融規制は銀行規制を中心と考えて、保険に対する規制は、銀行に対する規制を流用すればいいと考える雰囲気が強まってきたように感じられる。そのため、保険会社は銀行とは違うのだということを説得しようと、保険会社側が乗り出す形が米国や欧州で見られるようになった。

欧州でも、欧州各国の民間保険団体で構成される「インシュアランスヨーロッパ」が、保険とはいかなるものかという基本的な冊子を作って、プロパガンダに励んでいる。

メットライフのSIFI指定訴訟や分社化については、今後、どのように展開するか、引き続きフォローに努めたい。

松岡博司(まつおかひろし)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部

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