世界経済の様相を一変させる巨大経済圏は本当に誕生するのか

構想発表後には習主席が積極的な外交を展開し、60あまりの国とASEAN、EU、アラブ連盟などの国際組織が構想への支持を表明しました。

資金面ではシルクロード基金とアジアインフラ投資銀行(AIIB)を設立しています。人民元の国際化も推し進め、IMFはSDR構成通貨としての採用を決めました。こうした積極的な推進策の結果、アジア各国で鉄道、港湾、パイプライン建設などのプロジェクトが進行中です。とくに顕著な成果としては、大陸横断鉄道の整備が挙げられます。すでに浙江省の義烏からマドリードやテヘランへ、大連からハンブルクへなど、中国の16都市から20路線以上の貨物列車が運行しています。

欧州でのインフラ投資も活発です。2016年1月には、中国国有の海運会社がギリシャ最大のピレウス港を買収しています。他にも中国企業がセルビアとハンガリーを結ぶ鉄道の整備を始め、トルコでは大型港の買収を決めるなど、経済圏の形成は着実に進んでいるかに見えます。

構想実現のカギは、AIIBやシルクロード基金等からの資金が潤沢にまわるか

しかし、プロジェクトの壮大さゆえに問題も多く、停滞も見られます。まず、沿線各国で中国と協働して行われているインフラ投資では、中国側の沿線各国への投資要求が高すぎるとの声もあります。ラオスやタイではコストの問題が解決できず、高速鉄道建設が暗礁に乗り上げたままです。

また、民族問題、テロの問題も大きな障害となっています。パキスタンの港湾建設現場では、テロの危険があるため、中国人労働者をパキスタン軍兵士が警護している状態です。他にも新疆ウイグル自治区の問題はいうまでもなく、いまだタリバンのテロが続くアフガニスタンや、内戦の出口が見えないシリアの存在も、構想の実現を阻害する要因です。

さらに、中国国内では内陸部の「一帯」沿線が建設ラッシュに沸く一方で、海外企業の進出は少なく、誘致に失敗すれば不良債権が残るだけと懸念されています。

加えて、習近平体制の揺らぎや中国経済の崩壊、治安悪化を心配する声も消えません。2億人ともいわれる貧困層を抱えつつ、莫大な資金を外国に投資する構想を進めるには、国内の安定が不可欠であることは確かです。
民族問題への対応と中国国内の政治の安定も課題ですが、それ以上にアジア地域をはじめ資金需要の旺盛な各国の要望に十分応えられるかどうか、すなわちAIIBやシルクロード基金等からの資金が潤沢にまわるかどうかがカギになるとみられます。シルクロードの沿線国にしてみれば中国を経由してアジアや欧州経済圏にアクセスし、経済成長に結び付けていくことを期待しているわけですから、その点で中国が人民元や国内金融市場の国際化をいかに進めていけるかも重要なポイントになると考えらえます。

かつてのシルクロードは、沿線の各地、日本にも繁栄をもたらしました。中国主導の現代版シルクロードが世界に何をもたらすのか、注視していく必要があると思われます。(提供: お金のキャンパス

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