国債,格付け
(写真=Thinkstock/Getty Images)

理論的には、財政収支がGDP対比3%程度(15兆円程度)過度に引き締め的になっていることが証明できる。3月末に2016年度の政府予算が国会を通過した後、6月1日の通常国会の会期末まで、2016年度の補正予算として、この国が取りすぎた分は、デフレ完全脱却をより確かなものとするために、国民にすぐ返す必要があるだろう。


国債格下げに対する世間の反応

日銀の強い金融緩和政策により、国債10年金利がマイナス、そして40年金利まで1%以下まで低下しており、新規国債を増発してでも必要とされる経済対策を実施するのが理に適っている。

OECDやIMF、そしてG20でも財政政策による需要対策の必要性が認識され、国際世論が財政緊縮から財政拡大に急激に転じていることも追い風だ。

5月の日本でのG7とサミットで、議長国である日本が需要創出のリーダーシップ役としての責任を果たすことも重要であろう。

そのリーダーシップのため、2020年度の東京オリンピックまでは需要拡大と経済再生に注力するとして、2017年4月の消費税率再引き上げの見送りと、その根本である2020年度の財政プライマリーバランスの黒字化の目標を先送りしても、世界はその決断を十分に理解するばかりか、高く評価するだろう。

以上のような主張をしてきたが、財政拡大に転じることで、日本国債の格付けがさらに引き下げられないか、懸念する声もある。しかし、そのリスクは今のところ小さいと考える。

さらなる国債格下げは現実との矛盾を拡大

2015年9月に、格付け機関が、アベノミクスによる成長率の回復が期待したほどにはなっていないことを懸念し、日本国債の格付けをまた引き下げた。

拙速な消費税率引き上げなどによって、財政収支は急激に改善しているが、成長率の低迷を含めデフレ完全脱却の推進力が衰えてしまい格下げされてしまった皮肉な結果だった。

格付け機関も、日本の財政収支が急激に改善していることは認識しており、問題は成長率が強くないことであり、成長率を押し上げる有効な財政拡大は好ましいと考えるとみられる。さらに、これまで日本国債を格下げしすぎて、とうとう中国や韓国より下位になってしまっている。

今回のグローバルな景気・マーケットの不安定な局面で、資本逃避のリスクが大きくなったのは中国や韓国で、それより格付けが下位の日本には質への逃避による資本流入がみられている。

ドル対比で2015年のピークから、人民元は5%程度の下落、ウォンは13%程度の下落の一方で、日銀の緩和政策にもかかわらず、円は10%程度の上昇となっている。

中国と韓国の金融政策と財政政策は資本逃避のリスクを拡大させないような配慮が必要になってしまっている。

一方、日銀のマイナス金利政策でその流れを止めようと思っても止まらず、円高が進行してしまい、3月7日の講演で日銀黒田総裁はマイナス金利政策は「株高、円安の方向に力を持っているはず」と日銀総裁としては珍しく円安に言及し、資本流入による円高を防ごうとしている。

これを見ると、政府債務のGDP比率の大きさだけによる格付けは、現実の信用水準とは乖離していることが確認されたことになる。

格付け機関としては、相対的に日本国債の格付けを上昇させたいところであり、ここからの格下げは現実との矛盾を更に拡大させるので可能性は高くないだろう。

日本に対する中国や韓国の格付けの相対的位置は逆であるはずであり、日本国債をさらに格下げすれば矛盾が大きくなり、中国や韓国の格付けをそれを上回る形で格下げしなくてはならなくなる。

構造改革が進展していないという名目で1ノッチ程度の格下げをして、日本と同等にすることはあっても、資本逃避の動きを促進しかねないため、中国や韓国の大幅な格下げはリスクが大きすぎるので避けたいだろう。

3月2日にムーディーズは中国の格付け見通しを格下げの可能性のある「ネガティブ」に変更したが、グローバルなマーケットの安定化には中国の財政拡大による景気刺激が必要であるとの見方が強く、大幅な格下げがその足かせとなることを格付け機関も考慮するだろう。

逆に言えば、中国や韓国の大幅な格下げがあっても資本逃避がリスクが拡大しないのなら、日本の場合は格下げが資本逃避につながるリスクはほとんどないことの証明となる。

各国の格付けの相対感は格付け機関の信任にとって重要である。その一例が、他国の格下げによる相対感を修正するために、2007年から2009年のリーマンショック前後の不安定な局面で、日本国債の格上げが相次いだことだ。

国債格下げを懸念しすぎてはならない

もちろん、万が一に日本国債が格下げされても、もともと現実とは矛盾した尺度になっており、マーケットへの影響はほとんどないだろうことはこれまでと違いはない。

最低限言えることは、格下げを懸念するあまり、現在一番望まれている財政政策の余地を狭めるのは賢明ではないことだ。

日本国債の格下げが相次いだ2002年から2003年の間に、財務省は当時の黒田財務官(現在の日銀総裁)を中心に、格付け機関に対して抗議の質問書を出した。その時の財務省の主張である「日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない」というのは今でも正しい。

為替が変動相場制であれば、自国通貨建て国債の価値の消滅はデフォルトではなく、中央銀行の過度なマネタイゼーションにともなう大きなインフレが原因となる。

現在の日本は、政府・日銀の共同目標としてデフレを脱却し、インフレ率を上昇させようとしているところなのであれば、格下げをあまりに懸念し、財政・金融政策の手を緩めるのは政策目標へのコミットメントが疑われることになろう。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

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