要旨
安倍政権発足からほぼ一貫して円安基調が続いてきたが、中国経済の減速懸念や米国の追加利上げ観測の後退などから、2016年に入り円高が大きく進行した。急激な円高によって日本経済はこれまでと大きく様相が変わる可能性がある。
円安は企業収益の改善と物価上昇に大きく寄与してきた。過去3年間で経常利益は約40%、消費者物価は約2%(消費増税の影響を除く)上昇したが、当研究所のマクロモデルによれば、そのうち経常利益の4割弱、消費者物価の7割弱が円安によるものだったと試算される。
海外経済の減速や円安の一巡などから製造業の経常利益はすでに減少に転じている。今後は訪日外国人急増の恩恵を受けてきた旅行、宿泊、小売業などの非製造業にも円高の悪影響が及ぶ可能性がある。
現状の為替レート(1ドル=109円程度)が続いた場合の経常利益、消費者物価への影響を試算すると、経常利益は2016年4-6月期から、消費者物価は2016年10-12月期から為替変動の影響が前年比で押し下げ方向に働く結果となった。
アベノミクスが始まってから初の円高局面となるため、円高で何が起きるのか未知数の部分も多い。最悪の場合には円安効果で改善してきたものが無くなるだけに終わってしまう恐れもある。アベノミクスは正念場を迎えるとともに、その真価が改めて問われていると言えるだろう。