要旨

「保育園落ちた」ブログを契機に、改めて保育園待機児童問題に対する社会的関心が高まっている。本稿では改めて統計データを用いて待機児童の実態を捉えていく。

政府の保育の受け皿拡大計画は当初以上に進行しているが、待機児童は5年ぶりに増加。待機児童の内訳は9割が2歳までの低年齢児で、7割は都市部に集中。

待機児童増加の背景には働く女性の増加があり、待機児童の多い南関東や近畿で女性の就業率上昇が目立つ。

待機児童問題の主な課題には、(1)政府統計に計上されていない潜在待機児童数の把握、(2)保育園用地の確保、(3)保育士の確保があげられる。保育士不足は特に深刻であり、他業種より低水準にある給与の引き上げをはじめとした処遇改善が検討されている。

待機児童の解消を早急に進めるには、需要と供給の量・スピードを合致させるべき。潜在待機児童の把握のほか、保育士の処遇改善にも地域差や雇用形態の特徴を考慮した優先順位付けが重要。さらに今、目の前で困っている家庭の救済措置も必要。

はじめに

「保育園落ちた」ブログを契機に、改めて保育園待機児童問題に対する社会的関心が高まっている。待機児童問題の解消は、第二次安倍政権の成長戦略において喫緊の課題として盛り込まれた。

「待機児童解消加速化プラン」(1)では保育需要のピークが見込まれる2019年度末までに解消を目指している。しかし、ブログが子育て世代の大きな共感を呼んだように、依然として厳しい状況は続いている。

保育園待機児童の実態はどうなっているのか。政府の計画は進んでいるのか。本稿では、保育園待機児童問題について、改めて統計データを用いながら全体像を捉えていく。

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1)内閣府「日本再興戦略-Japan is back-(平成25年6月14日)」
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保育園待機児童問題の現状

◆保育園定員数と利用者数の推移~計画以上に保育量は拡大、全体では増加傾向で若干定員割れ

まず、全体像を把握するために、認可保育園(2)の定員数と利用者数の状況を確認する。図1より、両者とも増加傾向にあり、いずれの年も定員数が利用者数をやや上回って推移している。なお、2015年は従来の認可保育所に加え、同年4月に施行された「子ども・子育て支援新制度」(3)にて新たに位置づけられた「幼保連携型認定こども園」等をあわせた数となっている。

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つまり近年、認可保育園の定員数は増加しており、年齢や地域をならして全体で見ると、むしろ若干定員割れをしていることになる。なお、待機児童問題は児童の年齢や地域等による違いが大きいため、次項以降で詳細を述べていきたい。

一方、政府の計画はどうなっているのだろうか。冒頭で述べた「待機児童解消加速化プラン」では、2014年度末までに約20万人、2017年度末までに合計約40万人の保育の受け皿拡大を掲げている。表1より、保育量(定員数)は既に2014年度までに21.8万人分増えており、さらに2017年度までに合計45.7万人まで増える見込みである。つまり、保育量は当初の計画以上に拡大していることになる。

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◆待機児童数の推移~減少傾向だったが5年ぶり増加

保育量は計画以上に増えているが、待機児童は解消していない(図2)。待機児童数は、近年減少傾向にあったが、2015年は5年ぶりに増加に転じている。

なお、厚生労働省では例年4月と10月に待機児童数を集計している(図2は10月)。保育量拡大の多くは4月に行われ、年度途中には少ないため、例年、4月の待機児童数は2万人台だが、10月には+2万人程度増えて合計4万人台となる。

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◆年齢別待機児童数~9割は低年齢児、「3歳の壁」も

待機児童の内訳を年齢別に見ると、2015年4月では0歳が14.1%、1・2歳が71.8%、3歳以上が14.1%だが、10月では0歳が43.2%(4月より+29.1%pt)、1・2歳が48.8%(△23.0%pt)、3歳以上が7.9%(△6.1%pt)であり、0歳の割合が大幅に上昇する。

これは、0歳では生まれ月が遅い場合は生まれ年の翌年度の4月ではなく、年度途中からの利用希望が多いためである。4月と10月では0歳の割合は変わるが、いずれの時点でも0~2歳の低年齢児の占める割合が圧倒的に高い(4月は合計85.9%、10月は合計92.1%)。また、近年、低年齢児の割合は、やや上昇傾向にある。

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この背景には定員枠の少ない低年齢児を中心に、保育園利用希望者が増えていることがある。図3より、保育園の利用率は全体的に上昇しているが、1・2歳の上昇幅が比較的大きい。2010年から2015年にかけて、全体では上昇幅が+6.9%ptであるのに対し、1・2歳は+8.5%pt上昇している。なお、少子化は進行しているが、保育園の利用率上昇により保育園の利用者数は増えている。

この現状を踏まえ、政府は「子ども・子育て支援新制度」にて、2歳までを対象とする小規模保育や家庭的保育(保育ママ)等を新たに認可事業とした。

つまり、待機児童の大半を占める低年齢児に特化した保育施設を拡充することで、待機児童の解消を図ろうとしている。しかし、これらの児童はいずれ成長していく。依然として3歳以上の待機児童も解消しない中では、3歳からの居場所がなくなる「3歳の壁」が出来ぬよう、3歳以上の保育量もあわせて拡充する必要がある。

◆地域別待機児童数~7割は都市部に集中、全国では約16万人の空き

待機児童は年齢による違いも大きいが、地域による違いも大きい。都道府県別に待機児童数を色づけした全国待機児童マップを見ると(図4)、待機児童のいない白色の地域が半数を占めて多い一方、東京を中心とした首都圏や大阪を中心とした近畿圏、札幌市をはじめとした政令指定都市を含む地域では待機児童が多い傾向がある。

また、都市部(首都圏や近畿圏、政令指定都市等)とそれ以外の地域の待機児童数を比較すると(表2)、都市部が待機児童の実に7割以上を占めている。

なお、保育園の定員数から利用者数を差し引いた数を仮に「保育園の空き」とすると(4)、全国では約16万人分の空きがある。つまり、4.5万人の待機児童に対して、全国では3倍以上の空席があることになる。

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4)分かりやすさのため、単純に定員数から利用者数を差し引いたが、実際は年齢ごとの定員数を考慮する必要がある。
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