女性の就労状況

◆女性の就業率の変化~子育て世代で上昇、南関東や近畿で目立つ

保育園の利用率が上昇した背景には、子育てをしながら働く女性が増えたことがある。少子高齢化による労働力不足が懸念される中、政府の成長戦略でも、特に従来から離職者の多い子育て世代の女性の就業率上昇が期待されている。

有配偶女性の就業率の変化を見ると、近年、特に20~30歳代における上昇幅が大きくなっている(図5)。

なお、前述の通り、待機児童数は地域差が大きいため、地域別に有配偶女性の就業率の変化を確認する。表3で、保育園児を持つ割合が高いと予想される30~34歳と35~39歳に注目すると、2010年から2015年にかけて、南関東や北関東・甲信、近畿では有配偶女性の就業率が+5%pt以上上昇している。

なお、本来、保育園待機児童問題と女性の就業率の関係を論じるには未就学児を持つ女性の就業率を見るべきである。また、地方部では祖父母との同居等による家族内保育も可能であるため、女性の就業率と待機児童の状況が必ずしも一致するわけではない。しかし、特に待機児童の多い南関東や近畿では、子育て世代の女性の就業率は確かに上昇している。

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待機児童解消の課題

◆潜在待機児童の存在~さらに1.1万人の追加

これまでに述べた通り、待機児童問題の背景には、子育て世代で働く女性が増え、特に都市部や低年齢児で保育需要が高まっていることがある。保育需要が集中する地域では需要が供給を上回るために、待機児童が解消しないという面もあるが、「潜在待機児童」の存在も注視すべきである。

実は、政府の公表する待機児童数には、認可保育園の選考にもれて認可外へ預けた場合や育児休業を延長した場合、保護者が求職中などを含めていないケースも多い(自治体により解釈が異なる)。

そこで今年3月に厚生労働省は、親が育児休業中や求職活動を休止している場合も含めると、待機児童はさらに約1.1万人存在し、合計約6万人となることを発表した。さらに「どうせ保育園に空きがないから申し込まない」といったケースも含めると、「潜在待機児童」は170万人にも達するとの報道もある(5)。

「潜在待機児童」の状況が十分に把握されていないこと、また、保育量の拡大によって保育需要が喚起されることもあるため、待機児童問題はなかなか解消しない。

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(
5)日本経済新聞(2016/4/22朝刊3面)等
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◆保育園の用地不足~公園・庁舎の活用や小規模保育に期待

「待機児童解消加速化プラン」により全体では計画以上に保育量が増えているが、個別自治体では、用地不足や保育士不足のために保育園開設が難航しているケースもある。

都市部では地価の高さや過密した環境から、認可保育園に適した用地や物件を確保することが難しい。さらに、子どもの声や交通量の増加を理由に、近隣住民が保育園建設を反対する地域もある。

これらの現状を踏まえ、政府は昨年、国家戦略特区における規制緩和策として、都市公園内に保育園の設置を解禁した(都市公園法では認められていない)。既に東京都世田谷区や品川区などで進められている。このほか、都市部では庁舎などの活用も検討されている。

公園や庁舎敷地内に保育園を設置することは、用地不足の解消とあわせて、騒音や交通量の問題も解決でき、画期的な解決策と言える。また、従来の認可保育所と比べて用地や設備の制約が少ない小規模保育を増やすことでも、待機児童の解消が進められている。しかし、既に指摘した通り、3歳以上の居場所にも留意すべきである。

◆保育士不足~給与引上げなどの処遇改善に期待

保育士不足も深刻だ。2015年11月の保育士の有効求人倍率は全国で2.09倍、待機児童の多い東京都では5.72倍にもなる(6)。

厚生労働省は、2013年度から2017年度にかけて、新たに6.9万人の保育士が必要と推計している(7)。しかし、保育士養成施設卒業者のうち、約半数しか保育園へ就職していない。保育園で働く保育士は2013年度で約43万人だが、潜在保育士は約76万人と推計されている。

この背景には待遇面の課題がある。東京都の調査によれば(8)、保育士の職場における改善希望は「給与・賞与等の改善」(59.0%)が圧倒的に多い(9)。

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保育士の給与は設置・運営主体(公設・民設/公営・民営)や雇用形態(正規・非正規)で異なるが、公設・公営で正規職員の場合は地方公務員となり、給与は地方公務員法に従う(先の調査では回答者の10.8%)。

一方、多数を占めるであろう公務員以外の保育士の平均年収は、女性の55歳以上を除けば、男女とも概ね全業種平均を下回る(表4)。また、都道府県別に見ても、全ての地域で保育士の年収は全業種平均を下回る(7)。

この要因として、保育士は経験やスキルに応じた資格区分がなく昇給しにくい仕組みであることや平均就業年数が短いこと(全業種平均12.1年に対して7.6年)等があげられる。

これらの現状を踏まえて厚生労働省は、保育士の経験や役職等に応じた賃金加算や住宅支援などの処遇改善の方針をまとめている(7)。また、先月、政府は「1億総活躍国民会議」にて、2017年度から保育士の賃金を月額約1万2千円引き上げることや、経験豊富な保育士には更に上乗せすること、定期昇給制度を導入した保育園には助成金を出すこと等の方針を固めた。

このほか保育士確保に向けて、資格試験の回数・実施場所の増加やキャリアアップに向けた研修の充実、離職者(潜在保育士)の再就職支援なども進めている。さらに、保育士不足を補うために、保育士の配置基準を緩和して一定の研修を受講した保育補助員を代用すること等も進められている。

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(6)厚生労働省「「保育士確保集中取組キャンペーン」について」(平成27年12月25日)
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7)厚生労働省「保育士等確保対策検討会 報告書及び各回会議資料」(平成27年11月~12月)
(8)東京都福祉保健局「東京都保育士実態調査報告書」(平成26年3月)
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9)次いで、2位「職員数の増員」(40.4%)、3位「事務・雑務の軽減」(34.9%)。
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おわりに

待機児童の解消に向けて、政府の計画は当初の計画以上に進んでいる。また、政府は保育園の用地不足や保育士不足等の把握できている課題については着実に対処している印象も受ける。しかし、待機児童の状況は依然として都市部を中心に厳しい状況が続いている。

この大きな要因として、需要と供給の量・スピードが合致していないことがあげられる。

需要については、「潜在待機児童」の存在を考慮し、その量に見合う政策を実施する必要がある。国全体として女性の労働力に期待をかける中では、少なくとも「すぐに働きたい意志はあるのに、認可保育園の選考にもれて育児休業を延長した」「保育園に入れないために求職活動を休止している」といった「保育園に空きがないから働けない」という状態は待機児童に含めるべきだ。

また、待機児童問題の原因として、育児休暇を取りにくい非正規雇用者が増えたことで低年齢児からの利用意向が高まったことがあり、非正規雇用者も含めた育児休業の徹底が必要との指摘もある(10)。需要側である子育て世代の雇用環境の改善も検討すべきだ。

供給については、「潜在待機児童」を把握した上で、保育園用地の確保に向けた更なる施策や保育士の処遇改善を早急に実施すべきだ。用地確保については国家戦略特区など地域の特徴が利用された施策もあるが、保育士確保に向けても地域差等の特徴を考慮した対応も検討する必要がある。

政府は、保育士の給与を1.2万円引き上げる方針を固めたが、待機児童の状況は地域により大きく異なる。また、1.2万円引き上げても全産業平均との年収差は埋まりにくい。

限りある財源を効果的に投下するには、保育士の給与を一律に上げるのではなく、人手不足が深刻な地域や一般的に厳しい雇用環境にある民間企業の保育士、特に非正規職員として働く保育士の処遇から手厚く改善していくという考え方もある。

政府が女性の活躍促進を打ち出す中、保育需要は全国的に高まっていくとすると、地域によらず保育士の平均給与が全産業と比べて低水準であることは課題であり、最終的には保育士の給与が底上げされることが理想的かもしれない。しかし、深刻な保育士不足を早期に解決していくには、地域差や雇用形態を考慮することが効果的だろう。

また、待機児童マップで見た通り、待機児童のいない県と待機児童の多い県が近接しているところもある。都市部では保育士の定着を目的に住宅補助や育児休暇中の補助金を支給する自治体もあり、給与だけでなく福利厚生面の充実を図ることで、保育士の人手に余裕のある近接県から保育士を呼び込める可能性もある。

さらに供給については、今、目の前で困っている家庭の救済措置も必要だ。現在、認可保育園の選考にもれて待機児童となってしまった場合、成すすべはない。

東京都の多くの自治体では、認可保育園に入れずに東京都認証保育所(11)を利用する場合、認可保育園との差額を給付している。例えば、この給付の仕組みを拡大し、認証保育所以外の認可外保育施設等や自宅内でのベビーシッターによる保育にも適用できれば、少しでも救済につながるのではないだろうか。

以上のように、待機児童の解消に向けては、需要側と供給側の課題を着実に、かつ極め細やかに解決していく必要がある。

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(10)前田正子「待機児童問題の視点(上)需要側からも解決策探れ、1~2歳児保育、優先」日本経済新聞経済教室(2016/4/14)
(
11)認可保育所の設置基準を東京の現状に合うように変えた独自制度。施設面積の緩和、0歳児保育の実施、駅前の施設設置等がなされている。
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久我尚子(くが なおこ)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 准主任研究員

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