◆経常収支の見通し
原油安を主因として貿易収支が5年ぶりに黒字に転換したこと、円安と多額の対外純資産を背景に第一次所得収支が高水準の黒字を続けたこと、訪日外国人の急増に伴う旅行収支の大幅改善からサービス収支の赤字幅が縮小したことから、2015年度の経常収支は18.0兆円となり、2014年度の8.7兆円から倍増した。
しかし、円高や海外経済減速の影響などから輸出の伸び悩みが続く中、原油価格の持ち直しや2016年度後半には消費税率引き上げ前の駆け込み需要に伴う国内需要の拡大や原油価格の持ち直しによって輸入の伸びが高まることから、貿易黒字が定着するまでには至らないだろう。
経常収支は2016年度末にかけて縮小傾向が続いた後、2017年度は消費税率引き上げ後の国内需要低迷に伴う輸入の伸びが低下し、貿易収支が改善することから、再び拡大傾向となろう。経常収支は2016年度が15.6兆円(名目GDP比3.1%)、2017年度が17.5兆円(同3.4%)と予想する。
◆物価の見通し
消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は、原油価格下落に伴うエネルギー価格の低下を主因として2016年3月に前年比▲0.3%と5ヵ月ぶりのマイナスとなった。原油価格は上昇に転じているが、電気代、ガス代は原油価格の動きが遅れて反映されること、円高で原油価格上昇の影響は一部相殺されることなどから、消費者物価のエネルギー価格は夏場までは前年比で二桁のマイナスを続ける可能性が高い。
また、現時点では消費者物価指数の対象品目のうち7割近くの品目が上昇し、物価上昇の裾野の広がりを示すものとなっているが、為替レートの変動は輸入物価を通じて幅広い品目に影響を及ぼすため、こうした状況は大きく変化する可能性がある。
特に、消費者物価の食料(生鮮食品を除く)は前年比で2%台の伸びを続けてきたが、輸入物価の食料品は前年比で二桁の下落を続けており、国内企業物価の食料品もゼロ近傍まで伸び率が低下している。今後、川上から川下への価格転嫁が進むことにより、消費者物価の食料(生鮮食品を除く)も伸び率が鈍化するだろう。
コアCPI上昇率がプラスに転じるのは、円高、原油安の影響がほぼ一巡する2016年末頃になると予想する。2017年度初め頃には再び原油高に伴うエネルギー価格の上昇などからコアCPIはいったん1%程度まで伸びを高めるが、消費税率引き上げに伴う景気減速によって需給面からの物価上昇圧力が弱まるため、コアCPI上昇率は2%に達する前に鈍化し始めるだろう。
コアCPI上昇率は2016年度が前年比0.0%、2017年度が同0.8%(消費税率引き上げの影響を除く)と予想する。
◆消費増税延期の影響
今回の経済見通しは2017年4月に消費税率が8%から10%に引き上げられることを前提として作成したが、ここにきて増税見送りの観測が高まっている。
2017年4月の増税が先送りされた場合(*3)の成長率への影響を試算すると、2016年度の実質GDP成長率は消費、住宅を中心とした駆け込み需要がなくなることで0.3%低下し0.6%となる。一方、2017年度は駆け込み需要の反動がなくなること、税率引き上げによる物価上昇に伴う実質所得低下の影響がなくなることで実質GDP成長率は消費税率引き上げが実施された場合よりも1%上昇し1.0%となる。
需要項目別には、消費増税延期の影響が大きいのは民間消費、住宅投資で、両者ともに2016年度の伸び率が低下する一方、2017年度の伸び率が大きく上昇する。2016年度の下振れよりも2017年度の上振れが大きいのは、増税見送りによって2017年度は駆け込み需要の反動に加えて、物価上昇に伴う実質所得低下の影響がなくなるためである。
また、消費増税が見送られた場合、2016年度の駆け込み需要がなくなることに伴い輸入の伸びが低下するため、対外収支(貿易収支、経常収支、純輸出)は改善する。
四半期毎の成長率への影響をみると、消費増税が見送られた場合には駆け込み需要がなくなることで2016年度後半の成長率は増税実施の場合よりも低下する一方、2017年度入り後の落ち込みがなくなる。このため、四半期毎の成長率の振れは小さくなることが見込まれる。
(6/8に予定されている2016年1-3月期2次QEの発表を受けた経済見通しの修正は6/9、欧米経済見通しの詳細は6/9発行のWeeklyエコノミスト・レターに掲載予定です)
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(*3)次回の消費税率引き上げが2018年度の場合、2017年度に駆け込み需要が発生することになるが、今回の試算は2019年度以降に延期された場合のものである。
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斎藤太郎(さいとう たろう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部
経済調査室長
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