余分な物を持たない、節約志向が強いというイメージがある「ミニマリスト」。海外では今、このライフスタイルを選ぶ富豪やエリート学生が増えている。最小限の持ち物だけで暮らすという、単なる暮らし方のひとつではないようだ。
「効率」を追求したら、ホームレスに行き着いた?
消費に対する個人の価値観の中に、「時間を買う」という購買動機が存在していることがわかった。「2016年世界の消費者トレンド予測」(ユーロモニター・インターナショナル)による。掃除ロボットが人気を集めているのも、「時間を買う」ことの一例だろう。最近では料理ロボットの開発にも注目が集まっている。富裕層に限らず、ゆとりとは「物を買う」ではなく、「自由な時間を持つ」ことに変わりつつあるといえる。
「ミニマリスト」というライフスタイルを選ぶ富裕層にも、こうした意識の変化があるのだろう。ここで、実際のミニマリストの声を紹介しよう。
「寝るためだけに帰る部屋に払う、家賃の無駄から解放されたことに満足」
年収1000万円超の「Google」の男性社員が、会社の駐車場にトラックを停めて、寝泊まりしていることが話題になった。彼は120万円で購入した中古トラックを改造して、ベッドと簡易的な棚を設置し、通勤時間0分、交通費0円を実現したのだ。シャワーやトイレはオフィスの設備を利用するため、不便なことは特にないという。
「いろいろな出会いがあり、多くの友人を訪ねることもできる。毎日が休暇のような生活」
こう語るのは特急列車のなかで生活をしていたドイツの女子学生だ。彼女も世界中の関心を集めたひとりである。ドイツ鉄道が発行している乗り降り自由のフリーパスを利用して、列車を住居の代わりにするスタイルだ。高い家賃のアパートを出て、最小限必要な物だけをバッグに詰めて、国内を移動していく。冒頭のコメントからも、彼女の充実ぶりが伝わって来る。
「自然体のままでいられるスタイルを維持することが良い仕事につながる」
契約金2億円のメジャーリーガーにもホームレス生活を選んでいる人がいる。新人王候補としてトロント・ブルージェイズに入団した、現デトロイト・タイガースのダニエル・ノリス投手である。古いフォルクスワーゲンのバンの中で寝泊まりし、月の生活費は8万円。ポータブルストーブで自炊し、夜は読書にふける悠々自適な生活を送っている。
ミニマリストを広めたのは2人組ユニット
もともと美術・建築・音楽の分野には、必要最小限を突き詰める「ミニマリズム」という考え方が存在するが、「ミニマリスト」という言葉は、最小を意味する英単語「minimal」をもじった造語だ。インターネット上で検索数が増え始めたのは2009年頃のこと。同時期に米国で活動を広げていた「ザ・ミニマリスツ(The Minimalists)」という2人組が、ライフスタイルとしての「ミニマリスト」を提唱したことがキッカケと言われている。
2人は20代で大金を稼いだものの、物を買っても一向に心が満たされない暮らしをしていたという。彼らが提唱するミニマリズムは、「人生で本当に大切なものにフォーカスするために、過剰なものを取り除くツール」と表現される。「物」にとらわれると優先順位を見失い、人生の目的そのものを見失ってしまうという考えが背景にある。余分な時間や物を削除することで、本当に大切にしたいものに集中できるということがメインテーマなのだ。
ミニマリストの生き方を選ぶ著名人
世界の著名人でミニマリストにあげられるのが、アップル社の創業者である故スティーブ・ジョブス氏や、Facebook創業者のマーク・ザッカーバーグ氏だ。彼らにはいつも同じ服を着ているという共通点があった。
グレーのTシャツでおなじみのザッカーバーグ氏は、同じ服を着る理由を次のように述べている。「すべてのエネルギーを商品・サービスに費やすため、生活のなかの小さな決断の数をできる限り少なくしている」
ジョブス氏に、ザッカーバーグ氏と同様の理由があったかは定かでない。だが、同じ服を着ることで自分自身をブランド化する意図があったといわれている。
日本人では、ハイパーメディア・クリエイターと呼ばれた高城剛氏や、映画監督の紀里谷和明氏の名前があがる。グローバルに活躍する両氏に共通するのは、音楽や映像、書籍などはデータとしてストックし、持ち歩くものを最小限にしていることだ。最新の技術を活用しているのも共通点と言える。
それぞれに目的や方法は違っていても、自分にとってもっとも効率が良い方法を探し続けた結果、たどり着いたライフスタイルということができる。
「貧しい人とは物を少ししか持っていない人ではなく、いくらあっても満足できない人」
世界一貧乏な大統領といわれたウルグアイのホセ・ムヒカ元大統領のスピーチは有名である。「所有する」ということに一石を投じている。このことに気づき、実践を試みた究極の形がミニマリストなのかもしれない。(ZUU online編集部)