2016年1-3月期の実質GDP成長率(1)は前年同期比7.9%増と、前期(同7.2%増)から上昇し、市場予想(2)(同7.5%増)を上回った。資源国を中心に多くの新興国経済が減速するなか、インドは内需拡大を主因に力強い成長が続いていることが明らかとなった。

また2015-16年度通期の成長率は前年度比7.6%増と、前年度の同7.2%増から一段と加速し、2年連続の7%成長を記録した。需要項目別に見ると、投資減退と輸出不振が続く一方でGDPの約6割を占める民間消費の好調が全体を押上げたことが分かる(図表1)。

まず民間消費は前年同期比8.3%増(前期:同8.2%増)と上昇した。足元のインフレ率は前年比5%台前半の低水準な上、中央銀行は昨年1月から政策金利を下げて過去5年間で最も低い6.5%まで引き下げるなど、消費を巡る環境は改善している。

実際、1-3月期の自動車販売台数は前年比9.0%増と拡大傾向が続いている(図表2)。もっとも、昨夏の雨季に続いて乾季の雨不足も続いており、農業所得減少に伴う農村部の購買力低下が消費を下押しする状況は続いている。

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政府消費は前年同期比2.9%増と、前期の同3.0%増から小幅に低下した。

総固定資本形成は前年同期比1.9%減(前期:同1.2%増)とマイナスに転じた。公共投資は、政府の投資支出が前年同期比38.0%増と大幅に増加したことや主要インフラ8業種の生産指数が前年同期比5.0%増(10-12月期:同0.9%増)と上昇するなど好調を維持している(図表3)。

また対内直接投資は外資規制の緩和や積極外交による投資誘致を背景に拡大傾向が続いている。しかし、輸出低迷を受けて製造業の設備稼働率は低水準が続いており、遊休設備を抱える企業のバランスシートの悪化を受けて不良債権問題に悩まされている銀行は融資に消極的になっている。従って、1-3月期の投資の減少は国内の民間企業によるものと見られる(図表3)。

外需については、輸出が前年同期比1.9%減(前期:同8.9%減)とマイナス幅が縮小したものの、5期連続の減少となった。一方、輸入も同1.6%減(前期:同6.4%減)と減少傾向が続いた結果、純輸出の成長率への寄与度は▲0.1%ポイントと、前期の▲0.5%ポイントから若干増加した。

なお、1-3月期は統計誤差の寄与度が4.1%と全体の約半分を占めている。昨年のGDP算出方法の変更以降、GDP統計は鉱工業生産など一部の経済指標との乖離も指摘されており、インド経済の実力はどの程度なのか疑念が残る内容だった。

実質GVA成長率は前年同期比7.4%増の上昇と、前期(同6.9%増)を上回り、市場予想(2)(同7.4%増)どおりの結果となった。産業別に見ると、好調が続く鉱工業とサービス業はやや鈍化したものの、農林水産業の持ち直しや鉱業と電気・ガス・水供給業の上昇が全体を押上げた(図表4)。

成長を支えるサービス業は、卸売・小売、ホテル、運輸・通信業が同9.9%増(前期:同9.2%増)と上昇した一方、金融・不動産・専門サービス業が同9.1%増(前期:同10.5%増)、行政・国防が同6.4%増(前期:同7.2%増)とそれぞれ低下した。

鉱工業は、電気・ガス業が同9.3%増(前期:同5.6%増)、鉱業が同8.6%増(前期:同7.1%増)と上昇した一方、製造業が同9.3%増(前期:同11.5%増)、建設業が同4.5%増(前期:同4.6%増)とそれぞれ低下した。

農林水産業は同2.3%増(前期:同1.0%減)と、二期ぶりのプラスに転じたものの、乾季の雨不足による干ばつが続いて低水準となった。

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先行きも消費はこれまでどおり高い成長が続きそうだ。IMD(インド気象局)は今年のモンスーン(6~9月)の雨量を平年並み(長期平均の106%)との見通しを公表しており、2年ぶりの農業生産の回復が期待されるほか、新年度予算では地方への支出が拡大することから、これまで落ち込んでいた農村部の消費需要が持ち直すものと見られる。また公務員給与引上げに伴う政府支出の拡大も消費をサポートするものと見られる。

もっとも世界経済は不透明感が強く、輸出に改善の兆しは見られない。またアメリカの追加利上げやモンスーンの降雨状況を睨んで中央銀行も追加利下げに踏み切りにくく、民間投資は弱含む展開となりそうだ。結果、インド経済は引き続き消費と公共投資を牽引役とした7%台半ば~後半の高成長が続くものと見られる。

(1)5月31日、インド中央統計機構(CSO)が国内総生産(GDP)統計を公表した。
(*2)Bloomberg調査

斉藤誠(さいとう まこと)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部

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