「ながらウォーキング」を日々の生活に取り入れよう
具体的にどの速さのウォーキングが中強度の運動に相当するかは、その人の体力によって違います。20~30代の人は体力があるので、速歩きでは「なんとか会話ができる程度」という状態にはならないでしょう。若い人にとっては、ジョギングなどが中強度の運動に相当します。40代になって体力が落ちてくると、ジョギングをしながら会話するのは難しくなりますから、速歩きが中強度の運動になります。
つまり、運動の強度で見れば「20~30代にとってのジョギング」と「40代にとっての速歩き」は同じであり、どちらも20分続ければ同じ健康効果を得られるということです。「40代になったらジョギングからウォーキングへの切り替えを考えたほうがいい」と先ほどお話ししたのも、これが理由です。
実は、1日に8,000歩を歩いている人の多くは、とくに意識しなくても、普通に生活を送っているだけで、1年365日の平均を取ると、中強度の運動を1日20分しています。自然と速歩きになったり、階段を昇ったりしているからです。これも中之条研究でわかったことです。
ただ、家事中心の生活をしていると、家の中でよく歩いてはいるけれども、中強度の運動は不足していることがあります。農家の人でも、歩数は多くても、中強度の運動が不足していることが多い。身体を大きく動かす機会が少ない職種の人は、運動の強度を意識するべきでしょう。
逆に、運動の強度は足りているけれども、歩数が不足している人もいます。自動車で通勤し、仕事はデスクワークで、運動はジムでしている、というような人は、気をつけてください。
ビジネスマンがこれからウォーキングを始めるなら、まずは今の自分がどれだけ歩いているか、どれだけ中強度の運動をしているかを確認すること。「身体活動計」と呼ばれる健康器具を使えば、数値を測定できます。その結果、もし「8,000歩/20分」をクリアしていたら、それ以上ウォーキングをする必要はありません。現状の生活習慣を維持すれば、健康を保つことができます。
「8,000歩/20分」に届いていなければ、足りないぶんをウォーキングで補いましょう。とはいえ、そのための時間を特別に作る必要はありません。習慣化するには、普段の生活の中で歩数を増やすのが一番です。会社では、エレベーターを使わず、階段を使う。あえて1階上のトイレに行く。こうした「ながらウォーキング」を取り入れれば、仕事が忙しい人でも無理なく目標を達成できます。
さらに大事なのは、毎日必ず「8,000歩/20分」を達成しようと思わないこと。「今日はデスクワークが多かったので6,000歩しか歩けなかった」という日があれば、他の日に多めに歩いてカバーすればいいのです。1日で達成できなくても、1週間や1カ月で帳尻が合えば良いですし、最終的には1年365日の平均が「8,000歩/20分」になればいい。そう考えることが、長く続けるための秘訣です。
青栁幸利(あおやぎ・ゆきとし)医学博士
1962 年、群馬県生まれ。筑波大学卒業。トロント大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D.)。現在、東京都健康長寿医療センター研究所老化制御研究チーム副部長、運動科学研究室長。群馬県中之条町に住む65歳以上の全住民5,000人を対象に、15 年以上にわたって身体活動と病気予防の関係についての調査を実施。この「中之条研究」は「奇跡の研究」として世界中から注目を浴びる。研究結果をもとにした「メッツ健康法」は自治体や大手企業にも導入されている。著書に『やってはいけないウォーキング』(SB新書)など。(取材・構成:塚田有香)(『
The 21 online
』2016年7月号より)
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