EBAのストレス・テストは追加資本決定のために利用できる参照値

欧州銀行監督庁(EBA)がとりまとめを行っているEU加盟国の大手銀行のストレス・テストについても言及があった。

EBAのテストは、総資産ベースでEUの銀行総資産の70%をカバーする51行が対象。イタリアからはモンテ・テイ・パスキ・ディ・シエナを含む5行が対象となっている。EBAは7月29日の結果を公表する予定だ。

ドラギ総裁は、ECBの監督下にある56行についても同様のテストを行なうことも明らかにすると同時に、これらのテストは、「今年末までに監督機関が必要に応じて課す追加資本(Pillar2、図表4参照)を決定する際に利用できる」参照値という位置づけであるとの見解を示した。

これまでのストレス・テストのように資本の最低要件について点検する位置づけではない。この点も、すでに自己資本の増強は進展しており、支払い能力については大きな問題ではなくなったという当局の認識に反映する。

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社債買入れ残高は104億ユーロ、TLTROIIの利用は借換えを中心に3993億ユーロ

ECBは、金融政策面では、前回6月2日の会合の後、6月8日には社債の買入れを開始、6月29日に期限4年の新型ターゲット型資金供給(TLTROII)の第1回分を実施した。

社債の買入れ残高は7月15日までに104億ユーロに達している。3月の決定を受けて、資産買入れ額は月間800億ユーロに200億ユーロ増額された。6月からは増額分の半分を社債が占めることになる。

TLTROIIでは3993億ユーロが供給された。但し、ECBのバランス・シートを見ると、資金供給の残高は2011年末~12年にかけて期間3年の長期資金供給(LTRO)が実施された局面のような増え方はしていない(図表2)。TLTROIIの利用は、借り換えが大半を占めたと思われる。特に、不良債権問題が懸念されるイタリアの銀行の利用がスペインと並び多かったと思われる。

追加緩和策のメイン・シナリオは買入れ

今後のECBの追加緩和策としては、17年3月に期限を迎える資産買入れプログラム(APP)の半年間の期限延長が濃厚だ。これに伴い、質疑応答で質問された国債買い入れの出資比率基準の見直しや、一銘柄あたりの買入れの上限比率の見直しなどの技術的な変更が考えられる。

14年6月以降、ECBが中銀預金金利のマイナス化、国債等の買入れなど金融緩和を強化するに連れて、ユーロ圏でもイールド・カーブの全般的な低下とフラット化が進んだ(図表3)。英国の国民投票の後、質への逃避もあり、超長期までの国債利回りが全般に低下した。金融機関を取り巻く収益環境は厳しさを増している。

現在マイナス0.4%の中銀預金金利の追加の引き下げは、却って銀行の収益を圧迫するとの懸念につながるリスクもある。ドラギ総裁も、ユーロ圏の銀行の目下の問題は低い収益力にあると指摘した。9月の段階では温存することをメイン・シナリオとして考えている。

ギリシャ国債を適格担保として扱う特例措置は再開済み

前回6月2日の会合では決定を見送ったギリシャ国債を適格担保として扱う特例措置は6月22日に開催された金融政策以外を協議する会合で再開が決まった。5月24日のユーログループ(ユーロ圏財務相会合)で第3次支援プログラムの第1回審査への適合が大筋で認められ、6月21日に欧州安定メカニズム(ESM)から75億ユーロの支援が実行されたことを受けて決定した。

同措置は、反緊縮を掲げた第1次チプラス政権発足後、約束した改革が実行されないリスクが高まったとの判断から15年2月11日に停止されていた。このためギリシャの銀行は、ECBの承認の下でギリシャ中央銀行が行なう緊急流動性支援(ELA)に頼らざるを得なくなり、昨年夏の支援の一時停止による混乱でELAの上限引き上げが見送られたが、銀行の営業の一時停止という事態につながった。

ESMからのギリシャ支援の実行、ECBによるギリシャ国債の担保としての受け入れ開始により、今夏の英国のEU離脱とギリシャ危機の共振だけは回避された。担保の不足という制約はあるが、制度的にはギリシャの銀行もTLTROIIに参加することが可能になった。但し、現時点ではAPPによる国債買い入れの対象とはなっていない。

今回の記者会見では、ギリシャに対する質問はなかった。

伊藤さゆり(いとう さゆり)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 上席研究員

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