ニッポンの母の仕事は、安定した仕事といえるのだろうか

次に、日本の子をもつ女性が果たして安定した仕事を持つことができているのか、についてデータを確認しておきたい。

総数でみると、約4割の母親が正規の仕事を有している一方で、半数を超える約6割の女性が非正規の仕事を有しているという状況である。

54103_ext_15_3

図表2からも明らかなように、母の年齢が上がるほど非正規の割合が上昇してゆく。45歳を超えると約7割が非正規の仕事に従事しているという状況になる。子の食費や教育費は一般的には年齢とともに上がっていくと考えられるため、このような状況は少なくとも母だけの経済力から考えれば、あまり望ましくない状況であるといえる。女性活躍の観点からも問題であると思われる。

以上、結論として、

「ニッポンの母は若くして母になるほど仕事をもちにくく、またその仕事上の地位は大半が安定したものとは言えない」

という状況である。

いわゆる「パート主婦」のあり方の見直しが「子を持つ女性活躍」の第一歩

非正規の仕事といってもその就業形態はいくつか存在する。では、ニッポンの母は一体どのような形態の非正規の仕事に従事しているのだろうか。

図表3を見ると、非正規の仕事に従事している母の実に79%がパートタイムの仕事である。俗に言う「パート主婦」が主流となっている。「パートのお母さんが多い」という感覚は正解である。

54103_ext_15_5

つまり、子を持つ女性の就業希望者の就業継続(女性活躍)問題は2つあることになる。

(1)「仕事をしたいがパートタイムも育児のために難しい」状況からの脱却

(2)「育児中は働き方があわず、正規社員の仕事が選びにくい」状況からの脱却、である。

(1)(2)いずれにしても、母以外の育児担当者がいない限り、達成することは難しい。そのため、保育拡充、男性の働き方の見直しが重要な意味を持っている。しかしこれだけでは、(1)の状態にある女性が仕事をもてる状況へ移行することは可能になっても、(2)のような短時間・短日(週3日など)といった時間制限的勤務と育児を両立させたい女性が勤続年数による給与の上昇が見込めない、すなわち「経済的に頭打ちの地位のまま」であることにはかわりがない、ことに注意したい。

以上から、子を持つ女性の活躍のためには、保育拡充・男性の働き方の見直しとともに、「パート主婦」の地位の是正が望まれるのである。

EU諸国に見られるパートタイムとフルタイムは単純な「時間の長短差」であり、フルタイムとパートタイムの選択に雇用不安的な要素が絡まない仕組みとなっている。ちなみに、日本でも北欧家具のイケアなどがこの「単純な時間差」の労働制度を採用している。

子も持つ女性の活躍推進は、その女性が受け持つ子育てそのものと同じく、決して金太郎飴的なものとなってはならない。「多様な子育て」への支援が、女性の子育てインセンティブ向上には必要となってくる。そのためにはやはり、多くの母が「パート主婦」という経済的に不利な地位にいまだあるという現状の解消は喫緊の課題である、と痛感させられるデータといえよう。

天野馨南子(あまのかなこ)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 研究員

【関連記事】
「脱・産みの苦しみ出産社会」を目指して-少子化社会データ再考:国際的に見た女性活躍と脱少子化に不利な日本のある特徴とは-
未婚の原因は「お金が足りないから」という幻想-少子化社会データ検証:「未婚化・少子化の背景」は「お金」が一番なのか-
「父親・母親の年齢」と出生率 - 脱少子化へ・都道府県別データが示す両者の関係性 -
子どもの数と「世帯主の勤務先」-少子化社会データ再考・親の勤務先はどう影響するか-
生涯未婚率と「持ち家」の関係性-少子化社会データ再考:「家」がもたらす意外な効果-