函館空港
(写真=PIXTA)

地方空港の民営化が各地で進む中、北海道は新千歳など道内7空港の一括民営化案をまとめた。同じ民間業者による一括運営で観光客誘致に弾みをつけるのが狙いで、単独で民営化しても収支見通しが立ちにくい地方空港の赤字を、新千歳空港の収入で埋めることも想定している。

民営化移行時期は東京五輪が開催される2020年とし、年内にも国へ意見書を提出する。管理者の異なる複数空港の一括民営化は国内で初めてで、政府は2017年度に民営化手続きの検討に入る見通し。

民営化手法はコンセッション方式などを軸に検討

北海道空港運営戦略推進室によると、民営化案に入っている空港は、国管理の新千歳、函館、釧路、稚内と、道管理の女満別、市管理の旭川、帯広の計7空港。民営化手法は国や自治体が施設を保有したまま、運営権を売却するコンセッション方式などを軸に検討する。

道内の空港民営化については今年初めに、国から国管理4空港一括民営化の話があり、高橋はるみ知事が受け入れの意向を示していた。その後、道内各空港や管理自治体と協議した結果、民営化ネットワークへの参加希望が出された道、市管理の3空港を加え、7空港一括で検討対象にした。

北海道は11月、国や7空港の地元自治体とともに「北海道における空港経営改革に関する協議会」を発足させ、意見交換するとともに、住民から集めたパブリックコメントの内容も踏まえ、国に意見書を提出する。政府はこれを受け、2017年度中に民営化に向けた具体的な手続きをまとめたい考えだ。

さらに北海道は民営化案策定に合わせ、総合政策部内に専任、兼任合わせて16人の空港運営戦略推進室を設置した。今後、空港民営化の制度設計や関係自治体との意見調整に当たる。

北海道空港運営戦略推進室は「具体的な内容は今後、国や関係自治体と協議して詰めることになるが、地域の発展に向けて各空港の機能強化を図りたい」と意欲を見せている。

急増する訪日外国人、人口減少を補える観光需要

道内は一極集中が進む札幌圏を除き、急激な人口減少が続いている。このため、国土交通省がまとめた2014年度空港別収支で、国管理の4空港のうち黒字だったのは新千歳だけ。函館、釧路、稚内の3空港は9億~12億円の赤字を出していた。道や市管理の空港も釧路など3空港と同様に厳しい状態だ。

赤字の地方空港を単独で民営化しても、経営改善は難しい。そこで、北海道は黒字の新千歳空港と一体化することで、全体の収支改善を可能にしようと考えている。

中国を中心とする訪日外国人観光客の目が北海道に向いていることも、民営化の追い風になりそうだ。外国人観光客の多くは知名度の高い首都圏と京阪神に集中しているが、地方では北海道が唯一、まとまった数の観光客を集めている。2014年度は154万人が訪れた。

中国では道内を舞台にした映画やドラマが人気を集め、ブームとなっている。雪が降らない中国南部や東南アジアの人にとって、北海道の雪はリゾート気分を盛り上げる。このため、シーズン中は新千歳空港が外国人観光客であふれるなど、活況を呈してきた。人口減少を補うだけの交流人口拡大が、訪日外国人から見込めるわけだ。

しかし、現状では各空港がバラバラにポートセールスをし、広域観光を活発にするネットワーク形成がうまく進んでいない。北海道は民営化案の中で複数空港を一体運営することにより、この問題を解決できるとみている。

民間の大胆な発想で空港を商業、観光の拠点に

空港の民営化は欧米で1980年代から本格的に始まった。その流れは中南米やオーストラリア、アジア諸国にも広がり、世界的な傾向となっている。自国だけでなく、他国の空港を運営する会社も珍しくない。

国交省などによると、英国では1986年、国有企業民営化の流れの中で英国空港公団が民営化され、ヒースロー空港などロンドン周辺3空港を含む7空港が一括運営された。運営会社は空港ビル内の商業テナント収入などを原資に着陸料を引き下げ、新路線の開拓などで成果を上げている。

スコットランド地方では、スコットランド政府が100%の株式を保有する官有民営企業が人口の少ないハイランド地方や離島の11空港を運営している。決して利用者が多い地域ではないものの、空港周辺の商業開発を手掛けることで収益を上げ、積極的な路線展開を進めている。

北海道の空港が一括民営化されても、ただ旅客機を飛ばすだけでは英国のような成果を上げるのは難しい。やってきた旅行客をどこでもてなし、どういったルートで道内循環させるかを考えなければ、効果が乏しいだろう。

空港内を商業、観光拠点とし、それで得た利益で世界一高いといわれる着陸料を引き下げる努力もする必要がある。民営化で高速道路のサービスエリアは地域の観光拠点となりつつある。それを空港でも実践しなければ、北海道のような人口減少地域を活気づかせることはできない。

高田泰 政治ジャーナリスト この筆者の記事一覧
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。