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(写真=The 21 online/井上俊次(ランティス社長))

第11回 〔株〕ランティス代表取締役社長 井上俊次

音楽市場の低迷が言われて久しいが、そんな中、アニメ作品で使われる音楽「アニソン」は着実にファンを増やしてきた。数万人規模のライブも行なわれ、年末の『NHK紅白歌合戦』でも歌われるようになっている。

自身もミュージシャンだった井上俊次氏が創業したベンチャー企業ランティスは、そのアニソン専門のレコード会社だ。『涼宮ハルヒの憂鬱』や『らき☆すた』などの人気アニメ作品の音楽を制作したことで知られ、最近では『ラブライブ!』の大ヒットで注目を集めている。井上氏はなぜランティスを創業し、どのように業績を伸ばしてきたのだろうか? お話をうかがった。

『ラブライブ!』大ヒットへの第一歩となったのは?

――御社の当期純利益は、2015年3月期は前期比21.5%増、2016年3月期は同47.4%増と、大きく伸びています。この要因はなんでしょうか?

井上 まず、ヒット作に恵まれたということがあります。それから、従来は男性のお客様が多かったのですが、同じくらいの数まで女性のお客様も増えてきて、お客様の幅が広がったということが言えると思います。あとは、CDなどのパッケージだけではなくて、ライブや配信の事業が広がってきたこともありますね。

――ヒット作というのは、具体的には?

井上 爆発的だったのは、やはり『ラブライブ!』です。

――『ラブライブ!』は、御社の他、アスキー・メディアワークス(現KADOKAWA)と、御社と同じバンダイナムコグループのアニメ制作会社サンライズの3社による合同プロジェクトですね。どのような経緯で始まったのでしょうか?

井上 話せば長くなるのですが、サンライズの若手プロデューサーが温めていた企画だったんです。架空のスクールアイドル(μ's)が歌う楽曲を当社が作り、サンライズがアニメーションでそのPVを作り、さらにアスキー・メディアワークスの『電撃G's magazine』でアイドルのストーリーを連載するという組み合わせで、「面白そうだからやりましょう」ということで、2010年にスタートしました。

とはいえ、その時点ではテレビアニメ化も決まっていませんでしたし、はじめはCDを出してもヒットしませんでした。2,000枚も売れなかったんじゃないかな。

――ヒットするまで長くかかるだろう、という見込みのもとで始めたのですか?

井上 サンライズはガンダムなどのロボットアニメが中心の硬派な会社で、美少女アニメ作品は少なかったんです。そのサンライズが、キャラクターものを多く扱ってきた当社や『電撃G's magazine』と初めて組んで、女性アイドルものをやるということで、「話題性があるから、そこそこいけるんじゃないか」という雰囲気になっていました。

でも、振り返ってみると、会社の名前なんてお客様には関係ないですよね。ファンの方が応援してくれてこそ、うまくいくわけです。会社として新しいことをしたからといって、それでうまくいくわけがない。そう気がついて、言葉は悪いですが、ちょっと放ったらかしにしてしまいました(笑)。でも、そうすると現場の人たちがムキになって頑張ってくれたんです。

――火がついてきたと感じられたのはいつですか?

井上 ライブを始めたときです。1,500~2,000人くらいの会場で、μ'sを演じる9人のキャストの方々がアニメ映像と同じ動きのパフォーマンスをするライブができたときに、少しザワついてきた感じです。当時、そういうライブは珍しかったと思います。

キャストのオーディションには私も立ちあいました。そのときの彼女たちは、声優をしたことがなかったり、歌ったことがなかったり、ステージに立ったことがなかった人がほとんどでした。そこから練習を積んで、クオリティの高いライブができるまでになったんです。

――これほどの大ヒットになると思っていましたか?

井上 今年の3月31日と4月1日の2日間、東京ドーム公演をさせていただきましたが、そこまでいくとは思っていませんでした。アニメ業界で東京ドーム公演をしたのは、水樹奈々さんに次いで2組目ということです。Blu-rayやCDがこんなに大ヒットしたり、紅白歌合戦に出場させていただいたりできるなんて、全然想像もつかなかったですね。

――ライブを観た人たちの間で感動が広がったということでしょうか?

井上 アニメ(2013年・14年にテレビアニメ化、15年に劇場アニメ化)のストーリーに共感していただいた方も多いと思います。アニメと、そのキャラクターをキャストが演じるライブがリンクしていたということが、一番大きかったのではないでしょうか。

――外部から見ると、AKB48の人気が『ラブライブ!』の企画の背景にあったのではないかとも思えるのですが、意識はしていたのでしょうか?

井上 どうでしょうか。AKB48のほうが先にありましたし、他にも『THE IDOLM@STER』など、先行するアイドルものはありました。制作スタッフはそれらの研究もしたでしょうが、『ラブライブ!』はアニメーションとキャストが連動し、同期する、新しいジャンルを作り出したのではないかと思っています。

――『ラブライブ!』の他のヒット作には、どんなものがありますか?

井上 当社所属で10周年や15周年を迎えたアニソンアーティストが大勢出てきていますので、彼らの貢献もかなりあります。

――成長要因の二つ目は女性のお客が増えてきたことだということですが、増やすための施策を打ってきたのですか?

井上 当社の商品を扱ってくださっているショップの方々がディスプレイなどを工夫してくれたということはあると思いますが、我々が女性のお客様を増やそうと意識していたわけではありません。ただ、以前と違って、今はアニメ業界で働く女性が増えています。当社もスタッフの半分以上が女性。彼女たちが、自分たちが楽しめる作品を作ることで、女性のアニメファンが増え、当社のお客様にも女性が増えたのではないでしょうか。