「これをあげよう」「ありがとう!」ともらったら、実は知らないうちに贈与税がかかっているかもしれない。

この贈与税、税金の中でも高い税金であるが、よく一緒に話題となるのが相続税だ。

2015年1月、相続税が改正され基礎控除が大幅に引き下げとなった。このことで一挙に相続税がかかりやすくなったのだが、特に都市部に戸建てを持っていれば、「財産などないから…」などと言って相続税を無視できない状況になった。

贈与は、相続税を減らす対策の一つである。だが、知らないうちに高額な贈与税がかかってきたら、それこそ大変だ。そこで今回は、贈与税について見ていく。

贈与税とは

そもそも贈与とは、「あげます・もらいます」で成立するもの。口頭で済ますことも認められ、特に書面の必要もない。この贈与で個人から財産をもらったときにかかる税金が、贈与税だ。

では、贈与税がかかる財産はどのようなものだろうか。贈与税は、現金や預貯金だけにかかるのではない。土地や建物、株式など多種多様な財産が含まれる。受け取った保険金にも贈与税がかかることがある。

例えば、契約者(保険料負担者)・被保険者・受取人が全員別々の場合には、受取人に贈与税がかかることになる。保険の契約方法によっては、知らないうちに贈与税がかかってしまうこともあるので注意が必要だ。保険証券や保険会社からのお知らせなどで、契約内容を定期的に確認しておくとよいだろう。

贈与税がかからない財産

財産をもらったからといって、何でも贈与税がかかるわけではない。

会社など、法人からもらった財産(贈与税はかからないが、給与とみなされるため所得税がかかる)や、親や祖父母など、扶養義務者から生活費や教育費に充てるための財産で、通常必要と認められるもの、特定障害者扶養信託契約に基づく信託受益権、香典や花輪代、見舞いなどで、社会通念上相当と認められるもの、直系尊属からの住宅取得等資金の贈与の特例、直系尊属からの教育資金の一括贈与の特例、直系尊属からの結婚・子育て資金の一括贈与の特例のように、贈与税がかからない財産もある。

これらを見てみると、生活上必要な資金についてまで贈与税はかからず、直系尊属(親や祖父母など)から子や孫への贈与については、特例がいくつかあるというのがわかるだろう。

特例は国の政策によって決まるもの。本来は贈与税がかかるものであっても、特例で贈与税をかからないようにすることも可能だ。どういう特例があるのか、それは実際に使えるものなのか、など定期的に確認するとよいだろう。

贈与税は相続税の補完税といわれる。同じ人から財産をもらっても、生前なら贈与税、亡くなったら相続税がかかる。相続税を減らそうと生前に贈与をしたとしても贈与税がかかるので、減った相続税を補うことができる仕組みだ。贈与税だけ、相続税だけで考えるのではなく、贈与税と相続税を合わせて考えていくことをおすすめしたい。

贈与税が控除されるもの

贈与でもらった財産に贈与税がかかるのはわかったが、もらった財産全額に税金がかかるのだろうか。

贈与税には「控除」というものがある。控除とは、もらった財産の金額から差し引くことができるもので、大きく分けて二つある。一つは、暦年課税の110万円の基礎控除。もう一つは、相続時精算課税の2500万円の控除だ。

控除を活用すれば、もらった財産全部に税金がかかることはなく、仮にもらった財産がそれぞれの控除額までなら、贈与税はゼロということになる。

贈与税は1年単位(1月~12月)で計算する。この計算の方法には暦年課税と相続時精算課税との2つの方法がある。いずれを選ぶかによって、かかる贈与税が違ってくるため注意したい。

暦年課税による計算

暦年課税は、1年間にすべての人からもらった贈与を合計して、贈与税を計算する方法である。暦年課税の場合は、父母や祖父母だけでなく、だれからの贈与でも合計して計算する。

相続時精算課税による計算

一方、相続時精算課税は原則60歳以上の親や祖父母などの直系尊属からの贈与に限定されており、贈与を受ける子や孫も20歳以上に限定されている。

相続時精算課税は、この制度を選択した父母や祖父母ごとに、選択した年から相続が開始するまでにもらった贈与すべてがこの制度の対象となる。そして、将来相続が開始したら、もらったすべての贈与を相続財産に加算し相続税を計算する。 既に払った贈与税がある場合には、差額を精算するという仕組みだ。

1年ごとの贈与税の計算は、相続時精算課税を選択した人からの贈与とそれ以外の贈与に分けて行う。相続時精算課税を選択した人からの贈与の場合、複数年累計で2500万円に達するまでは控除を受けられるが、それを超えた金額については 20%の贈与税 がかかる。相続時精算課税以外の贈与については、上記の暦年課税の方法で贈与税を計算することになる。

相続時精算課税での計算時の注意点

相続時精算課税で気をつけたい点がある。それは、一度この制度を選択したら途中でやめることができないということ、暦年課税の110万円の控除が使えなくなるということだ。相続財産の金額によっては、この制度を選択すると不利になることもありえる。また、税務署への届出(「相続時精算課税選択届出書」)のほか、毎年贈与税の申告が必要となる。

父母や祖父母ごとにどちらの制度を選ぶかで、控除できる金額や贈与税だけでなく、将来の相続税も違ってくる。選択する際には、十分に検討してからにしよう。

いくらから贈与税がかかるのか

では、贈与税はいくらからかかるのか。贈与税の計算方法を見ていこう。計算式は以下の通りである。

贈与税=(1年間にもらった財産の合計-基礎控除額110万円)×税率(10~55%)

仮に、今年父から100万円、母から100万円もらった場合、それぞれからもらった金額は110万円の基礎控除額以下だ。これなら贈与税はかからないのかといえばそうではない。110万円の基礎控除を引くのはもらった財産は全部からである。

つまり、父母からの贈与合計200万円-110万円=90万円に贈与税がかかってくることになる。この場合、 税率は10%、贈与税は9万円となる。

贈与税の税率は、一般贈与財産と特例贈与財産の2つに分かれる。一般贈与財産は特例贈与財産に該当しない贈与で、夫婦や兄弟姉妹から受けた贈与が該当する。一方、特例贈与財産は父母や祖父母など直系尊属から20歳以上の子や孫が受けた贈与である。

贈与税の税率は次のとおりである。

一般贈与財産:特定贈与財産以外:夫婦や兄弟姉妹から受けた贈与

基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10%
300万円以下 15% 10万円
400万円以下 20% 25万円
600万円以下 30% 65万円
1000万円以下 40% 125万円
1500万円以下 45% 175万円
3000万円以下 50% 250万円
3000万円超 55% 400万円

特例贈与財産:父母や祖父母など直系尊属から20歳以上の子や孫が受けた贈与

基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10%
400万円以下 15% 10万円
600万円以下 20% 30万円
1,000万円以下 30% 90万円
1,500万円以下 40% 190万円
3,000万円以下 45% 265万円
4,500万円以下 50% 415万円
4,500万円超 55% 640万円

一般贈与財産と特例贈与財産を比較してみると、基礎控除後の課税価格が300万円超からは特例贈与財産の方が一般贈与財産よりも贈与税が安くなる。

贈与税の時効とは

贈与を受けた後になって、贈与税がかかっていたことに気づくこともあるだろう。こんな時にはどうしたらよいだろうか。

実は、贈与税には「時効」がある。贈与税の時効とは、贈与税を徴収する権利が一定期間で消滅することだ。一定期間は原則6年、ただし虚偽の申告その他不正に贈与税の申告を免れた時は7年となる。

また、贈与税の申告そのものをしなかった場合はどうだろうか。その場合は、ペナルティがかかることになる。申告がなければ無申告加算税、申告期限までに納税しなければ延滞税など、本来払うべき贈与税だけでなく、余分に税金を払わなければならなくなる。

では、もし申告を忘れたらどうしたらよいか。そのようなときは、できるだけ早めに申告をし、贈与税を払うことをすすめる。税務署からおたずねや税額が決定される前に自主的に申告をすることで、ペナルティもいくらか安くすむことがある。気づいたらできるだけ早目に対処しよう。

気をつけるべきポイント

贈与は親子や祖父母・孫だけの問題ではない。夫婦でも例外ではない。妻が専業主婦などで収入や貯金がないのに、夫の購入したマイホームの共有名義になったり、頭金を出してもらったりすれば、知らないうちに贈与税がかかっていることもある。

マイホームの贈与の場合、結婚20年以上の配偶者なら、贈与税の配偶者控除で最高2000万円まで贈与税が非課税になる特例もある。ついうっかり、見落としやすい贈与税なので、特に気をつけよう。

贈与のメリットはいろいろあるが、自分で自由に、財産を渡すタイミングを決めることができる点は大きい。思い立ったらいつでも、あげたい人にあげられる。子どもにも、孫にもあげられるのはもちろん、相続人ではない大事な人にもあげることが可能だ。

一方で、デメリットもある。知らないうちに贈与税がかかっていたということだ。

相続対策にも有効な贈与、是非ムダな贈与税を払うことのないよう十分に注意して有効に活用してほしい。

中島 典子 税理士・社会保険労務士・CFP
大手外資系会計事務所の税務部門を経て独立。個人・オーナー経営者・起業家のお金の悩みごとをワンストップでトータルサポート。子どもからシニアまでの金融経済教育で活動。ファイナンシャル・プランナー中島典子税理士事務所・広尾麻布相続センター 代表。 FP Cafe 登録FP。