サラリーマンにとって、所得税の納付は会社の年末調整によって済ませるものであり、時期がくれば生命保険の控除書類や扶養家族の申請をするだけでいい、と考えている人は多いだろう。確かに、年末調整は自身の手間をかけず所得税を納付までも済ませることができるが、プラスの手続きをすることで上乗せ効果の期待できる節税方法もある。

目次

  1. 「特定支出控除」について知ろう
    1. <給与所得控除の速算表(平成28年分)>
    2. <給与所得控除の速算表(平成29年分)>
    3. <給与所得控除の速算表(平成25〜27年分)>
  2. 副業をしている場合の注意点
  3. 配偶者がいる場合に注意すべき節税ポイント
  4. 確定申告の方法とは
  5. 正確な節税のポイントを理解しよう

「特定支出控除」について知ろう

サラリーマンには、勤務先から受け取る給与から差し引く「給与所得控除」がある。給与の額に応じて、控除される額が決まっている。サラリーマンの場合、プライベート利用との区別が困難なため、給与を受け取るために費やしたスーツ代やカバン代を個別に計上することが難しい。そのため、給与の額で所得控除される金額が、以下のように決められている。

<給与所得控除の速算表(平成28年分)>

給与等の収入金額(給与所得の源泉徴収票の支払金額) 給与所得控除額
180万円以下 収入金額×40%、65万円に満たない場合は65万円
180万円超360万円以下 収入金額×30%+18万円
360万円超660万円以下 収入金額×20%+54万円
660万円超1000万円以下 収入金額×10%+120万円
1000万円超1200万円以下 収入金額×5%+170万円
1200万円超 230万円(上限)

<給与所得控除の速算表(平成29年分)>

給与等の収入金額(給与所得の源泉徴収票の支払金額) 給与所得控除額
180万円以下 収入金額×40%、65万円に満たない場合は65万円
180万円超360万円以下 収入金額×30%+18万円
360万円超660万円以下 収入金額×20%+54万円
660万円超1000万円以下 収入金額×10%+120万円
1000万円超 220万円(上限)

<給与所得控除の速算表(平成25〜27年分)>

給与等の収入金額(給与所得の源泉徴収票の支払金額) 給与所得控除額
180万円以下 収入金額×40%、65万円に満たない場合は65万円
180万円超360万円以下 収入金額×30%+18万円
360万円超660万円以下 収入金額×20%+54万円
660万円超1,000万円以下 収入金額×10%+120万円
1000万円超1500万円以下 収入金額×5%+170万円
1500万円超 245万円(上限)

スーツ代などの計上は給与所得控除に含まれていたが、2013年から、一定額を超えた費用は「特定支出控除」として個別の計上が認められている。最近はこの制度も浸透し、サラリーマンでも経費に該当する支出の領収書を個別に集めることが浸透してきている。

通勤費 会社通勤のための公共交通機関の運賃や定期代、自動車のガソリン代など。
転居費 会社の指示のもと転居する際にかかった、通常必要であると認められた支出
研修費 職務に必要と考えられる研修を受講するための支出
資格取得費 職務に通常必要とされる資格を取得するための資格予備校代などの支出
帰宅旅費 担任赴任などの場合に、家族の住む自宅と往復するための移動費(上限あり)
勤務必要経費 職務と関係のある新聞や書籍、スーツ代や通常必要な交際費(上限65万円)

特定支出控除において注意すべきポイントは、一覧表のなかにもある「通常必要なものと認められた支出」に限定されるという定義だ。たとえば、職務で単身赴任が命じられているからといって、不要な距離を何度も新幹線や飛行機で移動するような支出は認められない。

副業をしている場合の注意点

サラリーマンの場合、就業規則で副業を禁止している勤務先が多いが、最近は規則を緩め、副業を許可する会社も増えてきている。ただ、サラリーマンが副業をするにあたり、注意したいポイントがある。それは、「赤字申告」だ。

副業で個人事業主として活動をする場合、事業主として赤字となった収支を、本業の給与所得と相殺することができる。これは「損益通算」といって認められたものだが、この時に節税効果に目が眩んで、架空の赤字申告書を作成して罪に問われる事件が報じられることがある。このなかには、その副業を行うにあたり、直接関係のない経費を計上するケースも多いようだ。

副業の事業報告書を提出する先の「税務署」は税金関係のプロフェッショナルである。副業をする場合は勤務先の年末調整と異なる部分も多いため、専門家にも相談しながら注意して進めたいところだ。

配偶者がいる場合に注意すべき節税ポイント

年末調整に際して、一定の収入以下の配偶者がいる場合は「配偶者控除」が可能だ。一般的には「年収103万円の壁」といわれるこの制度だが、ここで見落とされがちなのが、実は103万円を超過しても、年収141万円までは「配偶者特別控除」の対象となるということだ。配偶者特別控除は所得額で判断されるため、年間所得76万円までが対象となる(年間所得76万円+給与所得控除65万円=年収141万円)。

この配偶者控除は、女性の社会進出を推進する風潮にともない、「廃止論議」が注目されている。代わりに共働きの夫婦を対象とした「夫婦控除」ができるという話も報じられた。配偶者控除を活用しながらも、将来的な廃止に向けてライフスタイルを整備することが必要になってくるのかもしれない。

確定申告の方法とは

節税対策をするためには「確定申告」をする必要がある。確定申告は所得計算の対象となる1年(1月から12月)の翌年2月から3月において、税務署に赴いて必要な書類を提出し、税金を納める手続きのことを指す。以前は細かい書類と格闘するか、費用を出して税理士に依頼することが一般的だったが、最近は労力をかけず確定申告が完了できる「クラウド会計」も知られてきているので、活用するようにしたい。

正確な節税のポイントを理解しよう

サラリーマンなら知っておきたい節税のポイントをまとめた。数年前に開始した特定支出控除を始め、副業や配偶者控除をめぐる動きなど、社会背景の変化にともなって動いている分野も多い。最新の情報をキャッチアップしながら、正確な節税のポイントを理解していくことが大切だといえるだろう。

工藤 崇 FP事務所MYS(マイス)代表
1982年北海道生まれ。北海学園大学法学部卒業後上京し、資格試験予備校、不動産会社、建築会社を経てFP事務所MYS(マイス)設立、代表に就任。WEBコラムを中心とした執筆活動、個人コンサルを幅広く手掛ける。ファイナンシャルプランナー(AFP)。