腐った投資信託の販売を指示しているのは誰か?

「この投資信託、役員の肝いりで導入したんだから絶対に売らないといけない。何が何でも売るんだ!」現場にそんな檄が飛ぶ。

ところが、そういう投資信託に限って売れ行きは芳しくない。

「なぜ、この投資信託が売れないんだ。支店の販売姿勢に問題があるんじゃないのか?」と支店長が本部から叱責されることも珍しくない。こうした光景を見るにつけ、馬鹿馬鹿しさで反吐が出そうになる。売れる投資信託には理由がある。売れない投資信託にも理由がある。

「なぜ、売れないんだ」その答えは簡単だ。「商品に魅力がないからです」誰もが声を大にしてそう答えたいのだが、いかんせん宮仕えの身ではそうはいかない。「支店の総力をあげて販売に注力します」そう答えた支店長は部下に腐った投資信託の販売強化を指示する。そのようにして「負の連鎖」が始まるのだ。

「新しい投資信託を導入したので、お付き合いください」そんな無茶苦茶な販売が現場で行われることになる。

なぜ、そんな腐った投資信託が銀行に導入されることになるのか? 末端の行員には分からない。が、おおよそのところは想像がつく。四季報で銀行の大株主を調べると、保険会社などの金融機関が大株主に名を連ねている。当然、ここからの圧力(表向きにはそんなことは口にできない)があることは小学生だって察しがつくだろう。

ほかにも接待攻勢もあるかも知れない。運用会社や大株主の保険会社から接待された銀行の役員や担当部署の責任者が、商品の善し悪しなどまったく分からないまま、導入を決めてしまうこともあるのかも知れない。私としてはそんなことはないと信じたいのだが、ごく普通に社会生活を営んでいる人間なら、そういうことがあっても不思議ではないと察しがつく。

このように、銀行の金融商品販売の現場では「なぜこんな腐った投資信託を今さら導入するのか理解できない」ということがしばしばある。導入を決定した担当部署や役員の「IQ」がよほど低いのか、オトナの事情があるのか。そうでなければ説明がつかないのだ。

腐った投資信託は「銀行を腐らせる」

いったん新商品が販売されるとなると、その導入コストを回収するために現場には檄が飛ばされる。とにかく売らねばならない。もはや導入の顛末などは関係ない。

だからこそ、保険会社や運用会社は銀行に販売攻勢を仕掛けてくるのだ。そして、現場の銀行員はその商品が良いものであると信じ込まされて、必死で販売する。そのようにして、腐った投資信託はその寿命を延命する事になる。

もはや、どの銀行も金融商品の販売手数料を大きな収益源としてアテにせざるを得なくなっている。にもかかわらず、銀行経営者の金融商品に対する考え方は10年、いや20年遅れている。

表向きは金融商品販売の重要性を語りながら、その本質をまるで理解していない経営者が多い。自ら販売経験がないので分からないのだろう。彼らの金融リテラシーは、お客様のそれよりもはるかに劣っている。「なぜ投資信託の販売が低迷しているんだ!」そう叱責するほど、彼ら自身の無能さが露見する。

なんの戦略もなく、ただ「販売を伸ばせ」とやみくもに檄を飛ばす経営者の姿は玉砕を叫ぶ旧日本軍の姿そのものだ。精神論で金融商品を販売する恐ろしさを彼らは分かっていない。どこかで「負の連鎖」を断ち切らなければならない、そう考える銀行員は私だけではないはずだ。(或る銀行員)