投資へ資金が流れるためには何が必要か?

人々のリスク性資産に対する考え方(リスク許容度)は様々であり、筆者自身は必ずしも皆がリスク性資産投資をすべきとは思わない。ただし、厳しい財政状況と少子高齢化に伴って、今後も公的年金の実質的減額が不可避であることを考えれば、自助努力による資産形成の重要性が従来よりも高まっていることも事実だ。

そうした中で、投資へ資金が流れるようにするためには、どうしたら良いのだろうか?

まずは金融知識の向上が挙げられる。日本の家計は金融知識を学ぶ機会が乏しく、投資を躊躇しやすいと考えられる。実際、金融広報中央委員会の調査でも、日本の家計の金融知識(を問う問題の正答率)は米国・ドイツ・英国をかなり下回っている(1)。学校・職場・地方自治体など様々な場面で、金融教育を強化する仕組みが望まれる。

また、金融商品を販売する側も、商品の仕組みやリスク・リターンについての一層丁寧な説明が出来る体制整備と知識・スキルの向上が求められるだろう。

この点については、我々シンクタンクも家計の金融知識向上に資する積極的な情報発信を行うべきだし、私自身も率先して取り組みたい。

また、投資の促進には、家計のデフレ期待を払拭することも重要だ。デフレ下では現金や預金の実質的価値(購買力)は高まるが、インフレ下では目減りするためだ。現在、預金金利はほぼゼロだが、もし人々が「今後、年2%物価が上昇する」と予想するのであれば、資産価値の目減りを防ぐために、よりインフレに強い資産である株・投資信託・外貨等へと資産を分散するだろう。逆に言えば、現在はそういう状況にないため、現預金が積み上がっているとも言える。

家計のインフレ期待を喚起する特効薬は見当たらないが、政府は地道に規制改革などの成長戦略を推し進め、「日本が成長できるイメージ」を幅広く浸透させる必要がある。

なお、現在政府が推進している働き方改革も投資の後押しになるかもしれない。投資は預金に比べて正直とても面倒くさい。誰もがもともと保有している銀行口座とは異なり、投資を始めるに当たっては、証券口座の開設や無数に存在する投資商品からの商品選択・購入などの手続きが必要になる。また、損益が日々変動するため、情報収集や適切なタイミングでの売却手続きも必要になる。さらに損益が発生すれば、確定申告が必要になる場合もある。

これらの投資をめぐる煩雑さは、長時間労働で疲弊している人々にとっては投資を行わない大きな理由になる。働き方改革の本来の目的とは全く異なるが、長時間労働の是正によって余裕時間が生まれれば、投資を新たに始める動きも出てくるのではないだろうか。

最後に、そもそも先立つもの(生活費以外の余裕資金)が無ければ投資は出来ない。政府が推し進める同一労働同一賃金での非正規職員の待遇改善や賃上げの行方も投資の活性化を占ううえで注目される。

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1)金融広報中央委員会「「金融リテラシー調査」の結果」(2016年6月17日)6ページ
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上野剛志(うえの つよし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 シニアエコノミスト

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