16年12月のASEAN主要6カ国の輸出(ドル建て通関ベース)は前年同月比10.6%増と、前月の同11.4%増から小幅に低下した(図表1)。輸出は16年初から原油価格の底打ちや海外需要の緩やかな回復によって持ち直しに転じ、年末には一段と加速して2ヵ月連続の二桁増を記録した。もっとも輸出の伸び率は振れ幅が大きく、先行きは緩やかな伸びに落ち着いていくものと予想される。

なお、仕向け地別の輸出動向を見ると、東アジア・東南アジア向けや欧州向けが足元で堅調に増加する一方、年前半に大きく増加した米国向けが伸び悩んできている(図表2)。

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タイ の16年12月の輸出額は前年同月比6.2%増と、前月の同10.2%増から低下したものの、高めの伸びを維持して2ヵ月連続のプラスとなった。16年以降、輸出の伸びは上下に大きく振れているものの、金額ベースでは緩やかな増加傾向が続いている。一方、輸入額は前年同月比10.3%増と、前月の同3.0%増から上昇した。結果、貿易収支は9.4億ドルの黒字(前月から6.1億ドル縮小)と、20ヵ月連続の黒字となった(図表3)。

輸出を品目別に見ると、全体の約8割を占める主要工業製品は同5.4%増と、前月の同9.8%増から低下したものの、2ヵ月連続のプラスとなった(図表4)。工業製品の内訳を見ると、機械・装置(同6.9%減)が落ち込む一方、石油化学製品(7.9%増)や家電製品(同7.5%増)、電子製品・部品(同3.1%増)、自動車・部品(同2.2%増)など幅広い品目が増加した。また農産品・加工品も同7.0%増と、前月の同12.2%増から低下したものの、ゴム(同36.2%増)やゴム製品(20.6%増)を中心に増加した。さらに、鉱業・燃料は同19.4%増(前月:同9.4%増)と、石油製品を中心に一段と上昇した。

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マレーシア の16年12月の輸出額は前年同月比6.2%増と、前月の同7.5%増から低下したものの、高めの伸びを維持して2ヵ月連続のプラスとなった。輸出の伸び率は16年初に資源価格が上昇に転じてから緩やかに持ち直し、足元では底打ちの動きがみられる。一方、輸入額は前年同月比7.1%増と、前月の同10.8%増から低下した。結果、貿易収支は19.6億ドルの黒字と、前月から1.3億ドル黒字が縮小した(図表5)。

輸出を品目別に見ると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器は同2.0%増(前月:同13.5%増)と主力の電気・電子製品を中心に低下した(図表6)。また動植物性油脂は同15.7%増と、価格が上昇したパーム油・同製品を中心に2ヵ月連続の二桁増となったものの、前月の同27.6%増から鈍化した。一方、鉱物性燃料は同22.1%増(前月:同13.2%減)と、価格上昇に加えて数量ベースの増加も追い風となって大きく上昇し、2014年7月以来のプラスを記録した。なお、製造品は同3.9%減と、ゴム手袋(同8.2%増)が増加した一方でアパレル(同4.7%減)が減少し、前月(同4.0%減)から横ばいとなった。

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インドネシア の16年12月の輸出額は前年同月比15.6%増と、前月の同21.4%増から低下したものの、2ヵ月連続の二桁増を記録した。輸出は16年前半から資源価格の反転上昇を受けて緩やかに底入れに向かい、年後半は非石油ガスの価格と数量が揃って増加して急伸した。一方、輸入額は前年同月比6.9%減(前月:同3.3%増)と、8ヵ月ぶりのマイナスに転じた。結果、貿易収支は9.9億ドルの黒字と、前月から1.6億ドル黒字が拡大した(図表7)。

輸出を品目別に見ると、全体の7割を占める製造品が同50.8%増(前月:同26.0%増)とパーム油を中心に一段と上昇した(図表8)。また鉱業製品は同27.5%増と、前月の同50.1%増から低下したものの、引き続き高水準を記録した。一方、農産品は同83.6%減と、前月(同25.1%増)から大きく低下し、4ヵ月ぶりのマイナスに転じた。また石油ガスは同5.2%減(前月:同26.3%減)と、マイナス幅こそ縮小したものの、依然として停滞している。

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ベトナム の16年12月の輸出額は前年同月比16.9%増(前月:同16.3%増)と更に上昇し、2ヵ月連続の二桁増となった。輸出の伸び率は昨春に政府目標(前年比10%増)を下回る時期もあったが、年後半は主力の電気・電子製品を中心に勢いを取り戻している。一方、輸入額は前年同月比14.4%増と、前月の同19.6%増から低下した。結果、貿易収支は3.0億ドルの赤字(前月から0.5億ドル減少)と、2ヵ月ぶりの赤字となった(図表9)。

輸出を品目別に見ると、輸出全体の約2割を占める電話・部品が同67.9%増(前月:同17.6%増)と大きく上昇した(図表10)。またコンピュータ・電子部品も同37.8%増(前月:同25.5%増)と上昇した。一方、織物・衣類は同9.0%減(前月:同11.6%増)、履物は同3.2%増(前月:同10.6%増)とそれぞれ低下した。なお、食品はコメ(同17.8%減)が引き続き大きく減少した一方、コーヒー(同27.4%増)、野菜(同28.9%増)、ゴム(同33.6%増)など増加した品目が多かった。 輸出を資本別に見ると、全体の7割を占める外資系企業が同25.2%増(前月:同18.8%増)と一段と上昇する一方、地場企業が同0.8%増(前月:同10.3%減)と大きく低下した。

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シンガポール の16年12月の輸出額(石油と再輸出除く)は前年同月比7.3%増と、前月の同11.8%増から低下したものの、高めの水準を維持して2ヵ月連続のプラスとなった。16年以降、輸出の伸びは医薬品の変動が大きいために上下に振れているものの、基調としては底入れの動きが続いている。なお、総輸出額は前年同月比7.4%増(前月:同8.4%増)、総輸入額は同8.1%増(前月:同9.7%増)と、それぞれ高い水準を維持した。結果、貿易収支は37.8億ドルの黒字と、前月から2.9億ドル黒字が拡大した(図表11)。

輸出(石油と再輸出除く)を品目別に見ると、まず全体の約3割を占める電子製品は同3.6%増と、前月の同3.7%増から横ばいとなった(図表12)。電子製品の内訳を見ると、通信機器(同38.0%減)やPC(同13.5%減)、ダイオード・トランジスタ(同11.5%減)こそ減少しているものの、IC(同27.4%増)やPC部品(同2.9%増)は増加するなど品目毎にバラつきがみられる。また電子製品と同じく全体の約3割を占める化学製品は同17.5%増と、前月の同24.1%増から低下したものの、2ヵ月連続の二桁増となった。化学製品の内訳を見ると、医薬品が同5.3%増(前月:同45.2%増)と鈍化した一方、石油化学製品が同26.1%増(前月:同14.2%増)と一段と上昇した。このほか、その他製品は同4.2%増(前月:同9.9%増)と伸び悩んだ。

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フィリピン の16年12月の輸出額は前年同月比4.5%増(前月:同7.5%減)と上昇し、2ヵ月ぶりのプラスに転じた。輸出額は16年から緩やかに持ち直し、足元では主力の電子製品に息切れ感が出ているものの、一次産品が大きく伸びて増加傾向を維持している。一方、輸入額は前年同月比19.1%増と、前月の同19.7%増から小幅に低下したものの、力強い内需を背景に二桁増を維持した。結果、貿易収支は25.6億ドルの赤字と、前月から横ばいとなった(図表13)。

輸出シェア上位10品目を見ると、まず輸出全体の約5割を占める電子製品は同2.8%減(前月:同7.9%減)から上昇したものの、2ヵ月連続のマイナスとなった(図表14)。電子製品の内訳を見ると、半導体デバイス(同1.9%増)や消費者向け電気製品(同8.0%増)は増加した一方、電子データ処理機(同12.9%減)とオフィス機器(同1.6%減)が減少となった。その他9品目を見ると、ココナツ油(同146.5%増)とその他鉱産物(同104.5%増)、金属部品(同66.4%増)、化学(同42.1%増)、その他製造品(同35.8%増)が増加した一方、イグニッション・ワイヤーセット(同37.8%減)と木工品・家具(同19.2%減)、機械・輸送用機器(同12.9%減)、アパレル(同4.2%減)が減少した。

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斉藤誠(さいとう まこと)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究員

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