40代,英語力,目的意識
(写真=The 21 online)

習得に必要なのは「若さ」ではなく「目的意識の高さ」

一般的には若いほうが英語を習得しやすいと言われるが、長年、企業などで英語研修を手がけてきた中で、菊間ひろみ氏は「英語を学ぶのは40歳からがいい」という結論に達したという。いったいなぜなのか。お話をうかがった。

経験と必要性は若さに優るアドバンテージ

「仕事で使える英語力を身につけたいが、40代にもなれば記憶力が衰えてくる。今から学んでももう遅いかな……」。そんな諦めを持っている人も多いかもしれないが、菊間氏は「40代で英語を始めても、まったく遅くない」と言う。

「私の経験でも、長く英語に触れていなかった40~50代の人が、再び勉強を始めて、英語で電話やプレゼンができるようになった例は珍しくありません。記憶力が多少落ちても、英語を習得するのは十分可能です。むしろ、英語を学ぶのは40歳からのほうがいいぐらいです」

40歳以降のほうがいい理由はいくつかある。1つは「モチベーションの高さ」だ。

「英語を習得するうえで最も重要なのは『毎日コツコツ継続する』こと。どんなに頭が良くても、記憶力が高くても、毎日、習慣のように英語に触れ続けなければ、自然と英語が口から出てくるようにはなりません。ゴルフなどのスポーツが、たくさん練習して身体で覚え込まないとうまくならないのと同じです。

では、毎日続けるためには何が必要かといえば、それはモチベーションです。モチベーションは、40歳以上のほうが、10代の学生よりも高い人が多いと感じます。日頃の業務などで英語の必要性を実感しているからでしょうね」

英語を学ぶ目的が明確になっているのも、40代の強みだという。

「『海外の取引先とメールのやり取りをする』『英語でプレゼンをする』など、具体的に使う場面が決まっていると、仕事で必要な英語だけに絞り込んで覚えられます。また、これまで多くの業務経験を積んできているので、相手に何を伝えるべきか明確に理解しています。ですから、効率良く、必要な英語だけを身につけることができます。学んだ英語をすぐに実践の場で使えるので、成果を感じやすく、モチベーションが持続しやすいのです」

学生時代の勉強法はむしろ忘れてしまったほうがいい

40代にもなると、学生時代にしていた英語の勉強法を忘れている人が多いだろう。実は、これも英語を習得するうえでの大きなアドバンテージだと菊間氏は言う。

「学校で教えている勉強法は、あくまで受験のためのもの。実践的な英語をマスターするためのものではありません。それどころか、英語の習得に悪影響をおよぼすことすらあります」

その最たるものとして菊間氏が挙げるのは「単語のみを丸暗記すること」だ。

「英語学習を始めるとき、単語帳を買って単語のみを覚えようとする人がいますが、単語だけを覚えても、その使い方がわからなければ実際には使えません。単語を単独で覚えるのはナンセンス。『英語はセンテンス(文)単位で覚えて初めて使えるようになる』ということを肝に銘じておきましょう」

また、「日本語の文を英語に直訳する」という勉強法も、弊害のほうが大きいという。

「日本と英語圏では、文化の違いがあります。ですから、日本語のやり取りをそのまま直訳しても、実際には使えないことが多いのです。

たとえば、ビジネスメールの文章。日本では『お世話になっております』から始めることが一般的ですが、英語圏では『こういう目的でメールを送りました』という目的を伝える文から始めます。『お世話になっております』のような挨拶文をそのまま英訳して、メールの冒頭に入れても、相手は困惑するだけです。

ひたすら日本語を英訳する習慣はもうやめましょう。自然な英語表現にたくさん接し、その表現をそのまま使ってください。そうすれば、皆さんの英語はとてもわかりやすいと思われるのです」

場面ごとのフレーズをまずはそのまま覚え込む

実践で使える英語をマスターするには、シチュエーション別に、英語圏の人にとって定番の会話例をフレーズで覚える必要がある、と菊間氏は言う。

「たとえば電話で名乗るときには『This is ◯◯ speaking.』。外線の電話に出るときには、会社名を言ってから『May I help you?』と言う、といった具合ですね。『自分が話したいことをどう英訳するか』を考えるのではなく、『英語圏の人はどう表現しているのか』を考えて、そのフレーズをきっちりと覚えるのです。まずはその段階をきちんと踏むことで、初めて自分が話したいことが言えるようになります」

あるシチュエーションに置かれたときに、そのシチュエーションにおいて定番のフレーズが自然と口から出てくるようになるためには、何度も「音読」をすることが大切だ。

「音読は、リスニング能力を高めるうえでも非常に重要です。人間は、自分が発音できない音はなかなか聞き取れません。カタカナ英語で話していると、英語特有の音が聞き取れず、リスニング力が伸びないのです。ですから、発音は意識的に直しましょう。音声教材のナレーターと同じように発音するよう努めてください」

ポイントは「リエゾン」を意識することだ。

「リエゾンとは、単語の最後の子音と、次の単語の最初の音を連結して発音することです。たとえば、『get you』を『ゲッチュー』、『an apple』を『アナポ』というように発音すること。これを理解して音読すると、ネイティブスピーカーの発音に近づきます。

また、強弱をつけて英文を読むことも重要です。日本人は、英語を話すとき、抑揚をつけずにフラットに話す傾向があります。これはネイティブスピーカーにとっては非常に聞きにくい。英語は音楽のようにリズムがある言語なので、大げさなほどに抑揚をつけて、ちょうどいいぐらいです」

ただし、ネイティブスピーカー並みの発音を目指す必要はないも言う。

「ある言語学者によると、ネイティブスピーカーのような完璧な発音は思春期前でないと身につけるのが難しいらしいです。しかし、そのレベルまでいかなくても大丈夫。ビジネスシーンでも、きれいな英語を話しているのは米国や英国など英語圏の人だけで、ほとんどの国の人は自国訛りの英語を話しています。要は、通じるレベルまで身につければ十分なのです」

菊間ひろみ(きくま・ひろみ)イングリッシュ・トレーナ―
茨城大学人文学部人文学科英文科卒業(英語学専攻)。ロータリー財団奨学生として米国ペンシルバニア州立大学の大学院でTESL(第二言語としての英語教授法)を学ぶ。現在は、〔株〕オーティーシーの主任コーディネーターとして、大手企業や大学向けのTOEICおよび英会話の研修をはじめ、TOEIC教材の開発を担当。著書に『英語を学ぶのは40歳からがいい』(幻冬舎新書)、『TOEICテスト総合対策 初めて~650点』(あさ出版)など多数(取材・構成:杉山直隆)(『 The 21 online 』2017年2月号より)

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