2017年10-12月期の実質GDP成長率(1)は前年同期比7.0%増と、前期(同7.4%増)から低下したものの、市場予想(2)の同6.1%増を大きく上回った。
需要項目別に見ると、民間消費と政府消費が景気の牽引役となっていることが分かる(図表1)。
GDPの約6割を占める民間消費は前年同期比10.1%増(前期:同5.1%増)と大きく上昇した。また政府消費は同19.9%増と、前期の同15.2%増から一段と上昇した。さらに総固定資本形成も同3.5%増(前期:同5.3%減)と、大きく上昇して4期ぶりのプラスとなった。
外需については、輸出が同3.4%増(前期:同0.9%減)と上昇した一方、輸入も同4.5%増(前期:同7.4%減)と大きく上昇した結果、純輸出の成長率への寄与度は▲0.3%ポイントと、前期の+1.6%ポイントから低下し、3期ぶりのマイナスとなった。
実質GVA成長率は前年同期比6.6%増と、前期の同6.7%増から若干低下したものの、市場予想(同6.0%増)を大きく上回る結果となった(図表2)。
成長を支えるサービス業は同6.8%増(前期:同8.2%増)と低下した。内訳を見ると、卸売・小売、ホテル、運輸・通信業が同7.2%増(前期:同6.9%増)、行政・国防が同11.9%増(前期:同11.0%増)と、それぞれ小幅に上昇したものの、金融・不動産・専門サービス業が同3.1%増(前期:同7.6%増)と低下した。
鉱工業は同6.6%増(前期:同5.1%増)と上昇した。内訳を見ると、まず鉱業が同7.5%増(前期:同1.3%減)と、大きく上昇して3期ぶりのプラスに転じた。また製造業は同8.3%増(前期:同6.9%増)、電気・ガス業は同6.8%増(前期:同3.8%増)と、それぞれ上昇した。一方、建設業は同2.7%増(前期:同3.4%増)と低下した。
農林水産業は同6.0%増(前期:同3.8%増)と、2期連続の上昇となった。
10-12月期GDPの評価
インドでは11月8日に政府が突如、地下経済対策として高額紙幣の使用を禁止し、新紙幣への交換を始めた。しかし、新紙幣の発行が追い付かず、現金が不足して取引に大きな悪影響を及ぼしたため、10-12月期の成長率は6.5%程度まで低下すると思われた。しかし、実際は7%の高成長を維持するという廃貨のショックが見えてこない驚きの結果となった。
10-12月期の高成長は、民間消費が二桁増まで加速したことが主因だ。たしかに10-12月期は、十分な雨量が得られたカリフ期の収穫の本格化によって農業所得が回復したこと、また7月から支給が始まった第7次公務員昇給(平均+23.55%増)も可処分所得の増加に寄与したとみられる。さらに10-12月期の消費者物価上昇率は同3.7%増(前期:同5.2%増)と、農業生産の回復によって食品を中心に低下しており、家計の実質所得の増加が民間消費の追い風になったと考えられる。
もっとも現金決済が取引の9割を占めるインドにおいて、高額紙幣の廃貨は小売業や消費財関連産業、不動産、二輪車販売など現金取引が主流の産業の打撃となったことも確かだ。10-12月期の自動車販売台数(二輪・三輪含む)は前年同期比1.3%増(前期:同14.3%増)と急落したほか、日経PMI指数も11月に大きく低下して楽観・悲観の境目である50を下回っている(図表3,4)。
GDPがこうした指標とは反対の動きを示したことに違和感を覚えるが、CSOのアナント主席統計官は「企業業績や商用車販売、鉄道貨物など現時点で利用可能なデータを反映した」と発言している。
またGDP統計は、現金不足で最も大きな打撃受けたインフォーマル・セクターを捕捉できていない一方、フォーマル・セクターの電子取引の増加を含んでいることが、10-12月期のGDPを押し上げたとも考えられる。
この場合、現金が通常レベルまで流通する1-3月期にはインフォーマル・セクターが持ち直す一方、フォーマル・セクターの取引が減少することになるため、1-3月期のGDPが抑えられる可能性がある。
いずれにせよインドの全労働者の約9割が働くインフォーマル・セクターが受けた廃貨のショックが、GDPの結果にほとんど影響しないとは考えにくい。今後の10-12月期GDPの改訂値や1-3月期GDPの結果は注意して見る必要があるだろう。
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(1)2月28日、インド中央統計機構(CSO)が2016年10-12月期の国内総生産(GDP)統計を公表した。
(2)Bloomberg調査
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斉藤誠(さいとう まこと)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部
研究員
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