米国債,お金の教養
(写真=PIXTA)

お金の教養は、あれば便利かもしれないが、なくても困りはしないもの。もしそう思っているとしたら、これも大きな間違いです。まず、親がお金の教養をつけないままでは、子どもを豊かにできないばかりか、将来、得られるはずの財産が減ってしまう可能性すらあるのです。

たとえば、相続税です。財産を残すのは、少しでも子どもの生活を助けるためですよね。ところが、ただ銀行口座に預金をしておくだけでは、まず、それ以上に殖えることはあり得ません。しかも、基礎控除額を超える財産がある場合には、子どもが相続した時点で
最低でも10パーセント、多くなると55パーセントもの相続税を納めることになります。

(本記事は、菅下清廣氏の著書『一生お金に困らない子どもを育てる45のルール』(PHP研究所)の中から一部を抜粋・編集しています)

将来、子どもが貧困に陥らないために親ができること

親が子に、より効率的に財産を残すには、やはりお金の教養が必要です。お金を生み出し、殖やす。そして最終的に、どういう税制で、どれくらい国に納めなくてはいけなくなるのか。ここまで含めて「資産形成」に関する知識、体験、実績を積み重ねることが、お金の教養なのです。

それには、経済の基本的な知識も必要です。たとえば、「インフレ」とは何でしょう。デフレ時代には5000万円だったマンションが、インフレ傾向に変化した今では6000万円になった、なんて話はよく聞きますよね。

つまりインフレ(インフレーション)とは、物価が上がること……たしかにそうなのですが、この答えだけでは50点です。インフレになると何が起こるか、というメカニズムまでわかっていないと、お金の教養とはいえません。

簡単にいえば、インフレとは物価が上がること、そして同時に「キャッシュの価値が下がること」を意味します。つまり、コツコツと貯金をしても、景気によって銀行口座にあるキャッシュそのものの価値が下がる場合があるわけです。この点を見落としてはいけません。極端なことをいえば、子どもが相続するころにはさらにインフレが進んでいて、せっかく貯めたキャッシュが半分の価値になっている可能性だってゼロではないのです。

お金の教養がある人は、このあたりのことがよくわかっています。

だから、財産をキャッシュで残して、そこからさらに子どもに相続税を払わせる、なんてバカバカしいことはしません。株式や国債として残したり、ゴールドなどの現物資産に変えておいたり……。

これらの方法でもそれなりに相続税はかかりますが、まず前提として、これらの資産は利子(インカム・ゲイン)や値上がり益(キャピタル・ゲイン)などでお金が「殖える」資産です。キャッシュで残すより、はるかに多くを子どもに引き継ぐ方法といっていいでしょう。

お金の教養は人生の必須科目。私がそう考える理由は、もう十分におわかりいただけたかと思います。

資産形成は「しなくてもいいこと」ではない

「資産形成」なんていうと、まるでプラスアルファの選択肢のように思っている人もいます。「してもいいけれど、でも、何もしなければ失うこともないのだから、別にいいや」というような考え方です。

しかし、「資産形成」には、多分に「資産防衛」の意味合いも含まれます。財産をつくり、殖やすこと、そのための知識や体験が、じつは、財産を戦略的に守ることにもつながるわけです。

そしてもっとも重要なポイントは、学校では、いっさい、こうしたことは教えてくれない、ということです。学校のお勉強ができるだけでは、豊かにはなれないのです。

ですから、どんなささいなことからでも、お金の教育を始めましょう。あの世界三大投資家の一人、ジム・ロジャーズ(他にウォーレン・バフェット、ジョージ・ソロス)は、2人の幼い娘に、まず貯金箱をプレゼントしました。そして、何かのお手伝いをしてお小遣いをもらったらその貯金箱へ入れる習慣を、4歳、5歳のころから教えたと、著書のなかで話しています。

子どもが幼くても、まず親がお金の教養を身につけ、小さなことからでも、子どもにお金への関心を持たせましょう。詳しくは後ほどご紹介していきますが、具体的には、子どものために株や国債を買ったり、ある程度子どもが大きくなったら一緒に投資先を考えたりしてみる、などといったことです。

口うるさく「勉強しなさい」というより、もっと積極的でクリエイティブ、そして本当に子どもを幸せにできる家庭教育をする。これこそが、現代の親が果たすべき役割です。

安全性でいえば米国債

「安全性」「流動性・換金性」「利殖性・時間」。これらの視点をつねに持っていれば、そのときどきの目的に応じた投資の形が見えてきます。もし、「今まで子どもの将来のために貯蓄をしていたけれど、投資に切り替えよう」と思うのなら、即座に大きく儲ける必要はありませんね。

ハイリターンは狙わずに、とにかく安全で、当然ながら換金性が確保されていること。そして確実に利益を得られること。長い目で見て、たとえば子どもの結婚や出産のころに、銀行の利子より多くの利益を乗せた額になっていたらいいのではないでしょうか。となれば、「30年物米国債」がぴったりです。三つの視点から「こういう投資がしたい」というビジョンが見えると、自ずと投資すべきものが絞られるのです。

そこで、まず気になるのは「アメリカの国債は、いくらあれば買えるの?」ではないでしょうか。何口買ってもいいのですが、最低限をいえば1000ドルから買えます。今の相場でいうと、12万円くらいですね。ただし、日本の証券会社の窓口で米国債を額面で1000ドル買いたいといっても、相手にされないかもしれません。きわめて小口の取引で、手数料もゼロに近いからです。ネット証券会社や米国債を主に扱う金融機関を探す必要があるかもしれません。

『一生お金に困らない子どもを育てる45のルール』PHP研究所(2016/3/19)画像をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします
『一生お金に困らない子どもを育てる45のルール』PHP研究所(2016/3/19)画像をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

償還期間で変わる利回り

次に気になるのは、「実際、アメリカの国債で、どれくらい利益が出るの?」でしょう。思い切って投資するのですから、やはり、できるだけ多く殖やしたいものですね。それを考える前に、まず国債には「短期国債」「中期国債」「長期国債」「超長期国債」の4種類があることを知っておかねばなりません。

これらは、償還期間、つまり国の借金の返済期限の長さを示しています。短期国債は数ヶ月?半年、中期国債は数年、長期は10年、超長期は30年で償還されます。この償還される期間をつけて「13週債」「5年債」「10年債」などとも呼ばれます。

ちなみに、英語で短期国債は「Treasury Bill(トレジャリービル)」、中期・長期は「Treasury Note(トレジャリーノート)」、超長期は「Treasury Bond(トレジャリーボンド)」と呼ばれるので、合わせて覚えておくといいでしょう。

国債の利殖性は、この償還期間によって異なり、償還期間の長いものほど利回りは高くなります。アメリカの短期国債の利回りは0.5パーセントくらい。これでも日本の銀行に預けておくよりずっと高いのですが、さらに30年物の超長期国債になると、利回りは、2016年2月時点で2.6パーセント台です。

たいていは短期間で利益を得ようとするので、みな短期国債を選びがちです。でも、こと子どものためなのであれば、超長期国債がいいでしょう。たとえば、30年物米国債を買って利子を受け取り続ければ、30年後には、最初の種銭をかなり殖やすことができます。

また、米国債も取引市場で売買されていますから、利子ではなく売買によって利益を得ることもできます。30年の間に、もし債券価格が高くなったら、売ることを考えてもいいでしょう。

加えていえば、米国債はドル建て資産ですから、為替の値動きに連動した利益を得ることもできます。私だったら、円高のときに米国債を買いますね。それをドル高になったタイミングで売って円に戻せばいいのです。

このように、国債は、銀行より利回りのいい貯蓄方法とも考えられるし、値上がりしたときの差額で利益を出せるもの、とも考えられます。いずれにせよ、子どもにお金の教養を授けたいのなら、子どもへのプレゼントとして米国債を買うというのは、素晴らしい選択だと思います。

「30年物は気が長すぎる」と思うのなら、10年物などでもいいと思います。ちなみに日本の10年物国債は現在、特例的に0パーセント(2016年2月のデータ)なのですが、米国債なら10年物でも1.7パーセント台です(2016年2月のデータ)。仮に10歳とか15歳の子どもがいるとして、20歳や25歳になったときに自分の米国債を持っているなんて、ちょっとかっこいいと思いませんか。

国債は、償還期間の直前までにいったん決済し、次の償還期間まで延ばすこともできます。これを「ロールオーバー」といいます。償還期間が近づいてきた、というときに、元本を取り戻して利益を確定させるか、ロールオーバーするか。この判断は、5年後、10年後には立派にものを考えられるようになっている我が子に任せよう、と考えておくのも、夢があっていいですね。

菅下 清廣
スガシタパートナーズ株式会社代表取締役。国際金融コンサルタント、投資家。立命館アジア太平洋大学学長特別顧問。