「ヘッジファンドは危険」のイメージはなぜ生まれたのか?

前回の記事「 お金持ちはなぜヘッジファンドに投資するのか? 」では、海外のヘッジファンドを日本で販売している証券会社の方へのインタビューを通じて、日本の投資家の課題とファンドの販売側の問題点について解説いたしました。

今回は、アジアに住む人々向けに海外資産運用のコンサルティングを行っているB社の社長とコンサルタントのお二方に、ヘッジファンドについてお話を伺いました。

B社はロンドンに上場している会社のグループ企業です。オフショアの資産運用や投資を専門にしており、ヘッジファンドを含む海外で取引されている金融商品を幅広く取り扱っています。日本人への対応は現地の日本人コンサルタントが担当しているそうです。

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(写真=The 21 online)

投資信託は「下げ相場」では利益を生みづらい

高橋 よろしくお願いします。まずは今回のテーマであるヘッジファンドについて伺いたいのですが、そもそも、投資信託との違いは何でしょう?

社長 日本における投資信託を我々は「ミューチュアルファンド」と呼んでいます。ミューチュアルファンドは、資金の運用に関して様々な制約や情報公開などが求められているという特徴があります。

基本的には買う(ロング)という手法のみでの運用となるため、価格の上昇局面でのみ利益を出すことができます。一方、運用手法が限られているため、ファンドマネージャーが運用を失敗しても、壊滅的な損失は発生しないようになっています。

高橋 なるほど、日本の株式相場のようにアップダウンの繰り返しですと、利益が生みづらいんですね。

社長 ヘッジファンドは投資信託の一種でもあります。私募という形での資金調達を行い、ファンドマネージャーは投資手法の制約がありませんので、預かった資金を自由に運用することが可能となります。「買い」だけでなく「カラ売り」(自分の保有していない株を証券会社から借りて売り、株価が下がったら株を買い戻すことで利益を確定する売買手法)を行うことも多いので、下げ相場でも利益を出すことが可能です。

「ヘッジファンドは危険」という印象を植え付けたある事件

高橋 下げ相場でも利益を出すことができる、というのがポイントですね。ヘッジファンドというと「ハイリスク・ハイリターン」の象徴のような存在だと日本では思われているフシがありますが、そのあたりはどのようにお考えですか?

社長 ヘッジファンドがハイリスク・ハイリターンと思われているのは、「ドリームファンド」と呼ばれたLTCMの破綻の影響が大きいでしょう。LTCMはノーベル賞受賞者たちを集めて金融工学理論を駆使した運用を行い、最盛期には年率40%ものリターンを誇りました。ただ、25倍のレバレッジをかけていたこのファンドは経済環境の変化により、あっという間に奈落の底に沈んでしまったのです。1998年のことです。

高橋 私がファンドの世界に興味を持ったのは、まさにこの頃ですね。

社長 現在では、LTCMのような極端なレバレッジをかけた投資スタイルは少ないと思われます。また、ファンドごとに投資方法が異なりますので、ハイリスク・ハイリターン、ミドルリスク・ミドルリターン、ローリスク・ローリターンと色々なタイプがあります。

高橋 ヘッジファンドがローリスク・ローリターンというのも面白いですね。

社長 ローリスク・ローリターンといっても、日本の投資信託のように下げ相場になると軒並みマイナスになるようなことはほとんどありません。

日本の投資信託は「全員成績の悪いクラス」?

高橋 いわゆる絶対収益を追求しているんですね。日本のような上げては下げ、の相場では、そうしたファンドこそ必要とされているはずです。

社長 そうですね。これは日本に限ったことではありませんが、ミューチュアルファンドのパフォーマンスは、S&P500などのベンチマークとの相対評価により判断されます。日本なら日経平均やTOPIXですね。下がり続けているファンドでも、ベンチマークより成績が良ければファンドとしては良いとされてしまうのです。

高橋 俺の成績も悪かったけど、あいつの成績はもっと悪かったから、相対的に学年成績が上がっていたという感じですね。

「利回り」だけでは本当の評価はできない

高橋 御社の取扱商品について教えてください。

社長 当社はヘッジファンドはもちろんですが、ミューチュアルファンド(投資信託)も扱っていますし、仕組債、リート(不動産投資信託)などいろいろな商品を取り扱っています。

コンサル また、一括でお支払いいただく商品と、積立タイプの商品があります。

高橋 日本の金融商品は海外から見るとメリットが少ないと言いますか、いい商品があまり存在しないというような言い方をされることが多いのですが、では、海外商品はいい商品ばかりなのでしょうか?

社長 もちろん、そうとは限りませんが、弊社は200社を超える金融機関との付き合いがあるため、パフォーマンスの良好な商品を選び、紹介するようにしています。

高橋 海外の商品と日本の金融商品の違いは、どんなところにあるのでしょうか。

社長 運用が下手ですよね。

コンサル パフォーマンスの悪い商品が多いと思います。

社長 たとえば、いくら利回りが10%あるとしても、商品の変動率が30%あるとしたら、運用としては失敗です。一方、利回りが10%で変動率が8%であるとしたら、投資する価値があるという判断ができます。

高橋 表面的な利回りよりも、リスクよりもリターンが大きいかどうかという視点が重要だということですね。もっとも、日本の投資信託ですと、そもそもマイナスになってもだれも驚かないという悲しい現状があります。

社長 マイナスになるような運用だったら、やる意味がないです。

日本の金融商品はなぜ低パフォーマンスなのか?

高橋 なぜ日本ではパフォーマンスの良い商品がないのでしょう?

社長 規制が厳しいことや、販売コストが高いことなどが障壁としてあります。腕のいいファンドマネージャーはいても、その力を活かし切れていないのかもしれません。

コンサル ファンドを作る側、売る側、買う側、全ての関係者が、下げ相場になってしまったらマイナスのパフォーマンスが当たり前であるかのように振る舞っていることも、大きな問題だと思います。なぜ下げ相場でも利益の出るようなファンドが日本にないのか、誰も文句を言わないのか不思議です。

高橋 ヘッジファンドの世界は一般の人には「お化け」みたいなものかもしれません。「あるある」と言われていても、出会う機会はほとんどない。都市伝説だと思っている人もいるかもしれないですね。
社長 我々は、そのような方々に良質の金融商品をお届けしたいと思い、タイを拠点にアジア中を飛び回っています。

高橋 なるほど、ありがとうございます。機会があれば、個別のファンドについても教えてください。私も日本では聞けない話がたくさん仕入れられました。

社長 もちろんです。このような機会を頂けたことを嬉しく思います。

いかがでしょうか?あなたの知らないヘッジファンドの世界。次回は日本人のヘッジファンドマネージャーにお話を聞いてまいります。お楽しみに!

※日本国内においてファンドを始めとする有価証券の販売・勧誘を行うには、財務局に登録する必要があります。B社は取材日現在において、日本における登録はございません。

高橋成壽(たかはし・なるひさ)寿FPコンサルティング代表取締役
日本FP協会認定CFP。慶應義塾大学総合政策学部を卒業後、投資商品の営業、外資系生保の営業を経て、ファイナンシャル・プランナー会社を設立。女性のお金に関する悩みを解消するサービスとして、家計管理講座「マネーレッスン」を開講中(『 The 21 online 』2017年03月09日公開)

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