お金持ち,ヘッジファンド,投資
(写真=The 21 online)

ヘッジファンド関係者に聞く「日本の金融商品の問題」

なんとなく、怪しいイメージがつきまとう「ヘッジファンド」。だが、ファイナンシャルプランナーとして活躍する高橋成壽氏によれば、「お金持ち」と呼ばれる人ほど、ヘッジファンドに投資しているという。その理由はなぜか。高橋氏が直接、ヘッジファンド関係者にインタビューを行ない、その秘密を探る。

ヘッジファンドと投資信託は何が違う?

みなさん、ヘッジファンドって聞いたことありますか。

初耳の方も多いでしょうし、言葉だけは聞いたことのある方もいらっしゃるでしょう。相場が乱高下した際にヘッジファンドが原因だとする記事が新聞に載ったりすることもあるので、怪しいものだと感じる方もいらっしゃるでしょう。

ヘッジファンドについて簡単にお伝えすると、相場の上昇時はもちろん、下落時にも利益を出せるような運用手法を取り入れることで、利益を確実に出すことを追求するファンドです。ファンドというのは「大きな資金の塊」であり、不特定多数から集める場合、特定の少人数から集める場合など、規模や資金募集の方法はファンドによって異なります。

不確実な投資の世界にありながら、確実な収益を確保することを使命に資金を運用するのがヘッジファンドなのです。

資金を集めて運用する、という仕組みそのものは、投資信託と似ています。ただ、「お金持ち」と評される人々のほとんどが、投資信託ではなくヘッジファンドに投資しています。それは一体なぜなのでしょうか。

この記事では数回にわたり、ヘッジファンドマネージャー、ヘッジファンド販売者のネットワークを持つ筆者が、当事者へのインタビューを行ないます。そして、そこから日本の投資家がマーケットで成果を上げるためのヒントをお伝えしようと思います。

「資産家」=「お金持ち」とは限らない

今回、あえて「お金持ち」という表現をしました。資産家ではなくお金持ちと書いたのには理由があります。

日本には地主や経営者など資産家と呼ばれる人々がいます。しかし、資産家がたくさんの預貯金を持っているのかというと、実はそうではないケースが散見されます。資産家は「財産がたくさんある」方を指しますが、財産は不動産であったり、会社の自社株式であったりすることも多いからです。

不動産はたしかに資産ではあります。ただ、日本においては経常的なフロー所得に対する所得税・住民税があり、資産の移転時には相続税・贈与税があり、不動産の保有に対しては固定資産税・都市計画税があります。「酷税」と揶揄される日本の税制下で暮らすには、不動産は「負動産」であり、税金という将来債務が常に待ち構えているのです。資産を貯めても貯めても税金で大幅に資産を減らし、次の資産移転時の課税に備えなくてはならない……こんな状況です。

一方「お金持ち」は、①「給料や報酬が高額で毎月の収入が多いケース」と、②「相続や株式公開(IPO)、会社や事業売却(M&A)を通じて、一時に多量の金融資産を取得する」ケースがあります。今回取り上げる「お金持ち」というのは、こちらの方々を指します。

お金持ちには色々な情報が集まります。そのお金持ちが投資信託ではなく「ヘッジファンド」を選んでいるのです。しかも、その投資金額はケタ違いです。最低1億円からなどというような条件を掲げているところも多いのです。

ヘッジファンドの中の人に聞いてみた

以下、日本でヘッジファンドを販売している証券会社に対して筆者が行なったインタビューを、会話形式でお伝えいたします。この証券会社は日本の証券会社であり、海外のヘッジファンドを日本において販売することが可能なA社です。

「インド」「VISTA」「AI」……流行りものの投信に注意

FP :日本の投資信託の問題点や課題は何だと考えていますか?

A社マネージャー(以下、A社) :商品の粗製乱造、顧客利益の軽視、運用成果の計測が不可能なケースが多いことです。

FP :それは、粗悪品が多いということでしょうか?

A社 :その通りです。他にも、販売会社がイニシアチブを持っているので、売りやすい商品ばかりを開発しようという意向が働くことも問題だと思います。

FP :売りやすいというのは、たとえば毎月分配タイプの投資信託のようなものでしょうか?

A社 :それに限らず、売りやすそうなテーマを決めて、今がチャンスをばかりに営業をかけるのです。

FP :中国とか、インドとか、VISTAとか、そういうタイプの「テーマ型投資信託」のことですね?

A社 :はい。ただ、これらは価格のピークで販売が盛り上がるので、実際に利益の出ている人は少ないかもしれません。

FP :確かに、投資信託で儲かったという話はほとんど聞きません。今だと「AIファンド」なんかに資金が集まり始めているようですね。

投資信託は「人で売る」のが現状

A社 :販売する人間も知識が少ないので、商品の開発サイドや企画サイドの説明を鵜呑みにしている可能性もあり、お客様に商品の仕組みとリスクが伝わっていないと思います。

FP :そうですね。「よくわからないけれど、いつも来てくれる証券会社の○○さんが言うなら買ってあげよう」とか、「銀行の支店長さんが自宅まで来てくれたから投資してみよう」みたいな話はものすごくたくさんあります。

A社 :人で売る感じですね。

FP :はい、「商品ではなく人を売れ」といったところですが、そもそもの商品が良くなければ売れないし、売れてもクレームにつながります。

A社 :証券会社や銀行のノルマ主義も、売りやすさばかりを重視する傾向を生み出していると感じます。

FP :うちのお客様には銀行員の方もいますけど、彼らは総じて金融商品に詳しくないですね。何の専門家なのだろうと感じます。勉強しない投資家も悪いのでどっちもどっちですが、もう少し販売側には知識レベルの向上をお願いしたいところです。

A社 :道のりは長そうですね。

12カ月連続プラスの商品も

FP :ところで、A社はヘッジファンドを取り扱っていますが、具体的にはどんな商品でしょう?

A社 :弊社は個別の株式の仲介は行っておりません。また、投資信託の取り扱いもありません。海外のヘッジファンドを金融庁の販売認可を得て、「私募」という形式で勧誘販売しています。

FP :私募というと、一般投資家まで含めた「公募」と違い、限られた範囲の投資家への募集を行なうものですよね。49人までしか投資できないという仕組みだったと思うのですが。

A社 :それとは少し異なり、直近6か月の間に49人までの勧誘が可能になっています。直近6カ月の間に49人勧誘してしまうと、一時的に勧誘枠がなくなる、というルールです。

例えば1月から6月末までに49人に勧誘すると、いったん販売できる枠がなくなります。ただ、1月5日に勧誘した人は、7月5日になると直近6か月の枠から外れますので、ここで一人分、勧誘の枠が空きます。なので、販売を一時停止することはあっても終了することはありません。

FP :投資信託でいうところの「オープン型」ですね、私はてっきり、募集期間が限定されている「クローズ型」なのかと思っていました。

A社 :もちろんクローズ型にもできますが、今のところオープン型を主力に扱っています。

FP :御社のファンドの強みは何ですか。

A社 :過去の実績です。あるファンドは、直近12ヵ月のトータルリターンが常にプラスになっています。

FP :それはすごいですね。公募型にすればものすごい資金が集まりそうです。

A社 :公募型にすると販売するための手続きに莫大なコストがかかります。せっかくパフォーマンスのいいファンドなのに、諸経費の重みで利益が少なくなってしまうのです。

FP :私募だと商品名が公にできないから、販売が大変そうですね。

A社 :その通りです。ですから、FPの方々からのお客様の紹介に期待している面はあります。

「下げ相場」でも利益が出せるのがヘッジファンド

FP :なるほど、公募できないなら直接投資家を開拓するか、FPを開拓するしかないというわけですね。ちなみに、どういった方が投資されているのですか。

A社 :一般の投資家から、いわゆる「お金持ち」までいろいろです。

FP :日本の投資信託との違いは何でしょう?

A社 :投資のパフォーマンスです。先ほども申した通り、直近12ヵ月でマイナスのパフォーマンス、すなわち損をしたことがない商品もあります。

FP :そんなことが可能なんですか。

A社 :ヘッジファンドは下げ相場でも利益が上がりますので、市場に左右されにくいのです。

FP :日本ではなぜ、運用実績の優れた商品が少ないのでしょうか。

A社 :まず、投資家の知識が不足していることがあると思います。一方、販売する側は長期運用を嫌うため、次から次へと商品を変えて販売手数料を稼ぐというビジネスモデルを取る。ただ、これには限界があると思います。

あとは、運用ノウハウに優れたファンドマネージャーがいないことですね。それは、彼らの評価の仕組みのせいだと思います。

日本の投資信託は、「ベンチマーク」という参考数値に対して、運用益が上回ったか下回ったかという相対的な視点で評価されます。一方のヘッジファンドは、いくら利益が出たのかという絶対的な数値で評価されます。ただ、ベンチマークは相場そのものですので、「相場が下落したのでこの投信に損が出てしまったのは仕方がない」という言い訳が可能であり、知識のない投資家もそれをもっともだと納得してしまうのです。

しかし実際は、ヘッジファンドのように相場に対して価格下落時におけるリスク回避の手法を用いることで、下落相場でも利益を出すことは可能なのです。日本の投資信託は言い訳を許す土壌があり、ヘッジファンドは負けたら即解散。これが能力の差につながっていると思います。

対象は「金融資産3,000万円」くらいから

FP :下げ相場でも利益が取れるのであれば、投資家にとっても大歓迎ですね。

A社 :通常、このようなファンドは最低投資金額が1億円単位であるため、年金や金融機関などが投資家になるのです。

FP :1億円からですと、投資できる人は限られますね。

A社 :ですので、今お話ししたファンドは10分の1の1,000万円くらいから投資が可能となっています。

FP :投資信託は1万円くらいから投資できますので、やはりお金持ちのための投資という感じですね。

A社 :金融資産が3,000万円以上あれば、投資対象としてご検討いただけるものと思います。

FP :なるほど。ありがとうございます。

いかがでしょうか。ほんの一部ですが、日本におけるヘッジファンド販売の現場を覗くことができたのではないでしょうか。次回はアジアでのファンド販売を行っている販売会社へのインタビューをお送りしたいと思います。

高橋成壽(たかはし・なるひさ)寿FPコンサルティング代表取締役
日本FP協会認定CFP。慶應義塾大学総合政策学部を卒業後、投資商品の営業、外資系生保の営業を経て、ファイナンシャル・プランナー会社を設立。女性のお金に関する悩みを解消するサービスとして、家計管理講座「マネーレッスン」を開講中。(『 The 21 online 』2016年12月21日 公開)

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