17年2月の ASEAN主要6カ国 の輸出(ドル建て通関ベース)は前年同月比12.7%増と、前月の同12.5%増から小幅に上昇した(図表1)。輸出は16年初から原油価格の底打ちで緩やかに持ち直しに向かい、年後半には一次産品の価格上昇や半導体需要の増加を受けて一段と加速し、現在4ヵ月連続の二桁増を記録している。先行きの輸出は短期的には高水準を維持するだろうが、これまでの価格の上昇要因が剥落するなか、伸び率が一桁台まで鈍化していくものと予想する。

なお、ASEAN5カ国の仕向け地別の輸出動向を見ると、東アジア・東南アジア向けと欧州向けが順調に回復する一方、米国向けが昨年後半から伸び悩む傾向が見られる(図表2)。

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タイ の17年2月の輸出額は前年同月比2.8%減と、前月の同8.8%増から低下し、3ヵ月ぶりのマイナスとなった。2月の輸出の落ち込みは金が前年の急増からの反動減となった影響が大きく、一時的なものと見られる。このように輸出の伸びは上下に大きな振れを伴いながら、16年から資源価格の上昇を受けて緩やかに持ち直しており、足元では半導体需要の増加や中国向けのゴム製品やコメの輸出増などを受けて回復基調が鮮明になっている。一方、輸入額は前年同月比20.4%増と、前月の同5.2%増から大きく上昇した。結果、貿易収支は16.1億ドルの黒字となり、前月から7.8億ドル黒字が拡大した(図表3)。

輸出を品目別に見ると、全体の約8割を占める主要工業製品は同5.9%減と、前月の同8.8%増から大きく低下した(図表4)。工業製品の内訳を見ると、家電製品(同11.0%増)と電子機器(同9.7%増)が高い伸びを維持し、機械・装置(同3.4%増)も回復したものの、主力の自動車・部品(同1.3%減)や石油化学製品(同1.5%増)が低下し、また金(同65.3%減)が高水準を記録した昨年2月からの反動で落ち込んだ。一方、農産品・加工品は同10.1%増(前月:同2.1%増)と、ゴム(同75.3%増)とゴム製品(46.9%増)の好調やコメ(同6.1%増)の回復を受けて上昇した。さらに、鉱業・燃料も同28.9%増(前月:同49.9%増)と伸び率こそ低下したものの、石油製品を中心に二桁増が続いている。

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マレーシア の17年2月の輸出額は前年同月比19.1%増と、前月の同10.6%増から上昇し、2ヵ月連続の二桁増を記録した。輸出の伸び率は16年初に資源価格が上昇に転じてから持ち直し、16年後半には主力の電気電子製品も増加に転じ、回復基調が鮮明になっている。一方、輸入額は前年同月比20.2%増と、前月の同13.0%増から上昇した。結果、貿易収支は19.6億ドルの黒字と、前月から9.6億ドル黒字が拡大した(図表5)。

輸出を品目別に見ると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器は同13.7%増(前月:同6.2%増)と主力の電気・電子製品(同15.2%増)を中心に上昇した(図表6)。また動植物性油脂は同52.2%増(前月:同18.5%増)と、価格が上昇したパーム油・同製品(同53.1%増)を中心に上昇し、4ヵ月連続の二桁増となった。一方、鉱物性燃料は同25.7%増と価格上昇に加えて数量ベースでも拡大しており高い伸びが続いているが、伸び率は前月の同41.4%増から低下した。また製造品も同3.6%増(前月:同3.9%増)と若干低下した。

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インドネシア の17年2月の輸出額は前年同月比11.2%増と、前月の同27.9%増から低下したものの、高水準を維持した。輸出は16年初の原油価格の底打ちを受けて緩やかに持ち直し、年後半には数量ベースでも増加に転じた。さらに年末には一次産品価格が一段と上昇し、輸出の伸びは4ヵ月連続の二桁増が続いている。一方、輸入額も前年同月比10.6%増と、前月の同14.3%増から低下したが、高水準の伸びを維持した。結果、貿易収支は13.2億ドルの黒字と、前月から1.1億ドル黒字が縮小した(図表7)。

輸出を品目別に見ると、まず石油ガスが同7.6%増(前月:同14.8%減)と低下したものの、2ヵ月連続のプラスを維持した(図表8)。次に非石油ガスを見ると、輸出全体の7割を占める製造品は同12.2%増と、パーム油が好調だったものの、前年の急増した宝飾品の反動減の影響で前月の同26.3%増から低下した。また鉱業品も同5.5%増(前月:同50.4%増)と、鉱石・スラグを中心に一桁台まで低下した。一方、農産品は同30.5%増と、前月の同11.6%増から一段と上昇した。

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ベトナム の17年2月の輸出額は前年同月比29.6%増(前月:同5.7%増)と、大きく上昇した。輸出の伸び率は、16年前半に伸び悩んでいたものの、年後半から主力の電気・電子製品やアパレルを中心に勢いを取り戻しており、足元でも政府目標(17年は+6~7%)を上回る傾向が続いている。なお、2月はテト(旧正月)の影響で営業日数が多かったことも輸出の押上げ要因となった。一方、輸入額は前年同月比48.5%増と、前月の同3.9%増から急上昇した。結果、貿易収支は20.4億ドルの赤字となり、前月から32.0億ドル減少した(図表9)。

輸出を品目別に見ると、織物・衣類は同13.9%増(前月:同5.7%増)、履物は同34.6%増(前月:同4.8%減)とそれぞれ大きく上昇した。またコンピュータ・電子部品も同64.9%増(前月:同18.7%増)と一段と上昇した。一方、輸出全体の約2割を占める電話・部品が同3.2%減(前月:同2.6%増)と低下し、6ヵ月ぶりのマイナスとなった(図表10)。これはサムスン電子の新型スマホの発売が昨年は2月だったのに対して今年は4月に遅れているためと考えられる。なお、農産品についてはコメ(同14.6%減)が引き続き減少したものの、ゴム(同237.0%増)、野菜(同44.2%増)、コーヒー(同68.2%増)など大幅に増加した品目が多かった。

輸出を資本別に見ると、全体の7割を占める外資系企業が同26.8%増(前月:同7.8%増)、地場企業が同37.1%増(前月:同1.2%増)と、それぞれ大きく上昇した。

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シンガポール の17年2月の輸出額(石油と再輸出除く)は前年同月比20.8%増と、前月の同9.0%増から上昇し、4ヵ月連続のプラスとなった。輸出の伸びは医薬品の変動が大きいために上下に振れているものの、基調としては16年初に資源価格の上昇を受けて持ち直し、年後半は主力の電子製品の需要が回復して増加傾向が続いている。また2月は旧正月の影響で営業日数が多かったことも輸出の押上げ要因となったとみられる。なお、総輸出額は前年同月比21.3%増(前月:同11.4%増)と更に上昇した一方、総輸入額は同6.2%増(前月:同21.3%増)と低下した。結果、貿易収支は45.8億ドルの黒字と、前月から20.2億ドル黒字が拡大した(図表11)。

輸出(石油と再輸出除く)を品目別に見ると、まず全体の約3割を占める電子製品は同16.5%増と、前月の同6.4%増から一段と上昇した(図表12)。電子製品の内訳を見ると、通信機器(同10.2%減)やPC(同3.2%減)、ダイオード・トランジスタ(同3.6%増)が低迷もしくは停滞する一方、IC(同25.0%増)やPC部品(同19.0%増)が大幅な増加を続けるなど品目毎にバラつきがみられる。また電子製品と同じく全体の約3割を占める化学製品は同20.4%増と、前月の同6.8%増から上昇し、再び二桁増を記録した。化学製品の内訳を見ると、医薬品が同5.0%減(前月:同12.3%増)と引き続き落ち込んだ一方、石油化学製品は同44.4%増(前月:同37.6%増)と高い伸びが続いている。このほか、特殊機械(同111.8%増)や金(同104.3%増)も好調が続いた。

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フィリピン の17年2月の輸出額は前年同月比11.0%増と二ヵ月連続の二桁増となったものの、前月の同24.0%増から低下した。輸出額は16年から資源価格の上昇を受けて一次産品を中心に緩やかに持ち直し、主力の電子製品とその他製品はやや不安定ながらも総じて改善傾向が続いている。一方、輸入額は前年同月比20.3%増(前月:同12.2%増)と上昇し、依然として力強い内需を背景に高水準の伸びが続いている。結果、貿易収支は17.3億ドルの赤字と、前月7.4億ドル赤字が縮小した(図表13)。

輸出シェア上位10品目を見ると、まず輸出全体の約5割を占める電子製品は同14.8%増(前月:同10.6%増)から上昇して2ヵ月連続のプラスとなった(図表14)。電子製品の内訳を見ると、家庭用電化製品(同13.0%減)は昨夏をピークに減少傾向にあるものの、計測制御機器(同24.0%増)や半導体デバイス(同14.8%増)、電子データ処理機(同16.7%増)がそれぞれ大幅に増加している。その他9品目を見ると、電極(同946.9%増)とその他鉱業製品(同107.5%増)、ココナッツオイル(同66.5%増)、その他電子機械・部品(同64.9%増)、金属部品(同29.4%増)、その他製造品(同20.1%増)、化学(同9.6%増)が増加した一方、機械・輸送用機器(同16.8%減)とイグニッション・ワイヤーセット(同13.9%減)が減少した。

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斉藤誠(さいとう まこと)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究員

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