Brexitにともないスタートアップの2割が英国外への移動を検討するなど、多数の在英企業がほかの欧州圏への移動を検討する中、英テクノロジー ・スタートアップがシリコンバレー(米サンフランシスコ)の投資家誘致を狙っている。

近年勢いにかげりが見え始めたシリコンバレーだが、「利益ではなく成長に惜しみなく資金を投じる、エコシステムの発展したテクノロジー都市」として、いまも多くのスタートアップがあこがれる土地だ。

スタートアップの2割が「VC投資がにぶる」と予想

米シリコンバレー銀行が今年1月、テクノロジー(69%)および医療分野(15%) の英スタートアップ・エクゼクティブ941人を対象に実施した調査から、スタートアップの20%が「UKからの本社移動を検討している」 ことが判明した。

同じく20%が「VC(ベンチャーキャピタル)投資がにぶる」「運営コストの増加」などを懸念しており、「外国国籍の従業員の雇用継続」「EU圏からの優秀な人材の確保」に関する不安感が付随する。

いつの時代もスタートアップにとって資本の調達は最大の課題だが、13%が「資金調達が非常に難しくなる」、68%が「多少なりとも難しくなる」 と悲観的だ。不透明な環境からの脱出手段として、55%は「M&A」 を長期的な目標として見ている。

今後の事業環境の改善を期待しているのは48% と、3年前と比較すると31ポイントも減った。シリコンバレー銀行のマネージング・ディレクター、ジェラルド・ブランディー氏は「現時点ではBrexitは山のものとも海のものとも判断しかねる」と、投資家の心情を分析している。

スタートアップにとって成長の機会があふれるシリコンバレー

こうした流れの中、英国に代わる本拠地としてシリコンバレーを視野にいれるテクノロジー・スタートアップも増えてきたようだ。

「ユニコーンの過大評価」に対する疑念が投資家間で広がった2015年の終盤 以降、VCで失速の目立つシリコンバレーだが、2016年の投資額は250億ドル(約2兆7152億円/PwC、CB Insightsデータ)とまだまだ国内・国外投資家を魅了している。

英企業でありながらシリコンバレーに拠点を移し、ビジネス向けチャットサービスで企業価値38億ドル(約4127億1800万円)にまで跳躍を遂げたSlack。カール・ヘンダーソンCTOは、自社の成功が「シリコンバレー以外では実現しなかった」 と語ったと、英BBCは報じている。

ヘンダーソンCTOはUKはリスク回避型傾向が強い点を指摘し、スタートアップが急成長する機会を逃しているとしている。

ロンドンテクに次ぐ急成長を遂げる英北部がシリコンバレーを狙う

首都ロンドンばかりが話題をさらっている英国だが、近年はマンチェスター、リーズ、シェフィールドなどの工業都市を含む英国北部でもテクノロジー産業が活発化しており、ソフトウェアサービスのSageや年間売上高3億3500万ポンド(約455億4956万円)を誇るThe Hut といった大型企業のほか、スタートアップも続々と生まれている。

2016年の投資総額は3億2690ポンド(約407億9102万円/technorthhq.comデータ)。2007年の16.5倍とロンドンに次ぐ急成長 を遂げた。Brexit決定以降、国外からの誘致も多いという。

英ガーディアン紙によると、この次なる英テクエリアが架け橋を築こうと狙っているのがシリコンバレーだ。テクノロジー企業の間では「スタートアップの成長を促進するエコシステムが構築されている」との理由で、シリコンバレーを高く評価する声が多い。

ソーシャル・チケット・エクスチェンジ・マーケット「Vibe Tickets」を立ちあげたルーク・マッシー氏は、「サンフランシスコ(シリコンバレー)の投資家が成長を重視するのに対し、英投資家は利益を優先させる」 と、投資家のスタンスの差を語った。

すでに英北部のスタートアップはシリコンバレー投資家誘致戦略を試みているが、試練が待ちうけていることは明白のようだ。英国籍をもつサンフランシスコの投資家、アンディー・マクローリン氏は「シリコンバレーにとってロンドン以外の英テクノロジー企業は眼中にない」 現状から、英北部スタートアップによるシリコンバレー投資家誘致は難航すると見ている。

過去10年という月日をかけて、ようやく国際的な注目を浴びるレベルのエコシステムを構築したロンドンですら、その道のりは始まったばかりだ。英北部の規模はその地点にすらたどり着いていない。長い年月をかけた戦いが予想される。(アレン琴子、英国在住フリーランスライター)

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