結果の概要:雇用者数は過去数値の下方修正も含めて大幅に伸びが鈍化

6月2日、米国労働省(BLS)は5月の雇用統計を公表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で13.8万人の増加(1)(前月改定値:+17.4万人)となり、+21.1万人から下方修正された前月から大幅に伸びが鈍化し、市場予想の+18.2万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)も下回った(後掲図表2参照)。

失業率は4.3%(前月:4.4%、市場予想:4.4%)とこちらは前月、市場予想を下回り、01年5月以来の水準に改善した(後掲図表6参照)。一方、労働参加率(2)は62.7%(前月:62.9%)と2ヵ月連続の低下となった(後掲図表5参照)。

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(1)季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
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2)労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。
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結果の評価:全体的に冴えない結果

5月の非農業部門雇用者数の伸びが前月から大幅に鈍化したほか、過去2ヵ月についても合計6.6万人下方修正された結果、3~5月の平均月間増加数は12.1万人増と、12~2月の20.1万人増から大幅に伸びが鈍化した。年初来平均では16.2万人増(16年平均18.7万人増)となった。当初発表の4月雇用増加数が20万人超となっていたことから、5月の雇用増加ペースが鈍化することは予想されたが、過去2ヵ月分の下方修正も併せて、ここまでの伸び鈍化はやや予想外であった。

また、家計調査では、失業率が改善を示したものの、労働参加率の低下にみられるように労働市場からの退出による影響であり、5月に関して失業率の低下は、労働需給の改善を必ずしも意味しない。

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さらに、5月の時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比では+0.2%(前月改定値:+0.2%、市場予想:+0.2%)と、下方修正された前月や市場予想に一致したものの、前年同月比は+2.5%(前月改定値:+2.5%、市場予想:+2.6%)と、前月からの改善を見込んだ市場予想に反して前月から横這いとなった(図表1)。このため、賃金上昇率も回復が足踏みとなった。

このようにみると、5月の結果は全体的に冴えない結果と言わざるを得ない。しかしながら、企業の採用意欲が強いほか、後述するADP統計は堅調な伸びを維持しているため、労働市場の回復基調が変調している可能性は低いとみられる。また、労働市場が完全雇用に近づく中、採用が困難になっている可能性についても、労働参加率や賃金上昇率の回復が足踏みしていることを考慮すると、現状ではその可能性も低いだろう。

一方、6月に予定されているFOMCでは、政策金利が引き上げられると予想しているが、5月雇用統計の結果が、金融政策決定に影響することはないとみられる。

事業所調査の詳細:広範な業種で雇用の伸びが鈍化

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事業所調査のうち、非農業部門雇用増の内訳は、民間サービス部門が前月比+13.1万人(前月:+15.4万人)と、前月から伸びが鈍化した(図表2)。

サービス部門の中では、人材派遣業が前月比+1.3万人(前月:+0.4万人)と前月から増加したものの、専門・ビジネスサービス全体では+3.8万人(前月:+3.8万人)と前月から横這いとなった。また、医療サービスが+3.2万人(前月:+4.5万人)となったほか、娯楽・宿泊サービスも+3.1万人(前月:+5.8万人)と、前月から伸びが鈍化した。さらに、小売業は▲0.6万人(前月:▲0.6万人)と、2ヵ月連続で減少した。

財生産部門は、前月比+1.6万人(前月:+1.9万人)と、こちらも前月から伸びが鈍化した。建設業が+1.1万人(前月:▲0.1万人)と前月からプラスに転じた一方、製造業が▲0.1万人(前月:+1.1万人)と減少した。

政府部門は、前月比▲0.9万人(前月:+0.1万人)と前月から減少した。内訳をみると、連邦政府が+0.8万人(前月:▲0.6万人)と前月から増加に転じたものの、州・地方政府が▲1.7万人(前月:+0.7万人)と前月から減少したことが大きい。
前月(4月)と前々月(3月)の雇用増(改定値)は、前月が+17.4万人(改定前:+21.1万人)と▲3.7万人下方修正されたほか、前々月が+5.0万人(改定前:+7.9万人)とこちらも▲2.9万人下方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は▲6.6万人の下方修正となった(図表3)。

なお、BLSの公表に先立って6月1日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+25.3万人(前月改定値:+17.4万人、市場予想:+18.0万人)と、前月から大幅に伸びが加速、市場予想も大幅に上回った。この結果、5月に大幅な雇用の伸び鈍化を示した雇用統計と、不整合な動きとなった。

5月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が26.22ドル(前月:26.18ドル)となり、前月から+4セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.4時間(前月:34.4時間)とこちらは前月から横這いとなった。その結果、週当たり賃金は901.97ドル(前月:900.59ドル)と前月から増加した(図表4)。

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家計調査の詳細:労働力人口は▲40万人超の減少、労働参加率も2ヵ月連続低下

家計調査のうち、5月の労働力人口は前月対比で▲42.9万人(前月:+1.2万人)と、前月から大幅な減少に転じた。内訳を見ると、就業者数が▲23.3万人(前月:+15.6万人)と前月から大幅な減少に転じたほか、失業者数も▲19.5万人(前月:▲14.6万人)と4ヵ月連続の減少となり、労働力人口を減少させた。一方、非労働力人口は+60.8万人(前月:+16.2万人)と、3ヵ月連続の増加となった。この結果、労働参加率は62.7%(前月:62.9%)と2ヵ月連続の減少となり、16年12月以来の水準に悪化した(図表5)。

これまでみたように、労働力人口が大幅に減少したほか、非労働力人口も増加が続いていることから、4月から2ヵ月連続で低下している失業率は、必ずしも労働需給の改善を示唆している訳ではないことに注意が必要だろう(図表6)。

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次に、5月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は、166.3万人(前月:162.6万人)となり、前月対比では+3.7万人(前月:▲6.1万人)と4ヵ月ぶりに増加に転じた。また、長期失業者の失業者全体に占めるシェアが24.0%(前月:22.6%)と、こちらも4ヵ月ぶりに前月から増加した。一方、平均失業期間は24.7週(前月:24.1週)となった(図表7)。

最後に、周辺労働力人口(147.5万人)(3)や、経済的理由によるパートタイマー(521.9万人)も考慮した広義の失業率(U-6)(4)をみると、5月は8.4%(前月:8.6%)と前月から▲0.2%ポイント低下した(図表8)。この結果、通常の失業率(U-3)と広義の失業率(U-6)の差は4.1%ポイント(前月:4.2%ポイント)と、前月から▲0.1%ポイント縮小した。

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(3)周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
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4)U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
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窪谷浩(くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員

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