結果の概要:雇用増加数は予想を大幅に上回り、2ヵ月連続20万人超の増加
8月4日、米国労働省(BLS)は7月の雇用統計を公表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+20.9万人の増加(1)(前月改定値:+23.1万人)となり、前月から伸びは鈍化したものの2ヵ月連続で20万人超の増加、市場予想の+18.0万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)を大幅に上回った(後掲図表2参照)。
失業率は4.3%(前月:4.4%、市場予想:4.3%)とこちらは前月から低下、市場予想に一致した(後掲図表6参照)。一方、労働参加率(2)62.9%(前月:62.8%)とこちらは2ヵ月連続で改善した(後掲図表5参照)。
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(1)季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
(2)労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。
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結果の評価:賃金を除き、事業所、家計調査ともに堅調な労働市場を確認する結果
7月の非農業部門雇用者数が、2ヵ月連続で20万人超となったことから、5-7月期の月間平均増加数は19.5万人増となり、2-4月期の16.3万人増から加速した。また、年初来でも18.4万人増と、16年平均の18.7万人増に迫るペースとなっており、完全雇用に近づいている中でも、雇用増加ペースに陰りがみられていない。
さらに、家計調査でも、失業率が前月から低下したほか、力強い労働力人口の増加を伴って労働参加率は改善しており、労働需給がさらにタイト化している状況が示された。
一方、7月の時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比で+0.3%(前月:+0.2%、市場予想:+0.3%)と、前月を上回ったものの、市場予想には一致した。前年同月比は+2.5%(前月:+2.5%、市場予想:+2.4%)と、こちらは市場予想を上回ったものの、前月に一致した(図表1)。雇用者数、失業率の改善に比べて賃金の回復はもたついている。
このようにみると、7月の結果は、賃金の回復こそもたついているものの、賃金以外では事業所調査、家計調査ともに堅調な労働市場が持続していることを確認する結果と言えよう。
足元で物価上昇圧力が後退しているため、政策金利の引き上げ時期が後ズレするとの見方も一部に出ていたが、今回の雇用統計の結果はそのような見方を払拭するに十分な内容であった。当研究所は引き続き9月のバランスシート縮小開始、12月の追加利上げの見通しを維持する。
事業所調査の詳細:サービス業を中心に雇用の伸びが加速
事業所調査のうち、非農業部門雇用増の内訳は、民間サービス部門が前月比+18.3万人(前月:+16.2万人)と、前月から伸びが加速した(図表2)。
サービス部門の中では、人材派遣業が前月比+1.5万人(前月:+0.3万人)と前月から伸びが加速したこともあって、専門・ビジネスサービスが+4.9万人(前月:+3.2万人)に加速した。また、娯楽・宿泊サービス+6.2万人(前月:+4.0万人)や、医療サービス+3.9万人(前月:+3.6万人)なども前月から伸びが加速した。
財生産部門は、前月比+2.2万人(前月:+3.2万人)と、こちらは前月から伸びが鈍化した。製造業が+1.6万人(前月:+1.2万人)と小幅ながら伸びが加速したものの、建設業+0.6万人(前月:+1.5万人)などで前月から伸びが鈍化した。
政府部門も、前月比+0.4万人(前月:+3.7万人)とこちらも前月から伸びが鈍化した。内訳をみると、連邦政府は横這い(前月:▲0.1万人)と前月のマイナスから横這いまで回復したものの、州・地方政府が+0.4万人(前月:+3.8万人)と前月から大幅に伸びが鈍化したことが響いた。
前月(6月)と前々月(5月)の雇用増(改定値)は、前月が+23.1万人(改定前:+22.2万人)と+0.9万人上方修正された一方、前々月が+14.5万人(改定前:+15.2万人)とこちらは▲0.7万人下方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は+0.2万人の上方修正となった(図表3)。
なお、BLSの公表に先立って8月2日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+17.8万人(前月改定値:+19.1万人、市場予想:+19.0万人)と、+15.8万人から上方修正された前月から伸びは鈍化、市場予想も下回った。これで5-7月期の月間平均増加数は20.1万人増(2-4月期:21.7万人増)と、足元3ヵ月では増加ペースが鈍化しており、加速した雇用統計と異なる動きとなった。
7月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が26.36ドル(前月:26.27ドル)となり、前月から+9セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.5時間(前月:34.5時間)とこちらは前月から横這いとなった。その結果、週当たり賃金は909.42ドル(前月:906.32ドル)と前月から増加した(図表4)。
家計調査の詳細:労働力人口が35万人増加、労働参加率が2ヵ月連続で改善
家計調査のうち、7月の労働力人口は前月対比で+34.9万人(前月:+36.1万人)と、前月から伸びは若干鈍化したものの、2ヵ月連続で大幅な増加となった。内訳を見ると、失業者数が+0.4万人(前月:+11.6万人)と前月から伸びが大幅に鈍化し、僅かな増加に留まる一方、就業者数が+34.5万人(前月:+24.5万人)と前月から伸びが大幅に加速しており、就業者数が労働力人口の増加に貢献したことが分かる。また、非労働力人口は▲15.6万人(前月:▲17.0万人)と2ヵ月連続で減少しており、非労働力人口も労働需給がタイト化していることを示した。これらの結果、労働参加率は62.9%(前月:62.8%)と2ヵ月連続で改善した(図表5)。
失業率は前月から低下したが、労働力人口の増加、労働参加率の改善を伴っており、労働需給の改善を素直に反映した結果と言える(図表6)。
次に、7月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は、178.5万人(前月:166.4万人)となり、前月対比では+12.1万人(前月:+0.1万人)と前月から大幅に伸びが加速した。前月対比で10万人超の増加となるのは、14年2月(+14.9万人)以来である。一方、長期失業者の失業者全体に占めるシェアは25.9%(前月:24.3%)と、3ヵ月連続の増加となった。また、平均失業期間は24.9週(前月:24.7週)とこちらも前週から増加した(図表7)。
最後に、周辺労働力人口(162.9万人)(3)や、経済的理由によるパートタイマー(528.2万人)も考慮した広義の失業率(U-6)(4)をみると、7月は8.6%(前月:8.6%)と前月から横這いとなった(図表8)。この結果、通常の失業率(U-3)と広義の失業率(U-6)の差は4.3%ポイント(前月:4.2%ポイント)と、こちらは前月から+0.1%ポイント拡大した。
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(3)周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
(4)U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
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窪谷浩(くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部
主任研究員
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