世界有数のキャラクター「ハローキティ」を生み出したサンリオの2017年4〜6月(第1四半期)の業績が減収減益という内容で発表された。

2016年の4〜6月の業績と比べてみると、売上高は10.5%の減少、営業利益はさらに大きく37.0%も減少している。「営業活動による利益を稼ぐ力」を表す営業利益率は、13.5%から9.5%と一桁台にまで落ちてしまった。

一方で、私たちの日常生活には今もサンリオのキャラクター達が溢れており、サンリオの運営するピューロランドは大人にも客層を広げたことで入園者数を伸ばし注目を集めている。今回の業績はそうした肌感覚とは少し異なるようにも感じるが、最近の業績の流れを詳しく見てみると、サンリオの大きな課題が浮かび上がってくる。

サンリオの飛躍を後押ししたのは?

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(写真= tanuha2001/Shutterstock.com)

実は、この10年ほどの間にサンリオの業績は大きく移り変わっている。10年ほど前までは国内での事業の落ち込みに引きずられるように、サンリオの業績も衰退局面に入っていた。しかし、2008年3月期を境にサンリオの利益は飛躍的に増えていくこととなる。サンリオの業績は2014年3月期にピークを迎えるのだが、業績の衰退局面にあった2007年3月期と比べると、営業利益は62億円から210億円へと3倍以上に膨れ上がっていた。

急成長の立役者となったのは、海外でのライセンス事業だ。ライセンス事業とは、他社の商品や広告にサンリオのキャラクターを使用することを許諾し、代わりに対価を得るというものだ。サンリオのライセンス事業はまず欧州で、次に米国で急成長を見せた。そこでライセンスされているキャラクターの中心が、あの「ハローキティ」である。

ここで、本社の間接部門のコスト等を除く前の営業利益、つまり直接各事業部に紐づけられる営業利益により、海外事業の成長ぶりを見てみよう。2007年3月期から2014年3月期にかけて、海外事業の営業利益は4倍近くにまで膨らんでいる。一方、その間の国内事業の営業利益は縮小している。

つまり、サンリオの躍進、そして急速なグローバル化を支えたのは、海外におけるライセンス事業、特に「ハローキティ」に対する海外での人気であると言える。サンリオは海外で事業を展開するにあたって現地で人材を雇い、各国の市場に合わせたマーケティングを行っている。こうした現地に合わせた工夫も、海外各国で「ハローキティ」が支持される所以である。

ピーク後、一気にマイナス成長へ傾く

業績がピークに沸いた2014年3月期の裏では、経済危機にさらされる欧州での売上に逆風が吹き始めており、これに続くように米国、アジアといった地域でも成長がマイナスに転じ始めた。それまでの躍進の勢いそのままに逆転し業績は急降下、直近の2017年3月期の営業利益はサンリオの急成長直前期、つまり10年ほど前と同じ水準にまで落ち込んでしまった。

ここ数年の間だけでも、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ制作の『アナと雪の女王』が世界的にヒットするなど、新たなキャラクターが続々と登場し需要を奪っていることもその一因となった。サンリオとしても、海外の営業体制の再構築やキャラクターの多様化を推し進めてはいるが、海外事業の縮小を食い止めることはできていない。また、最近の活況ぶりが話題のピューロランドを含むテーマパーク事業は実は毎期赤字であり、改善はしているものの業績に貢献する段階には至っていない。

これからのサンリオを支えるもの

2017年4〜6月の業績も、そんなサンリオの苦悩がいまだ続いていることを裏付ける内容となっていた。特に営業利益率の悪化が印象的であるが、その理由は業績の悪化が海外ライセンス事業の縮小に起因しているところにある。ギフト販売のように在庫を持たないライセンス事業は、サンリオの事業の中でも突出した利益率を誇る。営業利益(間接部門コスト等を除く前)の7割ほどを稼ぎ出すまでに成長した海外ライセンス事業の縮小によって、サンリオ全体の営業利益率が目減りしてしまったのだ。

しかし決して悪いところばかりではない。まず、昨年の4〜6月の業績と比べると、売上高、営業利益ともに前年からの減少率が縮んでいるのである。「ハローキティ」以外のキャラクターの売り込みやキャラクターカフェの展開といった、海外におけるサンリオの営業強化策の効果が発現してきているとも考えられる。さらに、中国においては化粧品などのライセンス収入の伸びが著しく、昨年4〜6月から増益となっている。

欧米で苦戦する中、今や中国はサンリオ海外事業の稼ぎ頭となっている。中国では「ハローキティ」以外のキャラクターも需要がある上、今年からはアジアでも人気の「ぐでたま」の商品化ライセンスが開始された。潜在的に大きな需要を抱えると見込まれる中国で、どこまで健闘できるのかに注目である。

サンリオの創意工夫により、時代を超え、国を超え、新鮮な魅力を振りまいてきた「ハローキティ」も今年で“43歳”。今までのサンリオの飛躍は「ハローキティ」という突出した存在によって実現した面もある。ライバルが増える一方の業界で、新たなキャラクターをどう魅せ、育てていくか。サンリオのキャラクター創出力が今再び試されている。

三好和紗(みよしなぎさ) 公認会計士
東京大学卒業。大手監査法人にて様々な規模・業種の監査を経験した後、独立。現在は、法人の会計・税務支援や会計書籍の執筆、監修等を行う。