今年も各地で国際芸術祭が開催されている。2回目となった札幌国際芸術祭2017は会期終了まで10日となった。
テーマは「芸術祭ってなんだ?」。全国で乱立気味の芸術祭に対して、ゲストディレクターの大友良英が大きな疑問を投げかけた格好だ。彼はNHKの朝ドラ「あまちゃん」(2013年放送)のテーマソングで一躍有名になったが、ノイズミュージックの先駆者、第一人者として国際的に活躍しているアーティストだ。「参加する前と後で世界の見え方が一変するくらいの、そんな強烈な場を自分たちの手で作り出すこと」が彼の考える「祭り」である。
またサブテーマには「がらくたの星座たち」が掲げられ、「自分たちが捨ててきたものに向き合いつつ未来を発見する」ような作品が選ばれている。これは、メイン会場のひとつとなっている「モエレ沼公園」がゴミ処理場だったことと関連している。この公園をデザインしたのは世界的な彫刻家イサム・ノグチだ。彼は公園のデザインに際して「人間が傷つけた土地をアートで再生する。それは僕の仕事です」という言葉を残しており、それが今回の芸術祭の発想の原点となっている。
テーマを象徴する作品のひとつがモエレ沼公園のガラスのピラミッドに設置された大友と青山泰知、伊藤隆之による《without records》である。今は使われなくなった「ガラクタ」のポータブル・レコードプレーヤーを100台以上使った作品だ。作品タイトルのとおりレコードはないが、コンピュータ制御によって不規則にターンテーブルが回転して「音」を発し、全体でノイズミュージックを演奏する、という作品である。
その作品と対話するように、3層の吹き抜け空間に設置されているのは、松井紫朗の不定形のバルーン状の彫刻作品《climbing time / falling time》である。その黄色い巨大な物体は中に入ることが可能で、観客はそこでも《without records》に出会うことになる。
もうひとつのメイン会場、札幌芸術の森美術館で開催されているクリスチャン・マークレーの回顧展も見応えがある。地面に捨てられたガムや綿棒、ストローなど、ガラクタどころかゴミを使った映像アニメーションには思わず笑みがこぼれるが、音楽や映像、写真、コラージュなど多様な表現を駆使した初期から近作までの彼の作品群は、私たちが芸術表現に抱く固定概念を大いに揺さぶってくれる。美術館の一角にも《without records》のレコードプレーヤーが設置されて、モエレ沼公園と同様に不定期に回転してノイズを発している。両会場は札幌駅を挟んで南北に25km離れているが、すべてのレコードプレーヤーの動きがコンピュータ制御によって連動しているという事実を知ると、札幌全体からノイズミュージックが奏でられているようで、想像をかき立てられる。
美術館に隣接する札幌市立大学のスカイウエイ全体を使った毛利悠子の《そよぎ またはエコー》も必見の作品だ。長大な回廊全体を使ったインスタレーションでは、彼女が北海道の旅からインスピレーションを得て集められた様々な「ガラクタ」がひとつひとつ丁寧に並べられ、電気や磁気によって音を奏でている。回廊の突端に置かれた自動演奏ピアノの音色と砂澤ビッキの詩の朗読がそれに重なっていく。時折明滅する街路灯の大きさに日常のスケール感が狂わされ、元発電所の碍子の形や色合い、テクスチャーの美しさにハッとさせられる。
作品展示やイベントが札幌の街空間全体を使って展開されていることも、今回の芸術祭の特徴だ。すすきのエリアでは雑居ビルのそこかしこに作品が仕込まれ、怪しい雰囲気が醸し出されている。石山緑地や藻岩山、円山動物園でも展示やパフォーマンスが行われる。かと思えば、市電を使った演劇公演やノイズミュージックのライブが行われ、市電そのものをスタジオにした放送局も開局する、といった具合だ。
札幌は、1990年に故バーンスタイの提唱で始まった「パシフィック・ミュージック・フェスティバル」、2007年スタートの「サッポロ・シティ・ジャズフェスティバル」、26回を数える「YOSAKOIソーラン祭り」、2000本のショートフィルムが集まる「札幌国際短編映画祭」、劇場文化を札幌に根付かせようという「札幌演劇シーズン」などなど、文化的なイベントは目白押しだが、そこに札幌国際芸術祭が加わることで、札幌の文化的魅力はさらに奥行きを増したことは間違いないだろう。
残された会期はわずかだが、「現代アートは難解だ」と思われる方も「世界の見え方が一変するぐらいのガラクタ」に出会える札幌に出かけてみてはどうだろうか。
札幌国際芸術祭2017
http://siaf.jp/
吉本光宏(よしもと みつひろ)
ニッセイ基礎研究所 社会研究部
研究理事
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