●米国の大手銀行の決算が出揃った。訴訟を抱えるウェルズ・ファーゴを除き増益。総じて債券トレーディングが低調だったものの、貸出は順調に2%前後伸びており、投資銀行業務も好調。
●金利の上昇と景気拡大で、貸出の増加や利鞘の拡大、投資銀行の好調は当面続くだろう。個人向け与信費用の増加は懸念材料だが、経費圧縮で相殺できる程度に留まるだろう。
●10/3に米金融規制改正案の詳細が提示されたが、議会審議の優先順位は低い。BISの資本規制は結局10月の総会でも決まらず。規制面ではマイナスもない代りプラスも期待できないが、EPSは拡大傾向で、もう一段の株価押し上げには十分。米銀には引き続き強気スタンス。
米銀大手行2017年度3Q概況
2017年度の米大手6行(バンク・オブ・アメリカ、シティグループ、JPモルガン・チェース、ウェルズ・ファーゴ、ゴールド・マンサックス、モルガン・スタンレー)の第3四半期の決算が出揃った。訴訟費用が積み増されたウェルズ・ファーゴを除き、営業利益、当期利益とも、前年同期比増益となった(図表1、2)。
収益の内訳をみると、景気拡大・金利上昇期の典型的なパターンとなっている。資金利益は、貸出ボリュームの増加と(図表3- ウェルズ・ファーゴのみ減少)金利上昇で、資金利益が総じて増加した。M&A仲介や引き受け業務などの投資銀行業務も好調だった。さらに、好調の時に膨らみがちな経費も、3大グループでは減少となるなど、総じて抑制された(図表4- 同じくウェルズ・ファーゴの増加は訴訟関連)。
一方、ネガティブな点は主に2つ。1点目は、取引量の減少や3Q後半の金利上昇(債券価格は下落)で、トレーディング収益が前年同期比大きく減少したこと(図表5)。市場環境次第でブレ易いので、来期以降も不透明である。
2点目は、個人向けの与信費用の増加。一部は、ハリケーンの影響で貸し倒れが増加することに備えたものとのことで、大きな問題とはならない。しかし、現在全米で自動車ローンやカードローン、学生ローンの与信費用が増加しつつあることから、若干注意が必要とみられる(図表6)。
現在、BISでさらなる資本規制厳格化が議論されている。10月にも合意に至るかと思われていたが、依然、フランスなどが反対しており、なかなか意見がまとまらない。厳格な規制が発表されれば一旦株価が下落するリスクもあるが、もともと資本が厚い米銀にはいずれにしても不利にはならないだろう。
一方、米国内ではドッド=フランク法等の規制緩和の議論が続いている。10月3日に、金融規制見直しに関する米財務省の提言が発表された。しかし、米国の議会での優先順位は低いとみられることから、実現には時間がかかりそうだ。
このため、当面、規制面ではマイナス面もない一方、大きなプラスも期待できない。それでも、米銀各行の収益環境は良好で、EPSの拡大が続くとみられる(図表7)。米銀株はEPSに比較的素直に連動していることから、当面株価は堅調に推移すると考える。米銀については、引き続き強気スタンス。
【各グループの3Q決算概況】
◆バンク・オブ・アメリカ
個人向け業務と富裕層取引が好調で、大手行中最も強い決算だった。債券トレーディングは前年比マイナスとなったものの、コスト削減の効果もあり、営業利益も当期利益も大手行中最高の伸び率。四半期利益としては、過去5年余りで最高となった。他社比クレジット・カードが少ないことから、今後も最大の懸念材料である個人向けローンの貸倒費用は、他行比影響が少ないとみられる。好調にも関わらず、経費の削減を続けるとしていることなどから、EPSの上昇は続くだろう。
◆シティグループ
個人向け融資の割合も高いことから逆風の決算だったが、手数料収益の拡大と、債券リサーチ部門の売却益に助けられ、当期利益は前年同期比7%の増益となった。個人向け融資の割合が他行より大きいことに加え、与信費用の増加率は16%と他行を上回ったが、ハリケーンの影響を前倒しで織り込んでいることから、今後もこの勢いで増加するわけではない。経費の抑制を続けられれば、EPSを維持することは可能だろう。
◆JPモルガン・チェース
トレーディング収益は前年同期比2割減となったが、富裕層向けカード業務等個人部門とミドルマーケット等の投資銀行業務で収益を拡大。貸出も利鞘も順調に拡大し資金利益は10%増と大手行中最大の伸び率となった。与信費用は、前年同期比12%増と、前年に続き大きく増加したが、トップライン収益拡大のおかげで、当期利益は、前年比7%の増益。資本比率も前年から上昇しており、自社株買いも期待されることから、EPSの順調な伸びが予想される。
◆ウェルズ・ファーゴ
3Qに、約10億ドルの住宅ローン関連の訴訟費用を発表し、3Qの当期利益は市場予想を大きく下回った。他行が貸出を前年同期比2%以上増やす中、営業体制の見直しを行っているウェルズ・ファーゴでは、貸出が若干減少した。このように、不祥事が実業にも影響を与えてしまっていることから、完全復活にはまだ時間がかかりそうだ。資本も厚く財務に問題はないことから、将来的には業績の巻き返しが期待できるものの、タイミングとしては来年度以降になりそうだ。
◆ゴールドマン・サックス
前四半期に続き、債券等のトレーディングが引き続き軟調。しかし、落ち込み幅は前四半期ほどではなく、2桁増と好調だった投資銀行関連手数料で補った。また、経費も抑制しており、人件費率は過去最低水準となった。これらの結果、3Qの当期利益は前年比微増益。企業の投資意欲は強いとみられ、当面、投資銀行業務の好調は続きそうだが、トレーディングの立ち直りは不透明。なお、これまで個人向け業務の割合が圧倒的に低かったが、昨年オンライン個人向け融資を開始しており、成長面・リスク面ともに注目される。
◆モルガン・スタンレー
トレーディング収入は落ち込んだが、富裕層向け資産管理業務の収益が過去最高となりこれを補った。投資銀行業務も他行同様好調で、純利益は前年同期比11%増の大幅増益となった。但し、来年から欧州で始まるアナリスト業務への厳格な規制による、従来の株式営業への影響がやや懸念される。同社は、商業銀行を主体とする金融グループに比べ、こうした株式業務の比率が高いことから、収益への影響は相対的に大きいとみられる。
大槻 奈那(おおつき・なな)
マネックス証券
チーフ・アナリスト
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