「いつも通っていた店が閉まってしまい、買い物ができない。」

「足が悪くなり、歩けないので買い物に行けない。」

「バスが路線廃止になってしまい、スーパーまで行けない。」

買い物難民,都道府県の役割
(写真=PIXTA)

高齢化や近隣商店の廃業などの理由から、買い物をしたくてもできない買い物難民が増加している。農林水産省(*1)の推計では、現在約850万人の買い物難民の方がいて、2025年には1000万人を超えると予想されている。高齢者にとって、日常的な買物ができなくなることは、生鮮食料品を確保できないだけでなく、毎日交わしていた店での会話もできなくなり、自分で選択するという貴重な機会も失い、精神的な健康を維持する観点からも大きな損失である。店で買い物ができなくなることが、直ちに生存権の侵害になるわけではないだろうが、自治体としては、できる限り買い物難民を救いたいと考えているだろう。事実、経済産業省の調査によると、599の市町村でコミュニティーバスの運行支援や移動販売車の導入・運営支援などの買物弱者支援制度が実施されている。しかし、医療や介護のような国の制度とは異なり、総務省(*2)が指摘するように司令塔なき状態で市町村が独自に支援を行っているのが実態だ。

しかし、もともと民間事業者は採算が合わないなどの理由で撤退していることが多いわけであり、市町村が経済的な支援をしたからといって、順調に運営できているケースは多くない。また、地域によって必要とされるものもまちまちだ。都市近郊のように今後買い物難民の急増が予想される地域もあれば、地方では高齢者人口の減少が始まっているところもある。そうした中で、各市町村は財政を含め資源が限られた中で、どこまで支援していくか、住民に何を実現して、何をあきらめてもらうのかを判断しないといけない。

従来、介護領域だけのコンセプトであった地域包括ケアに医療領域が加わり、医療も含めた地域包括ケアシステムの構築が進められている。2016年度には各都道府県が地域医療構想を策定した。健康保険も運営主体が市町村から都道府県に移る。医療・介護分野における都道府県の役割は従来に比べ大きくなってきている。

これまでどちらかといえば市町村に任されてきた感がある買い物難民の対策も高齢者対策の一環として医療・介護に加えて、高齢者が健康的な生活を送る上で必要不可欠な要素として地域包括ケアの中でとらえ、地域の事情を理解している都道府県が積極的な役割を果たすべきだ。複数市町村にまたがる効率的なサービスの提供も可能になるだろう。それぞれの都道府県において、どんなレベルの「健康で文化的な生活」を高齢者に保障していくのかを明らかにしていくことが、現場での取捨選択の判断を助けるうえでも重要だ。

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(*1)農林水産政策研究所 薬師寺哲郎「食料品アクセス問題と高齢者の健康」(2014)
(*2)総務省「買物弱者対策に関する実態調査」(2017)
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宮垣淳一(みやがき じゅんいち)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 常務取締役 部長

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