17年9月のASEAN主要6カ国の輸出(ドル建て通関ベース)は前年同月比13.2%増と、前月の同16.4%増から低下したものの、3ヵ月連続の二桁増を記録した(図表1)。輸出はイスラム教の宗教行事の影響で上下に振れているものの、増加傾向は続いている。足元では海外経済の回復や新型スマートフォン発売を背景に電子部品需要の増加や一次産品の価格上昇が輸出全体を押し上げている。

先行きの輸出はスマートフォン関連製品を中心に年内まで好調を維持するだろう。来年はベース効果の剥落や半導体需要のピークアウトを受けて伸び率は一桁台に落ち着いていくと予想する。

ASEAN5カ国の仕向け地別の輸出動向を見ると、9月は各地域の伸びは鈍化したが、増加基調に変化は見られない。東アジア向けは同11.8%増と二桁増を維持したものの、北米向け(同8.2%減)とEU向け(同9.7%増)、東南アジア向け(同8.7%増)は3ヵ月ぶりの一桁台の伸びとなった(図表2)。

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タイ の17年9月の輸出額は前年同月比12.2%増と、前月の同13.2%増から小幅に低下したものの、5ヵ月連続の二桁増となった。輸出の伸びは電子機器や機械装置などの工業製品、天然ゴム・同製品を中心に好調が続いており、バーツ高の影響は軽微にとどまっている。一方、輸入額は前年同月比9.7%増と、前月の同14.9%増から低下した。結果、貿易収支は33.6億ドルの黒字となり、前月から12.7億ドル増加した(図表3)。

輸出を品目別に見ると、全体の約8割を占める主要工業製品は同12.5%増(前月:同12.2%増)と小幅に上昇し、好調が続いている(図表4)。工業製品の内訳を見ると、航空機・船舶・機関車(同53.1%増)や電子機器(同10.9%増)の好調が続いたほか、機械・装置(同8.3%増)や自動車・部品(同6.0%増)、石油化学製品(同6.5%増)も堅調な伸びを維持した。また農産品・加工品が同4.7%増(前月:同17.1%増)と低下した。天然ゴム(同22.4%増)やゴム製品(同37.2%増)、加工食品(同9.4%増)は引き続き好調だったものの、飲料(同0.0%増)が低調だったほか、好調だったコメ(同6.3%増)の伸びが鈍化した。鉱業・燃料は同44.8%増(前月:同19.0%増)と、石油製品を中心に上昇して2ヵ月連続の二桁増となった。

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マレーシア の17年9月の輸出額は前年同月比12.0%増と、前月の同14.2%増から低下したものの、二桁増を維持した。輸出の伸び率は宗教行事の影響で上下に振れているが、主力の電気・電子製品を中心に好調を推移している。一方、輸入額も前年同月比12.4%増と、前月の同15.0%増から低下した結果、貿易収支は20.4億ドルの黒字と、前月から2.9億ドル黒字が縮小した(図表5)。

輸出を品目別に見ると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器は同14.9%増(前月:同12.7%増)、主力の電気・電子製品(同14.8%増)を中心に上昇した(図表6)。また鉱物性燃料も同10.4%増(前月:同32.9%増)と高水準を維持した。原油(同7.3%減)が低迷する一方、石油製品(同10.4%増)と天然ガス(同5.5%増)が堅調に拡大した。一方、動植物性油脂は同4.2%減(前月:同12.9%減)とパーム油を中心に低迷したほか、化学製品が同1.2%増(前月:同8.5%増)と鈍化した。

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インドネシア の17年9月の輸出額は前年同月比15.6%増と、前月の同19.2%増から鈍化したものの、3ヵ月連続の二桁増となった。輸出の伸び率は宗教行事の影響で上下に振れているが、中国向けを中心に資源関連輸出が好調で高水準を維持している。一方、輸入額は前年同月比13.1%増(前月:同9.1%増)と前年の水準が低かったために上昇した。結果、貿易収支は17.6億ドルの黒字と、前月から0.4億ドル増加した(図表7)。

輸出を品目別に見ると、石油ガスが同35.6%増(前月:同12.1%増)と一段と上昇した(図表8)。非石油ガスでは、輸出全体の7割を占める製造品が同12.0%増(前月:同21.5%増)と鈍化した。アパレル(同16.2%増)、動植物性油脂(同23.9%増)が高水準を維持する一方、電気機械(同2.5%減)が落ち込んだ。また鉱業品は同29.6%増(前月:同16.6%増)と上昇した一方、農産品は同9.2%減(前月:同2.4%減)とマイナス幅が拡大した。

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ベトナム の17年9月の輸出額は前年同月比25.9%増と、前月の同22.8%増から上昇し、8ヵ月連続の二桁増を記録した。輸出の伸び率は昨年後半に主力の電気・電子製品が勢いを取り戻して以降、政府目標(17年は+6~7%)を上回る伸びが続いている。一方、輸入額も前年同月比24.8%増(前月:同16.9%増)と上昇した結果、貿易収支は11.0億ドルの黒字となり、前月から4.8億ドル減少した(図表9)。

輸出を品目別に見ると、輸出全体の約2割を占める電話・部品が同66.6%増(前月:同39.5%増)と一段と上昇し、6カ月連続の二桁増となった(図表10)。電話・部品の好調は年後半のモバイル新型スマートフォン発売の影響であり、当面は高水準を維持するものと見込まれる。またコンピュータ・電子部品も同33.1%増(前月:同34.4%増)と上昇し、16カ月連続の二桁増となった。アパレル関連では織物・衣類が同10.7%増(前月:同9.3%増)、履物が同18.8%増(前月:同15.5%増)と、それぞれ高い伸びを維持している。農産品ではコーヒー(同26.7%減)とコショウ(同29.2%減)が落ち込む一方、ゴム(同26.4%増)やカシューナッツ(同21.7%増)、野菜(同14.0%増)などが好調に推移している。

輸出を資本別に見ると、全体の7割を占める外資系企業が同28.6%増(前月:同24.5%増)、地場企業が同19.2%増(前月:同18.7%増)と、それぞれ上昇した。

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シンガポール の17年9月の輸出額(石油と再輸出除く)は前年同月比0.3%減(前月:同15.6%増)と低下した。これまで輸出は医薬品の不振が続くなかでも主力の電子製品と石油化学製品が好調で増加傾向を維持してきたが、9月は電子製品が大きく鈍化して4ヵ月ぶりのマイナスに転じた。この電子製品の落ち込みは一次的なものとみられるが、注意して見ておく必要はあるだろう。なお、総輸出額は前年同月比4.5%増(前月:同14.0%増)、総輸入額も同9.9%増(前月:同14.7%増)と、それぞれ低下した結果、貿易収支は40.4億ドルの黒字と、前月から1.0億ドル黒字が縮小した(図表11)。

輸出(石油と再輸出除く)を品目別に見ると、まず全体の約3割を占める電子製品は同7.3%減と、前月の同19.6%増から大幅に低下した(図表12)。電子製品の内訳を見ると、前月に二桁増を記録したIC(同3.4%減)とPC(同17.0%減)、PC部品(同0.1%増)がそれぞれ大幅に低下したほか、通信機器(同1.8%減)とダイオード・トランジスタ(同17.5%減)も低迷した。また電子製品と同じく全体の約3割を占める化学製品も同2.7%増と、前月の同14.8%増から大きく低下した。化学製品の内訳を見ると、石油化学製品が同12.4%増(前月:同30.6%増)と高水準を維持する一方、医薬品が同35.6%減(前月:同10.0%減)と一段と低下した。

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フィリピン の17年9月の輸出額は前年同月比4.3%増と、前月の同9.6%増から低下した。輸出は海外経済の回復を受けて電子製品を中心に概ね二桁増で推移してきたが、足元ではベース効果が剥落して輸出の勢いは弱まりつつある。一方、輸入額も前年同月比1.7%増(前月:同10.4%増)と低下した。結果、貿易収支は19.1億ドルの赤字と、前月から4.8億ドル赤字が縮小した(図表13)。

輸出シェア上位10品目を見ると、まず輸出全体の約5割を占める電子製品は同6.6%増と、前月の同3.3%増から上昇した(図表14)。電子製品の内訳を見ると、遠距離通信機器(同42.1%減)が大きく落ち込んだほか、電子データ処理機(同2.3%増)も伸び悩む一方、主力の半導体デバイス(同8.4%増)は堅調に拡大、計測制御機器(同14.3%増)も急上昇した。

その他9品目については金(同171.3%増)やココナッツオイル(同63.8%増)、機械・輸送用機器(同34.9%増)、金属部品(同8.2%増)、その他製造品(同6.9%増)、電子機械・部品(6.6%増)が増加した一方、化学(同28.6%減)、その他鉱業品(同25.2%減)、イグニッション・ワイヤーセット(同17.4%減)が減少するなど、総じて増加した品目が多かった。

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斉藤誠(さいとう まこと)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究員

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