もし現金をプレゼントされるチャンスがあり、今すぐ受け取るなら1万円、1年後なら2万円という条件を提示された場合、差し迫った資金の必要性もなく、また敏腕投資家で1年後に受け取った資金を2倍以上にする自信もなければ、2万円を選択する人が多いだろうと思うかもしれない。

しかし、実際には取り急ぎ資金も必要なく、短期で資金を倍にできる投資家でもないのにもかかわらず、1万円を選択する人も存在する。その選択は、行動経済学の双曲割引というモデルで捉えることができる。将来のより大きな報酬より目先の1万円を選択する背景にあるものとは。

将来の価値を割引してしまうせっかち度

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(画像=PIXTA)

双曲割引は、アメリカのジョージ・エインズリー氏によって提唱され、遠い将来は待つことができるが、近い将来は待つことができないという考えに基づいている。経済学では合理的な人間を仮定して、様々な論理を展開しているが、人間は本来、非合理的であるという立場で行動を捉えた1つが双曲割引だ。

冒頭の例の条件を少し変えて、1万円を今すぐに手にするか、1年後に受け取るかという選択になれば、前者のほうが得になる。1万円という同じ額面でも、金利がつけば、その価値は現在と1年後では異なってくるからだ。仮に金利が10%の場合、今すぐに1万円を受け取って預金すれば、1年後には利息を含めた元本は税引き前で1万1000円となる。つまり、現在の1万円は1年後には1万1000円の価値がある一方、1年後の1万円の現在の価値は、金利が年10%の状況下では9090円となる。

異なる時期のお金の価値を比較するのに用いた金利は、経済学では「割引率」と呼ばれる。冒頭の例において、1年間待てば2万円を受け取ることができるにも関わらず、今すぐの1万円を選択するということは、1年後の2万円の価値を現在の価値に置き換える際、本来の現在価値(金利10%の場合は1万8181円)より割り引いてしまっていることになる。

割引率が高いにも関わらず、目先の現金を手に入れたいという心理が働いてしまうため、割引率は人間のせっかち度を示す指標ともいえるのだ。

双曲割引は、割引率を縦軸、時間の経過を横軸にとると、時間が経過するとともに、割引率が低下する双曲線を描くことから、その名がつけられた。

現在に近い期間ほど割引率は高く、時間が経つにつれて割引率は安定しながら低下する。せっかちな気持ちを抑えて、今すぐ現金を受け取るのを我慢し、明日に先延ばしする場合、その1日の割引率の差は現在に近い期間ほど大きい。

一方、ある程度の期間を過ぎると、割引率は緩やかになり、例えば90日後か91日後のどちらかに現金を受け取るとなると、割引率の差は今日と明日の1日の差と比較すると格段に縮小し、現在から遠い期間になるほどせっかちな気持ちはそれほど変わらなくなっていく。

ダイエットや株式投資にも双曲割引

日常生活の中では、宝くじや懸賞にでも当たらない限り、割引率を考慮しながら現金をいつ受け取るのかという場面には出くわさない。

そこで、双曲割引をもう少し身近な例で考えてみよう。冷え込みが日に日に厳しくなっていくにつれて、身にまとう衣類の枚数も増え、着膨れが気になりダイエットを考えている人もいるかもしれない。来年の夏に引き締まった美しい水着姿を目指すべくダイエットを決意したものの、友人からケーキバイキングのお誘い。

今日からダイエットスタートと固く決心したにも関わらず、目の前にぶら下がるケーキの誘惑に負けて、ダイエットは明日からと先送りしてしまい、目先の利益(ケーキ)を優先し、結局ダイエットに失敗してしまうという結果になる。

同じケーキバイキングへの誘いでも、ダイエットスタートから数か月後経った後では、明日からと先送りしてしまった今日みたいには簡単には飛びつかなくなる。ダイエットのほか、禁酒や禁煙もこの類に入る。

また、投資行動にも双曲割引が適応される。上昇を続ける日経平均株価だが、すでに利益確定を急いだ投資家も多いだろう。不確実な要素は存在するものの、好調な企業業績からみれば、株価はさらに上昇する可能性も秘めているが、将来のさらなる株価上昇によって得られるかもしれない利益よりも、割引率を高くしてでも利益を確保するのは、双曲割引に沿った行動ともいえる。

人間は合理的な経済行動を実践するとした従来の経済学に対し、双曲割引で示されたような目先の1万円に飛びついてしまうような人間の判断は、限られた合理性に基づくと考える行動経済学であり、その草分けの1人ともいえる米シカゴ大のリチャード・セイラー教授が2017年のノーベル経済学賞を受賞するなど、学術の世界以外でも注目を集めている。(ZUU online 編集部)

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