最近注目されつつある「個人型確定拠出年金iDeCo」ですが、どのような特徴があるのでしょうか?所得税、住民税との関連性、運用益における税金、手取り額の計算方法などを具体的に知っていきましょう。

(本記事は、安東 隆司氏の著書『個人型確定拠出年金iDeCo プロの運用教えてあげる! 』秀和システム、2017年11月14日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

プロの運用教えてあげる,iDeCo
(画像=Webサイトより、クリックするとAmazonに飛びます)

【関連記事 プロの運用教えてあげる】
・(1) 「iDeCo」への投資で無駄な税金を抑えよう
・(2) あなたはサラリーマン・OL?自営業?主婦?タイプで決める「iDeCo」の掛け金
・(3) 「iDeCo」と組み合わせる商品を考える時の注意点

所得税、住民税が安い。掛金が全額所得控除

iDeCoの掛金は全額が所得控除の対象になります。

例として、企業年金のない会社に勤務する、会社員の場合を考えてみましょう。

掛金は月額2万3,000円、年額27万6,000円が上限の場合です。この掛金の全部が「所得控除」になります。

年間の所得が330万円超695万円以下ならば、8万2,800円も税金が安くなります(所得税20%、住民税10%として計算)。

同じ会社に勤務していても、非課税額は所得の違いで変わってきます。

所得額が900万円超1,800万円以下ならば、11万8,680円安くなります(所得税33%、住民税10%として計算)。

個人事業主はさらに非課税メリットが大きい

個人事業主の方は、iDeCoのメリットがとても大きいんです。

月額6万8,000円、年額81万6,000円の掛金を掛けることが可能です。

所得が330~695万円ならば、なんと24万4,800円も、所得900~1,800万円ならば35万880円の税金が安くなります。

しかも1回限りではなくて、掛けている間、毎年のことなんです!

ただし、iDeCoは原則として60歳になるまでは積立金を取り崩せません。

でも前向きにとらえればおろせないということもメリットと考えられます。

逆に、お金をおろせないので、お金がドンドン貯まりますよね。

公的年金は掛けた金額分を受け取るわけではありません。しかしiDeCoは自分で掛けた掛金と、その運用成果を受け取る「自分年金」です。

公的年金が将来減少するのでは、と不安を感じている人に、ぜひiDeCoを使って資産作りをして欲しいと思います。

運用益非課税で手取り額が20%お得

株式や投資信託等に投資して、運用で得した場合(運用益)、普通は20%の税金が取られます(厳密には2037年までは復興特別所得税がかかり、2017年現在は20.315%の税率です。ここでは簡易的に20%を用います)。

仮に投資信託で60万円の運用益があったとしても、その20%、12万円は税金で納めることになります。

iDeCoやNISA、つみたてNISAは運用益非課税

ところが、iDeCoやNISAを使って運用すると、運用益が非課税ですから、まるまる60万円の儲けを得ることができます。

これは運用の方法の中では最強のワザの1つだと思いませんか?

通常の証券口座と比べてみると

さて、同じ投資信託Aという商品に投資した事例を考えてみます。

従来のNISAの上限金額の600万円の10%、60万円の運用益があったと仮定します。

図表の右の欄、通常の証券口座等での税金の計算としては、60万円×20%=12万円を納める必要があります。

これに対し、iDeCoやNISAは運用益が非課税です。

12万円の税金が不要で、通常の証券口座等より12万円手取り額が増加するわけです。

受け取る時にも控除が受けられる!

iDeCoで積み立てた資金を受け取る時にも、税制のメリットがあります。

退職所得控除、公的年金等控除です。

個人事業主の方もiDeCoを使えばこのメリットを受けられます。

受け取り方法①退職所得控除をiDeCoで活用

iDeCoで積み立てた資金の受け取り方には大きく2種類あり、それぞれ税制のメリットがあります。

資金を一括で受け取る「一時金受給」では、「退職所得控除」が活用できます。

もう1つの受け取り方は、複数年にわたって受け取る「年金受け取り」で、これには「公的年金等控除」(標準的な年金額までは非課税)が活用できます。

iDeCoで積み立てた資金を一時金として受け取る場合は「勤務年数」がiDeCoの「加入年数」に置き換えられます。

退職金は会社業績の悪化や転職により不確定に勤務先が大企業などで退職金や年金制度が充実している方は、すでに退職金予定額が退職所得控除額を上回る場合もあり、iDeCoでの控除の上乗せ効果がない場合もあります。

しかし、会社が経営危機になったら退職金は大幅減額かもしれません。

また転職した場合は「自己都合退職」に退職金の減額規定がある場合、予定していた退職金の満額は受け取れない場合が多いでしょう。

iDeCoで活用できる枠があるならば、活用したほうが有利とも考えられます。

個人事業主が退職金メリットを使うには?

個人事業主の方は、「退職所得控除を利用できる」退職金を、自分から自分には出せません。

しかし、iDeCo等の制度を利用すれば可能になります。

しかも所得控除になる掛金上限が年間81万6,000円と大きな金額です。

自分の老後の生活のために、自分で決めたり管理できたりする資金をiDeCoで備えてはいかがでしょうか。

受け取り方法②公的年金等控除をiDeCoで活用

年金で受け取る場合は、控除額を控除した超過分が雑所得として総合課税の対象になります。

国民年金や厚生年金などの公的年金分もiDeCoに合算します。

一定額(控除額)を超える部分は、所得額に応じて税金がかかります。

元本保証商品もある!

今まで投資なんかやったことがない(未経験)、今までの投資で得したことがない(成功体験なし)、投資の知識がなく選ぶ商品がわからない(金融知識不足)等の理由で、投資は嫌だという考え方の人もいるでしょう。

そんな方には元本保証商品を選択するという方法があります。

iDeCoには「定期預金」や「確定拠出年金保険」といった元本保証商品があります。

NISAやつみたてNISAは「少額投資非課税制度」です。

投資が前提ですから、株式や、投資信託といった投資商品が運用の対象です。元本保証の商品はないわけです。

iDeCoは年金制度ですから、元本保証の商品もラインナップに含まれています。

所得控除のメリットを利用するために、iDeCoに加入して元本保証商品に資金を充てるという選択をすることができます。

退職金税制①勤続30年で1,500万円の退職所得控除

退職金のメリットは大まかに次の3つです。

①勤続30年ならば1,500万円まで退職所得から差し引き可能で税金が安くなる、②それを超えた部分は税金計算を半分にできる、③他の税率テーブルとは合算せず、所得税は単独で税率計算できる「分離課税」。

ちょっと難しいですね。では事例で詳しく見ていきましょう。

勤続年数1年あたり40万円、勤続20年を超えると1年あたり70万円が退職金から差し引き可能な「退職所得控除」になります。

勤続20年×40万円=800万円、さらに10年勤務すると70万円×10年=700万円となり、勤続30年ならば1,500万円の退職所得控除となります。

②2,500万円を勤続30年の方が受け取った場合、退職所得控除額は1,500万円でした。

控除した残りは2,500万円~1,500万円=1,000万円ですが、退職金の場合はこれを2分の1にしてよいことになっています。

50%オフです!すなわち1,000万円÷2=500万円という計算となります。

③他の所得が450万円あった場合を考えてみましょう。

普通ならば450万円+500万円=950万円となり、所得税は23%となるわけですが、退職金の場合は別々に計算することができます。

450万円の所得テーブルで20%、退職部分500万円も20%として、結果的に950万円が23%でなく20%の所得税率で計算できます。これが分離課税です。

50歳以上のiDeCo加入は受け取り年齢に注意

iDeCoは原則60歳まで引き出せません。加えてもう1つの注意があります。

それは加入期間が10年未満の場合に、受け取りの開始年齢が61歳や65歳になることがあるのです。

10年以上の加入期間がある方は、60歳から70歳の間で、受け取り時期を決めることができます。

加入期間が8年以上10年未満の場合は、61歳から70歳の間で受け取り開始というように、60歳よりも高い年齢での受け取り開始となります。

50歳を超えてiDeCoに初めて加入する方は、加入期間10年未満となります。

受け取り開始年齢を事前に知って、老後のプランの参考にしてください。

金融機関を選ぶときにはここを見て!

iDeCoを紹介した本の多くが「商品ラインナップを見て、金融機関をまず決めましょう」となっていますが、これには落とし穴があります。

運用の奥義「コストと運用リターン」の関係をまず教えちゃいます。

コストとリターンの関係を理解する

iDeCoに限らず運用を始める人、運用をすでに始めている人に知って欲しいことがあります。 それは「運用コストとリターンの関係」です。

結論からお話ししますと、高い運用コストは負ける確率を上げます。

日本での運用のイメージをざっくりと説明します。

100万円を仮に3.00%で運用できたとします。まず運用開始時点で3.20%の販売手数料が差し引かれます。

1年間で運用元本から差し引かれる信託報酬を1.53%とすると、結果として100万円で運用開始したものが、98.2万円になってしまいます。

投資信託選択のポイント①運用コストで比較する

覚えて欲しいことは、商品の数の多さでなく信託報酬の低い投信を多くラインナップしている金融機関から選ぶということでした。

ここでは投資対象が日本株のもの、外国株のものを例にとって、iDeCoの運用コストについて、教えちゃいますね。

信託報酬の違いによるリターンの比較

iDeCoの運用商品の運用スタイルには、大きく分けてアクティブ型とインデックス型があります。初めて聞く言葉かもしれませんね。

まずアクティブ型はコスト高、平均より高いリターンを狙う投信、インデックス型はコスト安、平均通りのリターンを狙う投信、とざっくりイメージしてくださいね。

実際のiDeCoの商品ラインナップの中から、一例をあげてみました。

この事例の日本株カテゴリーではコストの高いアクティブ型のトータル・リターンが14.64%で、コストの安いインデックス型のトータル・リターン15.89%を下回っています。

次に外国株カテゴリーです。この事例ではコストの高いアクティブ型のトータル・リターンが11.58%で、コストの安いインデックス型のトータル・リターン15.78%を下回っています。

この事例では日本株カテゴリーで1.25%、外国株カテゴリーで4.20%のリターンの差がありました。

高い信託報酬を払ったから、それだけリターンが高くなるとはいえないようです(iDeCoのすべてのアクティブ型、インデックス型の比較を意図したものではありません)。

実は大きな「信託報酬」のインパクト

iDeCoの運用は1年だけではありません。ならば長い期間運用する前提で、投信のコストも長期保有した場合を考えたほうがよいですよね。

信託報酬は毎年かかるコストで、影響が大きいことを知ってください。

1年だけで比較すると、事例では信託報酬の違いは年間5,000円くらいです。でも、5年間積み立てた後で、仮に投信の運用額が138万円になっていたら、信託報酬の違いは2万6,000円近くになるんですよ。

5年間でこの水準ですから、10年、20年、30年iDeCoとつきあう方は、投信の信託報酬コストの違いを絶対に理解してくださいね。

投資信託選択のポイント②中身と規模の大きさ

iDeCoの投信選びで、気をつけて欲しいことがまだあります。

名前のイメージとは違うコスト高の場合もありますし、規模の大きさにも注意して欲しいです。

「DC専用」「DC年金用」より実際のコスト

iDeCoは個人型確定拠出(きょしゅつ)年金のことでした。

iDeCoという愛称ができる前は「個人型DC」や「個人型401K」と呼ばれていました。 DCは確定拠出や、確定拠出年金を意味します。

インデックス型投信を選ぶ時に、「DC専用」や「DC年金用」、「確定拠出年金」という名称が付いていると、何となくコストも安くて選んで大丈夫、とイメージしがちですが、必ずしもそうではありません。

DC専用やDC年金用といった名称ではなく、中身である実際の信託報酬等のコストで選んでください。

純資産額、投信の規模の大きさを考慮する

投資信託の規模もある程度以上の大きさが必要です。

投資信託を安定的に運用するためには30億円以上の規模(純資産額)がある投信を選んだほうが無難でしょう。

なぜなら投信の中には純資産額が10億円を下回った場合に、運用を中止する手続きを定めている場合もあるからです。

商品パンフレット作成をイメージしてください。パンフレット作成時に広告の規制に違反しないかを弁護士に確認したり、デザインやイラスト、図表や文章作成を外注する費用は同じです。

パンフレットを3000枚使う場合と、10枚しか使わない場合で1枚あたりのコスト効率はまったく違ってきますよね。

株式やETFでは流動性も大事

キャラクターの世話をして育てる楕円形のゲームが大ブーム、高くても買いたい人が増え、価格が高騰しました。

しかし、ブームが終わると在庫は積み上がり、取引価格は大幅に下落しました。売りたくても買い手がいない状況です。

「取引量が多い」状況では売り買いがしやすいですよね。

売りたいのに、買い手がいないと叩き売り状態になるかもしれません。結果的に値段の変動が大きくなるかもしれません。

換金のしやすさを「流動性」といいます。

取引量が少ないと、売却換金時に思わぬ価格となる場合に注意しましょう。

コスト高のアクティブ運用だとたくさん儲かるか

指数に連動するインデックス運用に対して、「指数を上回ることを目的とする」ことがアクティブ運用となります。

積極的(=アクティブ)にインデックス(比較のために使う指標)を上回る運用ということですね。

ならばアクティブ運用のほうが儲かるだろうって?一般的にアクティブ型投信は手数料がインデックス型よりも高く設定されています。

先ほどの事例でも、インデックス型とアクティブ型の信託報酬の差が1%以上あることはよくあるという話をしました。

えっ?手数料が高いんだから、たくさん儲かるハズ?ですか?普通はそう思いますよね。

「優秀なアナリストが調査をしていますから、その分信託報酬が高いんです」「優秀なファンド・マネージャーがプロとしてついていますから」というような説明で、その投信がいかにも優秀であるようなイメージのセールスをされることも少なくないでしょう。

iDeCo運用にかかるコスト

iDeCoの費用で「手数料無料」って宣伝している金融機関も多いですね。でも、実は無料になるのは一部だけで、すべて無料になるわけではありません。

iDeCoには様々な手数料があります。その内容を教えちゃいます。

手数料無料はiDeCoの一部の手数料

お客様がiDeCoの口座開設をして、実際に運用する金融機関(銀行、証券会社、保険会社等)を「運営管理機関」といいます。

特に2017年5月以後、「手数料無料」と宣伝する金融機関が増えましたが、iDeCoの手数料が完全に無料になるわけではありません。

金融機関が「無料」とうたっているのは「運営管理機関」の手数料である場合が多いです。

年金で受け取る場合のスケジュール

iDeCoを将来、分割して受け取る「老齢年金方式」について説明します。

まず期間ですが、5年以上20年以下の期間で受け取ります。

7年と6か月といった、月単位ではなく、年単位での受け取りになります。

次に受け取りの回数です。これは運営管理期間(金融機関)によって設定が異なっています。

年1回、年2回、年4回、年6回等です。毎月受け取り(年12回)は設定がない金融機関もありますよ。

また、加入時と将来の受け取る時点で規定が変わることは十分に考えられますね。

受け取る際に「振込手数料」がかかる

毎月年金を受け取りたいと考える人には、その都度「振込手数料」がかかってしまいます。

仮に1回あたり432円の振込手数料で毎月受け取り(12回)なら、5,184円かかってしまいます。費用の面も検討してみてください。

公的年金の受け取りスケジュールを知っておきましょう

iDeCoは「自分で積み立てる、私的年金」でしたが、「公的年金」の受け取るスケジュールを確認しておきましょう。

毎月ではなくて、2か月分がまとめて年6回払われます。

2月、4月、6月、8月、10月、12月の15日(土日、祝日の場合は前営業日)に振り込まれます。

iDeCo一時金を先に受け取るとお得に?

会社の退職金を60歳で受け取り、iDeCoを66歳で受け取りました。

iDeCoの場合は「一時金を受け取った前年以前14年」の間に他に退職金を受けた場合は、重複期間に受け取った退職金に係る退職所得控除は、調整する必要があります。

その結果、2回目のiDeCoの一時金の時には、退職所得控除が少額となる場合も考えられます。

iDeCo一時金を60歳で受け取り、会社の退職金を6年空けて66歳で受け取りました。 会社の退職金の重複期間は「前年以前4年」であり、iDeCo一時金受け取りがそれ以前ならば重複期間の退職所得控除を調整する必要はありません。

iDeCo一時金受け取り時に20年の控除、退職金受け取り時に30年の控除が使える場合も考えられるわけです(実際にプラン実行前には税理士など専門家にご確認ください)。

安東 隆司(あんどう・りゅうじ)
おカネ学株式会社(RIA JAPAN)代表取締役。CFP(R)。
1989年、立教大学社会学部卒業後、三和銀行(現・三菱東京UFJ銀行)へ入行。三菱東京UFJ銀行、三菱UFJメリルリンチPB証券(出向)、ソシエテジェネラル信託銀行(現・SMBC信託銀行)と、日米欧の銀行、証券、信託銀行で26年(うちプライベートバンカーとして15年)勤めたのち独立。2015年8月、投資助言業(内閣総理大臣登録)を主たる事業とするおカネ学株式会社を設立。販売手数料(コミッション)を目的にしない、世界的潮流である「預かり資産管理」(フィーベース)のビジネス(RIA)を行う。