結果の概要:雇用増加数は前月、市場予想を上回る
2月2日、米国労働省(BLS)は1月の雇用統計を公表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+20.0万人の増加(*1)(前月改定値:+16.0万人)となり、+14.8万人から上方修正された前月改定値からさらに伸びが加速、市場予想の+18.0万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)も上回った(後掲図表2参照)。
失業率は4.1%(前月:4.1%、市場予想:4.1%)と前月、市場予想に一致した(後掲図表6参照)。一方、労働参加率(*2)も62.7%(前月:62.7%)と前月、市場予想に一致した(後掲図表5参照)。これで失業率、労働参加率ともに4ヵ月連続で同水準となった。
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(1)季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
(2)労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。
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結果の評価:漸く賃金上昇率に加速の兆し
1月の非農業部門雇用者数は、10-12月期の月間平均増加数である+21.6万人増のペースからは鈍化したものの、17年通年の同+18.1万人増を上回っており、18年入り後も堅調な雇用の伸びが持続していることを示した。
家計調査は、失業率、労働参加率ともに4ヵ月連続で同水準となっており、労働需給がタイトである状況は持続しているものの、このところ回復は足踏み状態となっている。
一方、1月の雇用統計で注目すべき点は、賃金上昇率の大幅な加速である。時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比+0.3%(前月改定値:+0.4%、市場予想:+0.2%)と、+0.3%から上方修正された前月改定値は下回ったものの、市場予想を上回った。さらに、前年同月比が+2.9%(前月改定値:+2.7%、市場予想:+2.6%)と、+2.5%から上方修正された前月改定値を上回ったほか、市場予想も大幅に上回った(図表1)。これは09年6月以来の水準である。
このようにみると、1月の雇用統計は家計調査の改善こそ足踏みしているものの、堅調な雇用増加が持続している中で、これまで捗捗しくなかった賃金の回復に弾みがつく可能性を示唆する内容であったと言えよう。今回の雇用統計を受けて米株式市場は大幅に下落したものの、今後株式市場が安定を取り戻せば、3月のFOMC会合での利上げは決定的とみられる。さらに、FOMC会合前に発表される2月の雇用統計でも賃金の堅調な伸び確認されれば、次回会合で政策金利見通しが上方修正される可能性が高い。
事業所調査の詳細:小売業の雇用が回復
事業所調査のうち、非農業部門雇用増の内訳は、民間サービス部門が前月比+13.9万人(前月:+11.1万人)となった(図表2)。
サービス部門の中では、医療サービスが前月比+2.1万人(前月:+3.3万人)と前月から伸びが鈍化した一方、小売業が+1.5万人(前月:▲2.6万人)と前月から増加に転じた。専門・ビジネスサービス+2.3万人(前月:+2.5万人)や、娯楽・宿泊サービス+3.5万人(前月:+3.7万人)など、多くの部門では前月並みの伸びを維持した。
財生産部門は、前月比+5.7万人(前月:+5.5万人)と前月から小幅ながら伸びが加速した。製造業が+1.5万人(前月:+2.1万人)と前月から伸びが鈍化したもの、建設業が+3.6万人(前月:+3.3万人)、鉱業関連も+0.5万人(前月:+0.1万人)と前月から伸びが加速した。
政府部門は、前月比+0.4万人(前月:▲0.6万人)と前月からプラスに転じた。内訳をみると、州・地方政府が▲0.1万人(前月:横這い)と前月からマイナスに転じたものの、連邦政府が+0.4万人(前月:▲0.6万人)と前月からプラスに転じて全体を押上げた。
前月(12月)と前々月(11月)の雇用増(改定値)は、前月が+16.0万人(改定前:+14.8万人)と+1.2万人上方修正された一方、前々月が+21.6万人(改定前:+25.2万人)とこちらは▲3.6万人下方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は▲2.4万人の下方修正となった(図表3)。また、今月は昨年の年次改定値も発表され、昨年の雇用増加数が月平均で+1.0万人上方修正された(図表3)。
なお、BLSの公表に先立って1月31日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増が前月比+23.4万人(前月改定値:+24.2万人、市場予想:+18.5万人)と、+25.0万人から下方修正された前月をさらに下回ったものの、市場予想を大幅に上回った。1月は前月から雇用者増加ペースが加速した雇用統計と、ADP社の統計は不整合な動きとなった。
1月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が26.74ドル(前月:26.65ドル)となり、前月から+9セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.3時間(前月:34.5時間)とこちらは前月から▲0.2時間の減少となった。その結果、週当たり賃金は917.18ドル(前月:919.43ドル)と前月から増加した(図表4)。
家計調査の詳細:労働力人口は3ヵ月連続で増加
家計調査のうち、1月の労働力人口は前月対比で+18.5万人(前月:+6.4万人)と、3ヵ月連続で増加したほか、伸びが加速した(*3)。内訳を見ると、就業者数は+9.1万人(前月:+10.4万人)と前月から小幅ながら伸びが鈍化した一方、失業者数が+9.3万人(前月: ▲4.0万人)と前月からプラスに転じるなど、失業者数の増加が労働力人口を押上げた。一方、非労働力人口は▲0.1万人(前月:+9.6万人)とこちらは4ヵ月ぶりの減少となった。この結果、労働参加率は、小数第1位まででは4ヵ月連続で同水準となったものの、小数第2位までとれば62.74%(前月:62.71%)と小幅ながら改善したことが分かる(図表5)。
一方、失業率について、小数第2位までとると1月は4.15%(前月:4.10%)と、こちらは労働参加率とは対照的に前月から上昇した(図表6)。
次に、1月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は、142.1万人(前月:151.5万人)となった。また、長期失業者の失業者全体に占めるシェアは21.5%(前月:22.9%)となった。一方、平均失業期間は24.1週(前月:23.6週)とこちらは小幅ながら前月から長期化した(図表7)。
最後に、周辺労働力人口(165.3万人)(4)や、経済的理由によるパートタイマー(498.9万人)も考慮した広義の失業率(U-6)(5)をみると、1月は8.2%(前月:8.1%)と前月から+0.1%ポイント上昇した(図表8)。これで上昇は2ヵ月連続となった。一方、通常の失業率(U-3)と広義の失業率(U-6)の差は4.1%ポイント(前月:4.0%ポイント)と、こちらも2ヵ月連続で上昇となった。
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(3)2018年から人口推計を変更しているため、2017年と断層が生じている。ここで記載している労働力人口、就業者数、失業者数、非労働力人口はこの断層を調整した後のもの
(4)周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
(*5)U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
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窪谷浩(くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員
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