ハンバーガー各社の積極展開が相次いでいる。内外顧客の獲得を通して、企業価値向上を実現するカギを握るのは、クレジットカード決済の導入や、無料Wi-fi・電源コンセントの完備などの利便性向上とともに、魅力的なメニューを開発して客単価を引き上げ取り組みだ。
ハンバーガー事業を有望視し再生に乗り出した企業
ドムドムバーガーは2017年12月8日、6年ぶりに新店・厚木店をオープンした。小田急小田原線本厚木駅北口(神奈川県厚木市)から程近い場所に位置しており、店内全席に電源コンセント、無料Wi-fiを備え、利便性を高めた。ドムドムバーガーは1969年6月の会社設立以来長らくダイエー傘下にあったが、2017年7月1日、レンブラントホールディングス(HD)傘下の「ドムドムフードサービス」に譲渡された。レンブラントHDのプレスリリース「事業譲受に関するお知らせ」の中で、2021年3月期までに19店の新規出店の計画が明記されていることからも、同社がハンバーガー事業を有望とみなしていることが見て取れる。
ダイエー傘下時代のドムドムバーガーは売上が低迷していたが、経営主体の変更で、オールドファンの呼び戻しと、新規顧客の獲得につながるか注目される。
「マクドナルド」クレジット決済導入に対する顧客の反応は
ドムドムバーガーに限らず、ハンバーガー各社の出店増は大きな潮流となりつつある。日本マクドナルドHDは、メニューの改革とともに、電子マネーやクレジットカード決済の拡大により利便性向上を高めた(同社「平成29年12月期決算短信」より)。
決済手段拡大の狙いとして同社は、日本人顧客のみならず、2020年東京オリンピックに向けて増加が見込まれる訪日外国人客に対する利便性提供を掲げている(同社ニュースリリース「~もっと便利な「店舗体験」を国内や海外からのお客様に~」より)。クレジットカード決済導入について、事業子会社の日本マクドナルドに聞いたところ、「お客様から便利になったというお声を頂いている」(広報部)と顧客から好評価を得ていることを明かす。
また、日本マクドナルドHDが2018年2月13日に発表した「2017年12月期 通期決算発表」の中で明記された新規出店増の狙いについて、日本マクドナルド広報部は「顧客の利便性向上を図ることに主眼がある」と説明する。同社の「平成29年12月期 決算短信」には、当期純利益が過去最高の240億円(前期比+347.6%)となったこと、および2018年度末までに90%以上の店舗のモダン化(筆者注:改装のこと)を進めることが明記された。積極策を打ち出すことで顧客満足度向上を通じた顧客の囲い込みを進め、競争に勝ち残る狙いが透ける。
明暗分かれたマックと競合他社 他社も反転攻勢に舵切り
他社も続々と積極策に舵を切る。現状維持を続けていては、日本マクドナルドとさらに差が開きかねない懸念が背景にあると推察される。販売不振で一度日本から撤退後再参入した米バーガーキングは日本での運営権を投資ファンドに譲渡し、出店拡大に打って出る。店舗数は98(同社ホームページ「店舗紹介」より筆者計算)に留まっており、日本マクドナルドの2911店に大きく水をあけられているが、反転攻勢に転じる。
ファーストキッチンは同業のウェンディーズ・ジャパンの傘下となったことを機に、ファーストキッチンとウェンディースのコラボ店が増えている。一方、1351店舗を運営する業界2位のモスバーガーは2017年度下期は客数減に沈んでおり、テコ入れが急務となっている。メニュー改革や店舗戦略の積極化を進めて好業績につなげた日本マクドナルドとは対照的だ。
ハンバーガー各社が積極策に転じる背景には、「マクドナルド」が大々的な積極策を打ち出していること、知名度が高く訪日外国人客を誘致できるハンバーガーという「コンテンツ」のポテンシャルに活路を見い出していることがある。人口減少による国内顧客減少が確実となる中、競争に乗り遅れたら生き残れないという危機感が各社の背中を後押ししていることは間違いない。
内外の顧客の獲得を通して、企業価値向上を実現するカギを握るのは、クレジットカード決済の導入や、無料Wi-fi・電源コンセントの完備などの利便性向上とともに、魅力的なメニューを開発して客単価を引き上げる取り組みだ。今後もハード・ソフトの両面での魅力向上競争がますます加速しそうである。
大塚 良治
1974年生まれ。博士(経営学)。総合旅行業務取扱管理者。運行管理者試験(旅客)合格。インバウンド実務主任者。広島国際大学講師等を経て、湘北短期大学准教授(現職)。江戸川大学非常勤講師(観光まちづくり論・地域経営論担当)、松蔭大学非常勤講師(監査論担当)を兼務。企業分析の視点であらゆる業界を考察する記事を執筆。著書に『「通勤ライナー」 はなぜ乗客にも鉄道会社にも得なのか』(東京堂出版)。