FinTech(フィンテック)といえば、アメリカや中国を思い浮かべる人もいるかもしれません。実は今、インドのフィンテック市場が急速に拡大しています。スタートアップ企業が数多く生まれ、グローバル企業による投資も加熱するなど、業界の動きが激しくなっています。インドのフィンテック事情をつかむことで、新たな投資やビジネスのチャンスを見出せるかもしれません。インドのこれまでの政策と今後について一緒にみてみましょう。

インドのフィンテック導入率は世界2位に急伸

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(写真=Alexander Image/shutterstock.com)

「世界4大会計事務所」の一つであるEY(アーンスト・アンド・ヤング)が2017年に出した報告書「EY FinTech Adoption Index 2017」では、世界20ヵ国の市場におけるフィンテック導入率を一覧化しています。2017年段階のインドの導入率は52%と過半数に達しており、69%の中国に次いで世界第2位につけています。ちなみに、日本はわずか14%にとどまっており、まだフィンテックの普及は「アーリーアダプター」の層に限られているとの結果が出ています。

同報告書では、インドや中国などといった新興国でフィンテック導入率が高い理由を、「フィンテック企業は、新興国で人口のうち大きな割合を占めている、テクノロジーへの理解はあるものの金融サービスを十分に受けられていない人々の間へ入り込むのに長けているから」と述べています。フィンテック企業は、ただ既存の業界の中で存在感を示すだけではなく、「金融サービスのベンチマーク」として確立されつつあると、EYは考えています。

フィンテック普及の基盤となったアドハー(Aadhaar)

インドは2009年に、ヒンディ語で「礎」や「基礎」を意味するアドハーという国民IDシステムの運用を開始しました。これは、国民一人ひとりに12桁の番号を割り当て、指紋と虹彩を登録して本人認証に用いるもので、日本のマイナンバーのようなイメージのものです。

インドでは、身分証明や本人確認ができない、自分の名前を書くことが困難であるとのことから、本来受けられるさまざまなサービスを受けられない人たちがいました。アドハーに無料で登録しさえすれば、本人確認が可能になり、行政サービスや社会保障を受けられるようになります。これに気づいた国民たちがこぞって登録を行い、2016年にはアドハーの登録者数は10億人を突破しています。これは、人口の80%以上にのぼる数字です。

アドハーは銀行口座開設の促進にも繋がりました。モディ政権は2014年8月に国民皆銀行口座プロジェクトである「プラダン・マントリ・ジャン・ダン・ヨジャナ」という施策を掲げました。銀行口座開設を行えば、5,000ルピーまでの与信枠があるデビットカード、口座を持っている人の家族に対して10万ルピーまでの保険の適用があるなどの特典を説明しました。また、社会保障などの補助金は振込決済にて行われるため、アドハーに登録した人たちが続々と銀行口座の開設を行いました。1週間で1,800万件の口座開設が行われ、翌年1月にはギネス記録にも登録されています。

口座開設件数は、2014年8月時点では翌年の2015年の1月26日(共和国記念日)までに7,500万口座を開設するという目標でしたが、2014年の11月には7,500万口座を達成し、2015年1月にはとうとう1億口座を突破するという破竹の勢いでした。インドでは今や3億もの口座開設が行われていると言われています。

このように、アドハーの普及は銀行口座開設数の増加をもたらし、フィンテックの基盤作りに一役買ったといえるのです。

モディ政権が掲げる「デジタル・インディア」がフィンテックの後押しに

2014年に政権を奪取したモディ首相は、「デジタル・インディア」というスローガンを掲げています。これは、2014年から2018年の5年間の間に1兆1,300億円ルピーを投資し、行政サービスを電子化しようという計画です。これは、「全国民に対する公共サービスとしてのインフラの提供」「行政サービスのオンデマンド化」「国民のデジタルエンパワメント化」の3つにポイントが絞られています。これを細分化すると、9個の成長分野に分かれます。

・ブロードバンド整備
・ユニバーサルアクセスに向けたモバイルコネクティビティ
・公衆インターネットアクセス拠点の整備
・電子政府
・サービスの電子的提供
・オープンデータプラットフォーム・政府のソーシャルメディア活用
・国内での電子機器製造
・ICT関連産業の雇用創出
・全大学におけるWi-Fi構築
(上記の9個の成長分野は総務省平成28年版 情報通信白書より)

デジタル・インディア計画では下記のことが実施されています。

・文書管理システム「デジタル・ロッカー・システム」の誕生
・「国家奨学金ポータル」の開設
・インドの人々が政策の情報を見て、提案ができるWebサイト「MyGov.in」の開設
・電子窓口システム「eSamparkデータベース」の開設
・アドハーを利用した年金受給者向け証明システム「Jeevan Pramaan」
・アドハーを利用した「生体認証勤怠管理システム(BAS)」

さらに、2016年4月には、非営利企業である国立決済機構(NPCI)が新たな決済・送金サービスを開始しています。このサービスでも、即時決済サービスやモバイルウォレットなど、最先端テクノロジーを用いた金融インフラの構築を目指しています。

高額紙幣廃止はフィンテックの本格的な導入?

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(写真=Alexander Image/shutterstock.com)

インドのデジタルエコノミーへの転換を象徴する出来事が、2016年11月にモディ首相が記者会見で「今晩12時から500ルピー札と1,000ルピー札を廃止する」と宣言したことでしょう。これはマネーロンダリングや汚職、脱税、偽札といった「ブラックマネー」対策だと言われていますが、キャッシュレスの国への転換、いわゆるデジタルエコノミーを本格的にスタートさせる合図だったのかもしれません。

一時的にATMに人だかりができ、現金が不足してしまうなどの混乱は起こりました。しかし、これにより、人々は電子マネーでの決済を行うようになったのです。実際、プリペイド式決済のモバイルウォレット(電子マネー)の取扱高は2016年11月(33億ルピー)から2017年7月(69億ルピー)にかけて2倍以上に増加しています。

インドにも訪れる仮想通貨の波 もう一つ興味深いのは、高額紙幣廃止以後、インドでは仮想通貨、特にビットコインに注目が集まるようになったと言われていることです。ビットコインは送金時に送金手数料を抑えられ、国内外にも送金できることがメリットだとされています。実は、インド最大の音楽フェスティバルの一つである「Ziro Music Festival」では決済額トータルの1%がビットコイン決済だったと報告されています。

また、インドのオンライン決済会社の大手のビルデスクが仮想通貨取引所コイノミー(Coinome)を開設しました。今後1年間で20の仮想通貨の取引が行えるようにすると述べており、インドにおける仮想通貨の需要は高まりを見せています。一方で、インド政府や中央銀行は仮想通貨について懐疑的な見方をしており、今後の様相を注視する必要はあるでしょう。

とはいえ、インドは旧態依然とした現金取引中心の社会からキャッシュレス社会へと急速に変化しようとしていることは間違いありません。

グローバル企業の進出でインドは世界一のフィンテック大国へ

国家的な後押しだけでなく、スタートアップ企業の登場やグローバル企業のインド進出といった民間企業の動きも、インド社会のフィンテック化を推し進める要因となっています。

前述のデジタル・インディア構想の一環として、インド政府は自らの行政サービスをAPIとして民間に開放しています。これにより、民間企業によるサービス開発の促進が期待されています。小規模なスタートアップ企業でも、APIを活用しながら経営資源を特定のサービス開発に集中できる体制が整っていると言えます。

フィンテックに対する投資も盛り上がっています。EY同様に「世界4大会計事務所」の一角を占めるPwC(プライス・ウォーターハウス・クーパース)の調査によると、2014年に1億6,300万ドルだった投資額は、2015年に10倍近くの15億8,000万ドルに達しました。ブレグジットや為替変動などといった経済的な不安要素もあり、2016年には3億8,800万ドルにまで後退しましたが、それでも2014年の2.5倍ほどに膨れ上がっています。

特筆すべきは、中国のアリババグループの関連会社であるアント・フィナンシャルが、インドのモバイル決済最大手「Paytm(ペイティーエム)」を運営するワン97コミュニケーションズに最高9億ドルを投資したことです。2017年には、ソフトバンクが約16億ドルもの投資を決めるなど、大規模な投資が相次いでいます。

インドの金融インフラは、急速に整いつつあります。しかし、それでも全人口が公的な金融サービスの恩恵を受けるに至っているわけではなく、まだ発展の余地は大きいとみています。PwCは、インドの電子決済サービスの市場が2016年の500億ドルから、2020年には5,000億ドルにまで発展すると予測しています。また、EYはフィンテック導入率が将来的には80%に達し、中国を抜いて世界一になるとしています。

インドが世界一のフィンテック大国になる日が来るかもしれない 現状と将来予測を踏まえると、インドが急速に「世界一のフィンテック大国」へ近づきつつあると考えられます。インターネットユーザーが人口の33%、スマートフォンの利用率が30%弱とされており、通信インフラや情報技術が今後整備されれば、ビジネス面でも生活面でもより一層のフィンテック化が期待されます。こうしたインドのフィンテックに関する動向を注視することで、新たなチャンスが見出せる可能性があるのではないでしょうか。(提供:J.Score Style

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