結果の概要:雇用増加数は前月、市場予想を大幅に上回る
3月9日、米国労働省(BLS)は2月の雇用統計を公表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+31.3万人の増加(*1)(前月改定値:+23.9万人)となり、+20.0万人から上方修正された前月改定値からさらに伸びが加速、市場予想の+20.5万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)を大幅に上回った(後掲図表2参照)。
失業率は4.1%(前月:4.1%、市場予想:4.0%)と市場予想を上回り、5ヵ月連続で横這いとなった(後掲図表6参照)。一方、労働参加率(*2)は63.0%(前月:62.7%、市場予想:62.7%)と前月、市場予想を上回り、こちらは5ヵ月ぶりの改善となった(後掲図表5参照)。
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(1)季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
(2)労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率
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結果の評価:賃金上昇率は堅調も前月から伸びが鈍化
2月の非農業部門雇用者数が16年7月(+32.5万人)以来の大幅な増加となった結果、18年の月間平均増加ペースは27.6万人増となり、17年10-12月期の22.1万人増、17年通年の18.2万人増を上回るペースとなった。このため、雇用増加期間が長期化しているにも拘らず、依然として雇用増加ペースは強いと言える。
家計調査は、失業率こそ5ヵ月連続で同水準に留まり回復が足踏みしているものの、労働参加率が就業者数の大幅な増加を背景に5ヵ月ぶりに増加に転じており、労働需給の改善基調が持続していることを示した。
一方、1月に予想を上回る伸びを示したことから、注目された2月の時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比+0.1%(前月値:+0.3%、市場予想:+0.2%)と前月を下回ったほか、市場予想も下回った。さらに、前年同月比も+2.6%(前月改定値:+2.8%、市場予想:+2.8%)と、+2.9%から下方修正された前月改定値、市場予想を下回った(図表1)。このため、賃金上昇率は堅調であるものの、加速する兆候はみられない結果となった。
このようにみると、2月の雇用統計は力強い雇用増加に加え、家計調査でも労働参加率が改善したものの、賃金上昇率の加速はみられなかったことから、米国ではインフレ率が加速することなく、緩やかに景気が回復する「適温経済」が持続してことを示す結果と言えよう。
3月20~21日にFOMC会合が予定されているが、2月の雇用統計の結果を好感し資本市場も安定していることから、FRBは市場の予想通りに0.25%の追加利上げを実施するとみられる。
事業所調査の詳細:小売業、建設業が堅調な伸び
事業所調査のうち、非農業部門雇用増の内訳は、民間サービス部門が前月比+18.7万人(前月:+16.6万人)となった(図表2)。
サービス部門の中では、情報関連が前月比▲1.2万人(前月:▲1.6万人)と3ヵ月連続の減少となったほか、娯楽宿泊サービスも+1.6万人(前月:+3.9万人)と前月から伸びが鈍化した。一方、人材派遣業が+2.7万人(前月:▲0.3万人)と増加に転じたこともあって専門・ビジネスサービスが+5.0万人(前月+3.3万人)と前月から伸びが加速したほか、小売業も+5.0万人(前月:+1.5万人)と伸びが大幅に加速した。
財生産部門は、前月比+10.0万人(前月:+7.2万人)と前月から伸びが加速し、98年8月(+18.2万人)以来の増加となった。製造業が+3.1万人(前月:+2.5万人)と前月から伸びが加速したほか、建設業が+6.1万人(前月:+4.0万人)と大幅な増加となった。
政府部門は、前月比+2.6万人(前月:+0.1万人)と前月から伸びが加速した。内訳をみると、連邦政府が▲0.7万人(前月:+0.4万人)とマイナスに転じたものの、州・地方政府が+3.3万人(前月:▲0.3万人)と大幅なプラスに転じ、政府部門の雇用増加に貢献した。
前月(1月)と前々月(12月)の雇用増(改定値)は、前月が+23.9万人(改定前:+20.0万人)と+3.9万人上方修正されたほか、前々月が+17.5万人(改定前:+16.0万人)とこちらも+1.5万人上方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は+5.4万人の上方修正となった(図表3)。
なお、BLSの公表に先立って3月7日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増が前月比+23.5万人(前月改定値:+24.4万人、市場予想:+20.0万人)と、+23.4万人から上方修正された前月改定値は下回ったものの、市場予想は上回った。2月は前月から雇用者増加ペースが大幅に加速した雇用統計と、減速したADP社の統計は不整合な動きとなった。
2月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が26.75ドル(前月:26.71ドル)となり、前月から+4セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.5時間(前月:34.4時間)と、こちらは34.3時間から+0.1時間上方修正された前月からさらに+0.1時間増加した。その結果、週当たり賃金は922.88ドル(前月:918.82ドル)と前月から増加した(図表4)。
家計調査の詳細:労働参加率は5ヵ月ぶりに増加
家計調査のうち、2月の労働力人口は前月対比で+80.6万人(前月:+18.5万人)と、前月から伸びが大幅に加速した。内訳を見ると、失業者数が+2.2万人(前月:+9.3万人)と前月から伸びが鈍化した一方、就業者数が+78.5万人(前月:+9.1万人)と前月から大幅に伸びが加速し、労働力人口を押上げた。一方、非労働力人口は▲65.3万人(前月:▲0.1万人)とこちらは2ヵ月連続の減少となった。このため、労働参加率は5ヵ月ぶりに増加に転じたが、職探しを諦めて労働市場から退出した人が、職探しを再開して労働市場に再参入した影響が大きいとみられる(図表5)。
一方、失業率は5ヵ月連続横這いとなったものの、小数第2位までとると2月は4.14%(前月:4.15%)と、こちらも小幅ながら前月から低下した(図表6)。
次に、2月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は、139.7万人(前月:142.1万人)と前月から▲2.4万人減少した。また、長期失業者の失業者全体に占めるシェアも20.7%(前月:21.5%)と、前月から▲0.8%ポイント低下した。一方、平均失業期間は22.9週(前月:24.1週)とこちらも前月から▲1.2週短期化した(図表7)。
最後に、周辺労働力人口(160.2万人)(3)や、経済的理由によるパートタイマー(516.0万人)も考慮した広義の失業率(U-6)(4)をみると、2月は8.2%(前月:8.2%)と前月から横這いとなった(図表8)。一方、通常の失業率(U-3)と広義の失業率(U-6)の差は4.1%ポイント(前月:4.1%ポイント)と、こちらも前月から横這いとなった。
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(3)周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
(4)U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
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窪谷浩(くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員
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